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カカの天下  作者: ルシカ
402/917

カカの天下402「サユカの任務、ちゅー編」

「そろそろサユカンの家だね」


「だねー。いるかなー」


 ちわ。春休みに入ってもいつもどおりにサエちゃんと一緒に歩いてるカカです。


 そう、いつもどおり遊ぶはずだったんです。いつもの……三人で。 


 なのにもう一人はいません。なぜかというと連絡がつかないからです。お楽しみ会の打ち上げで大仏を演じきって以降、そのもう一人――サユカンは、私たちがメールしても電話しても全然反応してくれないのです。


 これはもう突入しかないという結論に達して、私たちはサユカンの家に向かっているのですが……会ってくれるかなぁ。


「あ、サユカン発見」


「買い物帰りみたいだねー」


 ラッキー。部屋にでも閉じこもってたらどうしようかと思ってた。


 サユカンちはもう目と鼻の先だ。家に入られる前に接触しよう。


「おーい、サユカン!」


「サユカちゃん、久しぶりー」


「いやあああああああああっ」


 なんか変質者にでも遭遇したかのような悲鳴をあげられてしまった。


「さ、サユカン?」


「くるな……くるなぁっ」


 や、なんかけっこー傷つくんですけど。


「サユカちゃん? どうしたのー」


「わ、わたしを食べないでっ!」


 や、あのとき食べられたの私なんですけど。


「馬は! 大仏は!? 誰かっ、馬か大仏を貸してっ!!」


 そんなもん貸せる人おらんて。


「ううううっ」


 むぅー……真っ赤になってるサユカンを見る限り、どうやらお楽しみ会でのチューは彼女にかなりのトラウマを残してしまったらしい。自分からしたくせに。


「サユカン! あのさ……」


「うう……な、なによっ」


 警戒心むき出しのサユカンに、私は優しく……


「投げキッス、んー、ちゅっ」


 追い打ちをかけてみた。


「狙撃されるぅっ!!」


 効果は抜群だ。


「ううううっ、サエすけぇ」


 サエちゃんに泣きつくサユカン。サエちゃんはそんなサユカンを優しく抱きとめて……


「直接チュー」


 さらに追い打ちをかけた。


「何もかも吸われるぅっ!!」


 効果はとことん抜群だ。


 弾かれたような勢いで駆け出し、自分の家に一目散に駆けていくサユカン。


 それを呆然と見送った私たちは……


「どうしようサエちゃん。あの子おもしろい」


「困ったねー。もっとやろー」


 さらなる追い打ちをかけることにした。


 おじゃましまーす、とサユカンのお母さんに挨拶して家にあがりこむ。サユカンの部屋の前までたどり着くと、中からは荒々しいゼーハーゼーハーという声が聞こえた。


「サユカン。なにそんなに興奮してんの?」


「もっとしてほしいんだねー」


「違うわっ!!」


 おぉ、扉を隔てても全然聞こえるサユカンの怒声。


「しばらく私に構わないで! もうチューもキスもこりごりよ! そんな単語聞きたくもないわっ! 大嫌いよっ」


「じゃあちゅー学生とかも嫌いなの?」


「嫌いよっ! 早く卒業してしまえばいいのよっ!」


「おみくじで中吉ひいた人は?」


「忠吉さんになってしまえばいいのよっ!」


「中年は?」


「くたばればいいのよっ!!」


 や、それいいすぎ。


「中国は?」


「滅ぶがいいのよっ!!」


 大問題だし。


「チューリップは?」


「頑張って綺麗に咲けばいいのよっ」


 ここだけ優しいね、可愛いなーくそ。


「どうしよっか、サエちゃん」


「んー、そうだねー……よし」


 何か思いついたっぽいサエちゃんは、扉の向こうのサユカンに向かって声を張り上げた。


「サユカちゃーん。そんなにチューって言葉が嫌なのー?」


「ええ、嫌よっ! もう二度とそんな単語の入った行為はしたくないわっ」


「でもサユカちゃん、いま引きこもりチューだよねー?」


 バン!! といきなり乱暴に開かれるドア。そこには息を切らしたサユカンが……よほど慌ててドアを開けたらしい。


「くっ」


「サユカちゃん、私たちから逃亡チューだねー」


 おお、うまい! サユカンは逃げようとした足を見事にピタリと止めた。なるほど、『〜中』と指摘することでサユカンをコントロールするんだね!


 よーし、私も。


「サユカン、呼吸チューだね」


「んぐっ……!」


「カカちゃーん、サユカちゃん死んじゃうよー」


「あ、さすがにヤバイか、ごめんごめん。サユカン、息止めてるさいチューなの?」


 ぷはぁー、と大きく息を吐くサユカン。苦しそうだ、ごめんね。


「ちょっと調子にのりすぎたね」


「そうだよーカカちゃん。無茶なことは言っちゃダメー」


 う、反省。


「ところでサユカちゃん、いま人間チューなのー?」


「人間をやめろとっ!?」


「サエちゃんが一番無茶言ってる!!」


「う、馬! 大仏! 誰か馬か大仏を貸してええええっ!!」


 あらら、元に戻っちゃった。


 じゃあ次は……




「そんな感じでサユカンで楽しく遊んだんだよ、今日は」


「へぇ……」


 夕方、帰宅した私は今日の出来事をトメ兄に報告していた。


「キスとかチューとか聞くとすんごい真っ赤になって慌てて可愛くてさー、もうトメ兄にも見せたかったよ」


「ふぅん……」


「どしたの、変な顔して。私とサユカンが仲いいから嫉妬でもしてるの?」


「そう、それ」


「え、なに。本当に嫉妬してんの? おー」


「や、違う。それじゃなくてさ」


「どれさ」


「カカとサユカちゃんがチューしちゃったじゃん」


「うん。おかげで仲も急接近さ。だからトメ兄も嫉妬してるの?」


「じゃなくてさ。そんなに急接近していいのか? サエちゃんの前で」


「……へ?」


「サエちゃんはおまえの嫁だろ。嫁の前でチューとか浮気みたいなことしてていいのか?」


「盲点だった!!」


 言われてみればそうだ。


 どうしよう!


 考えないと……


 離婚になる前に!


 正確には「ちゅーから逃げる編」ですねこれは。いつかちゅーをする任務も書きたいもんです。がんばれサユカン。

 しかし……サユカちゃんをいじりはじめると、どうも予定より長くなる傾向にありますわ笑

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