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カカの天下  作者: ルシカ
397/917

カカの天下397「お楽しみ劇 第二部 乱戦」

 さて、グダグダになった前回からの続き。再び僕、トメがお送りいたします。


「ボクはドラゴンを許すわけにはいかないんだ!」


 ちょっと脱線したけど、気を取り直して劇再開だ。それにしてもカカが「ボク」とか使うと違和感あるなぁ。僕の真似なのかもしれないけど。


「へぇー、なんか因縁でもあんのか?」


 観念したのか、ヤンキー座りしながら面倒そうに聞くテン。仮にもウサ耳つけてんだからもう少し可愛らしい座り方すりゃいいのに……それはそれで微妙か。


「ボクね、おじいさんとおばあさんに育ててもらったんだけど……二人とも、ドラゴンに殺されたんだ」


 おお、急に重い展開だ。バックで流れてた『キーンコーンカーンコーン』のBGMも心なしかテンポが速くなってきた。緊張感を演出しているのか。


「そう、あれは去年のこと。ボクがドラゴンを食べたいって言ったらおじいさんもおばあさんも頑張ってくれて……失敗して、死んだ」


「それどう考えてもてめぇのせいじゃねぇか」


「許すまじ、ドラゴン!!」


「聞けよ」


 復讐を誓う少女、それを盛り上げようとする『キンコンカンコンキンコンカンコン』も最高潮に!!


「残さず食ってくれるわ!」


「食うのかよ!?」


『こうしてトメはツッコミうさぎを従えて、西の国へと行くことになりました』


 降りていく緞帳。引っ込むカカたち。再び場面転換か。


 あれ、そういやいつの間にかネコ耳少女、いなくなってたな。


『西の国までは少し距離があったのでー、お腹がすいた二人は途中でネコさんを食べましたー』


『ごり、ごり、むしゃっ、ぐちゃぐっちゃっちゃー♪』


「その気色悪い歌やめい!!」


 耳が汚染されそうなBGMとテンのツッコミを聞いてるうちに、再び緞帳が上がる。今度の舞台は……街の中かな、これは。先ほどのようなダンボールで作られた木などは一切なく、舞台セットは背景の壁紙だけだった。手抜きか? それとも出演者がたくさん動くためか。


『さてさてー、西の国に入ったトメとツッコミうさぎー』


 三度登場したサエちゃんの今度のお召し物は、シースルーのスカートがセクシーなグリーンのアラビアン衣装。


「はぁはぁはぁはぁ」


 そのセクスィーさにやられて呼吸困難なお人が約一名、僕の隣に。


「はぁ……はぁ……つ、作って、よかったー……」


 あれが遺品にならないように頑張ってくださいよ? おかーさん。


『二人は街を歩いているうちに、その街があまり裕福じゃないことに気がつきましたー』


「あのネコ、ここなら食べものがあるって言ってたのにな。何もねーじゃねぇか」


「へ? あそこらへんに一応あるじゃん。食べ物」


「どれだよ」


「人」


「てめぇは血も涙もねぇのか!?」


「うん。あ、待って。あれ」


 何かに気づいたらしいトメは、ステージ脇を指差した。


「勇者様だー!」


「勇者様がいらっしゃったぞー!」


 舞台裏から聞こえてくる声。勇者ってトメのことか?


『なんという偶然でしょー。二人は西の勇者に出くわしましたー』


 現れたのは殿様だった。


 うん、どっからどう見ても殿様の格好にしか見えない。ちょんまげもあるし。え、あれ勇者?


「おらおら! ショバ代よこせや愚民ども!」


 扇子をバサッと振りながら偉そうにふんぞり返る殿様。え? あれ勇者?


