カカの天下396「お楽しみ劇 第一部 旅立ち」
待ち遠しい!
あ、突然ごめんなさい、トメです。
ただいま貴桜小学校のお楽しみ会を見物しているのですが……
うちの子の出番はまだかー!! って感じです。
「かかまだー?」
ほら、タマちゃんもご立腹。
まぁ開会の挨拶は大事だと思うし? 他のクラスの出し物を見るのもいいけれど。
やっぱりメインが待ち遠しくなるんだよなぁ……というわけで他の出し物は適当に流していた。
――そして、いよいよ次がカカたちの出番!
というところで一斉にトイレへと向かう我ら笠原家。いま合唱してるクラスの人ら、ごめんね。やっぱ自分ちの子が可愛いもんで……
さて、準備は万端いつでもこい!
『それでは次は、四年二組による出し物、ハチャメチャ劇、トメの天下、です』
題名を聞いて僕のほうへと振り返る笠原家(仮)一同……僕はあらかじめプリントで知らされてはいたものの、やっぱりかなり恥ずかしい。
『皆さんこんにちはー。ナレーション役のサエですー』
「キャ――むぐむぐっ!!」
思わず絶叫しかけたサカイさんの口を慌てて押さえ込み、帽子とサングラスを神速で装備させる姉。そういや変装も必要なんだった……サエちゃんに見つかってないだろうな。
『えー、この劇は基本的にゆるゆるーっと進んでいきますので、細かいことは気にせずお楽しみくださいー』
「く、あれはサカイさんの衣装ですね。可愛いじゃないですか」
悔しそうに呻くサラさん。そっか、いまサエちゃんが着てるタキシードみたいな衣装はサカイさんが……そりゃ絶叫もするか。髪の長い子がタキシードでビシッと決めてるのってあまり見ないけど、実際に見てみるとかなり可愛いし。
『さてさてー、それでは劇のはじまりはじまりー』
サエちゃんが上座のほうに目配せすると、少しずつ緞帳が上がり始めた。合唱部が歌っている間はずっと下がっていたから、きっとその間に準備は終わっていたのだろう。
公開されたステージの上にはダンボールで作られた木や草がいくつか設置されていた。背景は絵の具で描かれた森の絵。おそらくこれもダンボールに絵を貼り付け、後ろの壁に立てかけているのだろう。意外と本格的に森に見える。
『昔々、アトランティス大陸のとある森に、おじいさんとおばあさんが住んでいました』
ナレーションにあわせて登場する男子と女子。知らない顔だ。
「じじいぃぃぃぃぃぃ!」
「ばばあぁぁぁぁぁぁ!」
『威勢のいい鳴き声――自己紹介ですー』
世のご老人に失礼だぞ君ら。
『ある日、おじいさんは川に洗濯へー、おばあさんはおじいさんが仕事をサボらないか監視にでかけましたー』
おじいさん立場よわっ。というかこの展開、わりとどこかで聞いたことあるような……
『すると川の上から』
おっと、ステージ脇から女の子が数人現れましたよ?
ステージの端に作られたお立ち台に上った女子達は、小さく「せーの」と呟いて……
『どんぶらごっこー、どんぶらごっこー』
声をハモらせて合唱した。効果音係か?
『と、何かが流れてきましたー。どんぶらごっこって何ごっこなんですかねー?』
知らんて。
心の中でツッコみつつも、ステージの脇からごろんごろんと転がってくる歪な物体に視線を向ける。
「まぁ、なんておっきなパイナップルなんでしょう!」
「略してオッパ――」
「略すんじゃないわよ!!」
おばあちゃんチョップがおじいさんの脳天を直撃。それによろめいたおじいさんがパイナップルに激突すると、なんと二つに割れてしまった!
「まぁ、パイナップルの中から女の子が!」
ついにカカの登場だ! 赤ん坊の役らしく白いシーツに包まって目を閉じている。
「なんて可愛い子なんでしょ――」
「なんでやねん」
「うちの子にしてしまお――」
「なんでやねん」
「おっきなパイナップルから生まれたから、それを略してこの子の名前はオッパ――」
「なんでやねん」
『どんな話も早すぎるツッコミで止めてしまうことから、少女はトメと名づけられましたー。ツッコまなかったら巨乳に成長せざるをえない名前になるところでしたねー』
……まさか、僕の名前の由来もそれだったりしないだろうな。
『ちなみに名前の元ネタはそこに座ってる男の人です』
「バラすなよサエちゃん!?」
見世物か僕は!? あぁ、サエちゃんが僕のほうを指差したから他の方々の視線が……恥ずかしすぎる!
と、赤面してるうちに一旦緞帳が降り、いつの間にか緞帳の内側に立っていたサエちゃんも姿をひっこめた。場面転換か。
『そして、年月は流れー……』
サエちゃんの声と共に再び上がる緞帳。なかなか準備が早い。
森の場面セットは変わっていなかった。
変わっていたのはサエちゃんの衣装だった。カウボーイハットをかぶったウェスタンなガンマンスタイル。どこかで見たような肩出しへそ出しミニスカートだけど、装飾の効果か可愛らしさよりも西部劇に出てきそうな野性味があふれていた……まぁ、子供ながらに。や、子供だからこそ、そういうギャップが似合うのかもしれない。
サエちゃんは腰からハートで装飾された銃を抜くと、客席に向かって撃つ真似をした。
『あなたのハートを狙い撃ちー』
「ぐはぁー!!」
撃たれた!? 血しぶきが上がった!!
