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カカの天下  作者: ルシカ
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カカの天下399「変わったこと、変わらないこと」

 カカたちの劇が終わった後も出し物は続いた。


 五年生による合奏はとても気合が入っていた。次は最上級生ということもあってか、気迫にあふれていたと思う。


 すでに卒業式を迎え、お楽しみ会は自由参加となっていた六年生による『本当の卒業式』という劇は涙ものだった。観客として来ていた六年生の大半が泣いていたみたいだ。


 そして四年生――サユカちゃんのクラスの合唱は。


 ノーコメントにさせていただく。


 そして――


 お楽しみ会の閉会式が終わった後、学校前。


「よーし、じゃあ打ち上げいくぞ! オレのおごりだ!」


「でも手配したのはカカでしょ」


「うるせぇ黙れ西の殿様」


「テンカ先生……語尾にウサつけるの忘れてるわよ。げほ」


「てめぇこそ美声忘れてるぞ、アヤ」


「げほ……うう、歌いすぎて喉がガラガラ……思いだせない……私ってどういう声だっけ……?」


「じゃあ僕が思い出させてやろうアヤ坊。んとね、でろでろズーンでろでろでろ♪ グチャネチョベチャ――」


「それ危険すぎてボツになったBGMでしょ!」


「でもこういう声だったよ」


「たしかにその裏声は似てたけど!」


 やり遂げた顔で騒ぎまくるカカのクラスの面々は、本当に楽しそうにはしゃいでいた。


「いやー、しかしカカ。すごかったな!」


「あいつ、昔はちょっと暗かったのにな」


「そうそう。変なヤツでさ、みんなで遊んでてもあんま笑わねーのな」


「それがまさかこんな楽しいヤツになるとはなー」


「あら、カカちゃんは前から楽しい子だったわよ?」


「ええー、そうかー?」


 はしゃぎながらも主に出てくるのはカカの話題だ。そう、確かにあいつは変わったと思う。


 発想がどこかすっ飛んでるのは相変わらずだが、とても『いい子供』になってきたんだと思う。明るくて、人気があって、みんなを引っ張っていく……誰もが思いつくような、『いい子供』に。


 このまま五年生になったらクラス委員とかやったりするのかな。リーダーシップを発揮してカリスマ生徒会長になったり……なんて。


 成長して僕の元を離れてくんじゃないかなーなんて。


 そんな心配なんかしてたんだけど。


「ずいぶんと人気者のようだが」


「うっさい」


「いいのか? あいつらについていかなくて」


「いいの」


 我が妹君は、僕の元を離れるどころかしっかりと背中にひっついていた。クラスメイトから隠れるように。


「はやく、うちいこ」


「まぁ……事前に用意しといてって言われてたから、ちゃんと打ち上げ用意はしてあるけどさ。本当にいいのか? せっかくみんなでやった劇の打ち上げなんだし、あっちに行ってくればいいじゃんか」