『勇者はただいま地上げ中ですー』


「おい。どの辺が勇者なんだ、あれは」


『彼は先月、バンジージャンプを成功させたらしいですよー』


「すげぇ!」


「まさしく勇者ね!!」


 ……あぁ、小学生じゃ、そりゃ勇者かな。


「そう、我こそは西の国の支配者、ドラゴン様に仕える勇者なり! というわけでショバ代よこせ! わかりやすく言えば税金!」


 もう悪い殿様にしか見えん。 


「ああっ、この蓄えがなくなったら今月ピンチなのです!」


「知ったことか! 少しは身体のことを考えて飲み会を控えるがいい!」


 なんだこの妙に現代っぽい会話は。


「いいな!!」


「なんでオレのほうを見て言う!?」


 テンけっこー酒飲むもんなぁ。


『勇者を自称する暴君バカを前にして、我らがトメは怒り狂いましたー』


「コラー! 弱いものいじめしちゃダメでしょー!」


「何を言う! 愚民から物を奪うのは勇者の義務だ!」


 RPGだとそうだな確かに。


「なんでそんなことするのさ!」


「ドラゴン様の命令、もとい国を潤すためだ! 税金を納めないと国が貧しくなって、ろくに食べ物がなくなるんだぞ!」


「ご飯がないならドラゴン食べればいいじゃない!」


「その手があったか――いやいや!」


『惜しい! もうちょっとで納得しかけたのにー』


 ノリで君主を食べるなよ。


「殿! こちらをご覧ください」


 そばに控えていた脇役っぽい男子が勇者になにやら紙を渡す。勇者、だよな? 殿って言わなかったか今。


「こ、こいつ!!」


「ま、まさかこの手配書のヤツか!」


 驚愕しながら観客の皆さんにも見えるように掲げられた紙には、カカの写真と共にこんなことが書かれていた。


『猛獣、危険!』


「三年前に森でクマの手を食いちぎっているところを目撃されて以来、危険人物として恐れられていたあの子か!?」


『ちなみにトメは今、六歳ですー』 


 三歳でクマに勝つとか、どんだけ強靭な生き物だよ。


「まるでお姉さまみたいですね」


「ん、あたしもそう思った」


「ばけものー」


「……指ささないでタマ。改めて言われるとちょと傷つく」


 なにやってんだか。あ、それより劇は?


「ぬぅ、なればこの僕が退治してくれようぞ! ものども、であえ、であえー!!」


 殿の格好のくせにどっかのお代官のようなセリフを叫んだ勇者君はちょっと気持ちよさそうだ。いっぺん言ってみたいセリフの一つだよね、あれって。


『どこからともなく湧き出てくる西の勇者の下僕たちー』


 上も下も真っ黒という手抜きスタイル――じゃなくて、いかにも悪役スタイルで現れた男子たちは、飛び跳ねたり側転したりと動き回りながらトメとツッコミうさぎをとり囲む。 


「ツッコミ先生は下がってて!」


「ツッコミうさぎだろうが!」


「じゃあ語尾にウサつけてよ。そしたらうさぎって呼んであげる」


「……わかったウサ」


「下がっててウサ!」


「……おウサ」


 カカ特有のよーわからんノリに首をかしげながらもトボトボ引っ込むテン。なんかいろいろ諦め気味なのかもしれないウサ。


「私の夕飯を邪魔するとは不届きなやつらめ!」


 カカはバッ、バッと格好つけて腕を振り回し、最後にくるりと回って戦隊モノっぽいキメポーズ!


「全員、吹っ飛ばしてくれる!」


 ビシッと決めたカカに観客席からも黄色い声援が!


「よっ、待ってましたー!!」


「カカー! 根性みせたれや!」


「か、カカちゃーん、がんばれー!」


 って叫んでるの、僕の身内の皆様じゃないですか!?


 僕は何も言わないぞ、絶対に! これ以上目立つのはごめんだ。


 ……まぁ少しくらい声援を送ってもよかったかもしれない。体育館内は結構盛り上がってるから声もかき消されただろうし。


 何が盛り上がってるかって? 


 BGM隊だよ。


『じゃっ! じゃじゃじゃじゃっ! じゃじゃじゃじゃっ! じゃじゃじゃじゃんっ! じゃん! じゃっ! じゃじゃじゃじゃっ! じゃじゃじゃじゃっ! じゃじゃじゃじゃんっ! じゃん!!』


 戦闘の音楽でノリよくテンポよく。すごく大変そうだ。お疲れ様です。


「さあこい!」


 ステージの中心を境に、トメと敵の集団がわかりやすく右と左に分かれて対峙する。そして集団から一人の敵役の男の子がトメへ向かっていく――なんだ、こんだけ大勢いるんだから派手な殺陣とか期待したのにな。小学生にそれを期待するのは間違いか。


 そう、思ってたんだけど。


「てい!」


「うわぁ!」


 カカのしらじらしいパンチ。


 くらった男の子の声もわざとらしい。


 しかし、くらった男子は吹っ飛んだ。


 格好よく。


 そう――


 バク転で吹っ飛んだのだ!