サカイさんの鼻血だ。
頬を羞恥と血に染めながら、姉に介抱されるサカイさん。
「ふっふっふ、どうですサカイさん。私の作った衣装! いつぞや見たサンタの格好をヒントにつくってみたんですよ――」
「ぐっじょぶー!!」
「へ? あ、はぁ」
「とてもすごくぐっじょぶううううぅぅ!!」
「ど、ども……」
鼻血をぶうぅぅっと出しながら絶賛するサカイさんに拍子抜けしたのか、サラさんもたじたじだ。そんなに嬉しかったのか、娘の肩とへそと太もも。
そんな観客席側の事情はさておき、劇は進む。
『さてさて、成長したトメの登場ですー』
「はぁー」
肩を落としてだるだるーっと現れたカカの格好は――赤色が眩しいチャイナブラウスに、しっとりとした黒地のチャイナパンツ姿。髪は軽くまとめられ、小さなお団子になっている。
なんでそんな格好なのかは置いといて、とりあえず動きやすそうな衣装だった。
「あれは私の作った服ですねー」
「主役はとられましたか……ま、まぁ可愛いんじゃないですか?」
「あなたの作った服よりは可愛いでしょー」
「なっ! さっき褒められたから褒めてあげたのに!」
「あれは着てる子が可愛かっただけですー。服は普通でした」
「こ、この!」
この二人は放っておこう。あと可愛いのは同意する。さすがうちの子。
『――トメはもうお腹がぺこぺこでした。なぜならこの森にはもう食料がなかったからです』
お、端にいる効果音係がまたもや声を合わせる。
『キーィィィン……コーォォォォン……カーァァァァン……コーォォォォン……』
すんごくゆっくりと学校のチャイムの音を真似ている……あ、これBGMか、もしかして。
「はぁ……うぅ、お腹、減ったよぅ」
不思議だ。ただ単にチャイムの音を口で、間を置きながらデクレシェンドで歌っているだけなのに、なぜか悲しげなBGMに聞こえてきた。子供の頃を思わせるからだろうか。
「はぁ……ボクは一体何を食べればいいんだろう」」
膝をついて俯き、辛そうに呟くカカ――や、トメか。ややこしいな。まぁ僕は自分のことトメって呼ばないから、これから出すトメって名前は全部カカが演じる役のことね。
『そのときです。トメの呟きを偶然、通りすがりに聞いた人がいました。なぜかネコ耳な少女です』
なぜだよ。
ともかくひょっこりと現れたネコ耳つきの女子は、陽気にトメに声をかけてきた。
「ヘイそこの人! お腹がすいたのかにゃ?」
「うん、だから君を食べていい?」
「待って待って待っちっち! あたしを食べてもうまくないにゃ。それよりもお腹が減ってるなら西の国にいきなよ! ドラゴンが治めてる国があるんだにゃ。そこならきっと食べ物が……はぁ」
「どしたのネコ女さん」
「その妖怪みたいな呼びかたはやめてほしいにゃ……その、実はにゃ、あたしネコ好きでにゃ! ネコ耳にも憧れててにゃ! だからこんな役やりたいって劇の希望を送ったんだけどにゃ……」
急にたそがれた顔になるネコ耳少女。
「ネコ耳って……リアルにやると結構キツイのね」
や、そんなこといちいち本番で言わなくても。
「ニャって何よ、バカみたい。ネコじゃあるまいし」
や、だからさ。
「んなこと本番で言うんじゃねぇよ!」
ホントホント。あれ……誰だ? 僕の心の中のツッコミを代弁してくれたのは。
『突然現れたのは、えっとー……ツッコミうさぎです』
「今考えたろ、おまえ」
『だって先生の配役決まったのって最近ですしー。決めてませんでした』
「いくらなんでもぶっちゃけすぎだろ」
呆れた声。しかしサエちゃんが現れたと言っているのに、声しか聞こえず、ステージ上にツッコミうさぎらしき姿はない。
『早く現れてくださいよー』
「う、うるせぇな!」
『なんかボケばっかりでツッコミ役がいないなーと思って急いで採用したツッコミうさぎさん。はやくー』
「だからぶっちゃけすぎだっつの! う、うあ、押すなおまえら!」
ドン! と吹っ飛ばされ気味にステージ脇から出てきたのは――頭にウサ耳つけたテン。
「ぷ」
「……トメ、殺す!」
げ、聞こえたか。
『ツッコミうさぎさん、開始早々主人公を殺さないでくださーい』
「あ、そういやこっちの主人公もトメか」
「えっと……続けていい?」
『あ、はいはいどうぞーカカちゃん』
「今はカカじゃねぇだろが!」
もうグダグダだな。
この先一体どうなるんだ?
……逆にちょっと楽しみになってきた。
二部に続くぅ。
ついに開演しましたお楽しみ会!
グダグダです。
どれくらいグダグダかっていうとタイトルが「旅立ち」なのに旅立ってないほどのグダグダです。
こんな始まりで続きはどうなるのでしょうか?
次回、緊迫の第二部をお楽しみに!