「ヤだ。あんま大勢でいるの好きじゃないもん」


「あんなに大勢を引っ張って劇を完成させといて、何を今更」


「それは気が向いたからやっただけ。そんなのしょっちゅうやってたら疲れちゃうよ。あと三年はやらなくていいや」


 こういうことなのだ。


 この娘、劇を終わらせたらもう満足、と言わんばかりにクラスメイトと交わろうとしないのである。


「なんだかんだで劇はおもしろいのができたと思うし、なかなかいいリーダーしてたんじゃないのか?」


「別にー。私はやりたいことをこうやりたいって言いまくっただけだし、細かいこと仕切ってくれたのはサエちゃんだし」


「でもいろいろ二人で考えて、みんなを引っ張ったことには変わりないだろ?」


「……む」


「向いてるんじゃないか、こういうの。またやってみれば?」


「クラスみんなのリーダーを?」


「そ」


「は、冗談」


 クラスのみんなに『変わった』とか『楽しいヤツ』と呼ばれた僕の妹は――


「そんなことしてたらサエちゃんとかサユカンとかトメ兄と遊ぶ時間が減るじゃん」


 もしかしたらこのままどんどん変わってくんじゃないかと思われた僕の妹は――


「ろくに知らない人のことなんか、いちいち気にしてられないよ」


 僕の知らないカカになってしまうんじゃないかと心配した僕の妹は――


「面倒くさい」


 ぶっちゃけた話、あんまり変わっていなかった。


 冷めた目で、だるそうに言うカカ。


 二年前くらいのカカを思い出す。そう、あのときもこんな感じで、楽しそうにすることはあっても、大口あけて笑うようなことはあまりしなかった。


 でも。


「好きな人と一緒にいるほうが大事なの」


 でも。


「さーさ、見つからないうちに早くいこ!」


 でも――


 あの頃は、こんな楽しそうに笑うことはなかったんだ。


 変わった、間違いなく。


 成長してくれた、いい方向へ。


 だから結局……嬉しいと感じるべきか、寂しいと感じるべきか。そんな疑問に戻ってしまう複雑なお兄ちゃん心なのであった。


「トメ兄、いこー」


「……はいはい」


 でもまぁ。


 今はとりあえず、頑張ったお姫様にご褒美をあげないとな。


「じゃ、帰ろうか」


 そう、帰ろう。


 この馬と。


 ……うま?


「ひひーん」


「なぜにおのれは最近よく見るリアルな馬の顔なんぞをかぶっておるのだ」


「……や、なんかサユカンと顔あわせづらくてさ」


「あぁ……なるほど。サユカちゃんが自分のクラスの合唱のときに大仏の顔をかぶってたのも同じ理由か」


 あれは異様だった……ステージに並ぶ生徒の中で、一人だけ無表情なでっかい大仏の顔がいるのだ。それでそのまま合唱したのもすごかったが。


「さっきサエちゃんに聞いたところによると、劇が終わってからサユカンずっと大仏やってるらしいよ」 


「うあ」


 冷静になって劇での自分を振り返ったら、誰にも顔を見せたくなくなったんだろうな、きっと……それでもちゃんと合唱に参加したのは偉いけど。


「じゃあ家に帰ったら馬と大仏がそろうわけか」


「馬の耳に大仏だね」


「入らねーよそんなもん」


「サエちゃんは何をかぶろうか迷ってたみたいだよ」


「なぜかぶる必要がある」 


 うちに帰ると案の定、仮装パーティになっていた。


 サエちゃんがちょっかいを出してサユカちゃんは壊れ、カカが追い打ちをかけて大暴走。そしてなぜか僕がこき下ろされて、姉やシュー君やタマはそれを見て笑って――そんな見慣れた光景。


 カカは大口をあけて笑っていた。


 すごく、楽しそうに。 


 今はきっと、それでいい。 


 ハイテンションな打ち上げを期待していた方がいましたらば謝罪もうしあげます。

 私も劇の妙なテンションのままドカーンと打ち上げを書こうかなーと思ったのですが……


 私の中のトメがふと振り返ったのです。今回のカカを。


 何かのリーダーをやるって、結構大きいことなんですよね。

 リーダーを経験したことがある人ならばわかるでしょう。人を仕切る、それって結構しんどいことなんですよね。

 それをどんな形であれやり遂げたカカを見て、成長を感じずにはいられませんでした。

 だから確認したかったのです。カカが、どう変わったのか。

 結果は本編の通りです。変わった部分もあり、変わらない部分もあり。

 ですが――トメの思ったとおり、何が変わったにせよカカが大口あけて笑ってるなら、それでいいんじゃないかと思います。

 これからもカカの物語は続きます。成長もするでしょう。逆もあるかもしれません。それでももしこの子の物語に付き合っていただけたなら……とても、嬉しいです。

 ではでは、ちょっとしんみりしましたが今日はこの辺で……って、え? なに香加。へっ、打ち上げしたい? 騒ぎたい? や、でもここじゃ――カカラジで!? そんな無理やりグラス持たせてちょっとまってあぁカンパ――

 

 ……明日へ続く。

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