 無事に着地し、ドスンと尻餅をついて倒れる男子。そのまま転がって、いつの間にか敷かれていたマットから離れる。


 遅れて観客席から『おおぉー!!』と驚きの声が! なるほど、こういう魅せ方か!


 続いてカカに向かっていくのは二人の男子!


「やぁ!」


「「うあー!」」


 カカの回し蹴り。それをくらったフリをする二人の男子は同時にバク転! 綺麗にそろったぁ!


 まだまだ続く。


「せぃ!!」


「ぐはぁ!」


 次はなんとバク宙!


「たぁ!」


「ぐぉ!!」


 バク宙して、さらに空中で身体を捻った!?


 驚きだ……小学生の劇でこんなものが見れるなんて。前にカカがお楽しみ会で飛ぶとか言ってたけど、こういうことだったのか。たしかに飛んでいた。格好よく! よほど練習したに違いない。綺麗に決まる技の数々に観客席からは拍手喝采だ!!


『トメのバケモノじみた強さにより、敵はあっという間にいなくなってしまいましたー。さて、残るは西の勇者とその部下、助さんのみー!』


 ……助さん?


「こ、この印籠が目に――」


『入らぬかー、と言いたかったみたいなのでこんな役になりましたがー、アトランティスで印籠なんかあるわけないのでー』


 あ、サエちゃんが悪そうな顔で笑ってる。


『代わりにー……僕の好きな子の名前が耳に入らぬかーって感じで告白してくださーい』 


「……………………はぁ!?」


 おっとぉ! サエ選手、こんなところでいきなり無茶フリだぁ!


「え、あの、その!?」


『助さんは死を覚悟して、最後に好きな人の名前を叫ぶのでしたー』


「そんなそれっぽい説明付け加えられても!!」


『叫ぶのでしたー』


「いや、あの」


『叫べー』


 助さん涙目。


『……はぁ、仕方ありませんねー。じゃあコホン。えー切羽詰った西の勇者は、苦し紛れにBGM係のアヤちゃんに抱きつ――』


「やめてくださいいいい! 僕の好きなアヤちゃんにそんなことしないで!!」


 あ、告白しちった。


 じゃんじゃん歌っていたBGMがピタリと止まり、一人の女子がステージへと上がる。あれがアヤちゃんかな?


 おっと、ステージの真ん中で対峙しましたお二人さん!


 告白の返事やいかに!?


「ごめんなさい」


「うわぁっ!!」


 ぺこりと謝られた助さんはバク宙しながら吹っ飛んで、そのままゴロゴロとステージ脇へと引っ込んでいった……憐れ。憐れだけど、これが本気の告白なのか台本どおりなのかが非常に気になる。


『さてさて、なにやらハプニングもありましたがー』


 ものごっつ楽しそうやなぁサエちゃん。あのポジションって無敵だしなぁ。


『ついに一人になってしまった西の勇者! 一体どうするのかー!?』


「こうなったら仕方ない。奥の手だ! 出でよ、魔法使い!」


 西の勇者が叫んだ。


 すると――バサッという衣擦れの音が体育館に響く。


「ふっふっふー」


 黒いローブを身にまとい、不敵に笑う少女が一人。


「我こそは――この世界(劇)の支配者!! 無敵の魔法使い、サエなのだー!!」


『た、確かに無敵だあああああああ!!』


 いつのまにか衣装替えしてるしー!!


「必殺の呪文! 『ステージの皆は吹っ飛びましたー』」


 逆らえずに吹っ飛ぶトメたち!!


『ナレーションつえええええ!!』


 恐れおののく観客席の一同!


 そして――


 え? 


 おお……


 おおおおおおおおおおお!!


 次回に続く。


おおおお?(じらし

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