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カカの天下  作者: ルシカ
394/917

カカの天下394「謀られた台本」

「明日はもうリハーサルよっ!」


「そだねー」


「早いもんだ」


 私、カカはしみじみと言いました。


 そう、お楽しみ会本番まで残すところあとわずか。ここカカ部屋に集まった私たち三人は、最近ドキドキしすぎて眠れない夢を見る毎日を過ごしているのです!


 え、結局寝れてるじゃんって? そりゃ寝るよ。子供だもん。


「明日はリハーサルなのよっ!」


「そんな繰り返さなくてもー」


「何が言いたいの、サユカン」


 小首をかしげる私とサエちゃん。それがサユカンにはどうも気に入らなかったらしい。


「あ、し、た! リハーサルなんだけどっ!!」


 地団駄を踏むサユカン。だから何が言いたいのさ。


「わたし……一回も練習してないんだけどっ」


 サエちゃんと目を合わせる。


 ポン、と二人で同時に手を打った。


「忘れてた」


「サユカちゃんにも役あったんだっけー」


「君らねええええええ!!」


 あんぎゃーっ!! と火を吹きながら(イメージ)咆哮するサユカン。


「おーおー、こんな感じの役だったよねー」


「もう練習いらないんじゃないの?」


「いるに決まってるわよっ! 君ら、忙しい忙しいってわたしの練習に付き合ってくれなかったでしょっ! まだ誰にも見せてないのよ今回の演技!」


「だからー、お父さんお母さんとかに見てもらえばいいって言ったでしょー?」


「は、恥ずかしいじゃないっ」


「イチョウさんは?」


「恥ずか、しいし」


 ん?


「私たち相手だと恥ずかしくないの?」


 サユカンが真っ赤になった。


「え、っと……そりゃ、恥ずかしいけど、その……いまさら、っていうかっ」


 それもそっか。サユカンの醜態なんか腐るほど見てきたもんね。


「カカすけひどっ!!」


 あれ、私いま口に出してた?


「うううぅ……どうせ失敗ばかりの毎日よぅ」


「大丈夫だよーサユカちゃん。醜いのがさらに腐ったんだよー? これ以上ひどくなりようがないじゃん」


「どうせわたしは人生の底辺よおおおおおおっ!!」


 もっと底辺にいそうな人に二人ほど心当たりがあるけど、そんな人らのこと言って慰めにはならないだろうし……よし、話を変えよう。


「じゃあサユカン。今から付き合うよ、劇の練習」


「そだねー。今日やることは終わっちゃったしー」


「……むっ」


 俯いていた顔をあげるサユカン。ちょっと嬉しそう。


「そ、そう? なら、その、お願いしよっかなっ」


「醜い腐った生ゴミの汚名、頑張って返上してねー」


「いくらなんでも汚すぎるわよっ!」


 そう言いつつも部屋の真ん中に立ち、登場シーンのポーズをとるサユカン。


「いい? ちゃんと見ててよっ」


「うんうん」


「遠慮なくどぞー」


「じゃ、じゃあ……こほん」


 咳払いしたサユカンは、先日渡した台本どおりのセリフを口にし始めた。


「わたしの名前はモンキードラゴン! 主食はバナナ!」


 無害そうな竜だ。


「早口言葉で勝負よっ!」


 そして無能そうな竜だ。


「今から我の言うことを復唱するのよっ」


 お、見所そのいちだ。


「いくわよっ。すーっ……一つへぎへぎに、へぎほしはじかみ、 盆まめ、盆ごめ、盆ごぼう、つみたで、つみ豆、つみさんしょう、書写山(しょしゃざん)社僧正(しゃそうじょう)粉米(こごめ)のなまがみ、粉米のなまがみ、こん粉米のこなまがみ、雨がっぱか、番がっぱか、のら如来にょらい、のら如来、のら如来にのら如来、お茶立ちょ、茶立ちょ、ちゃっと立ちょ茶立ちょ、青竹茶煎で、お茶ちゃと立ちゃ。来るは来るは、何が来る。高野の山のおこけら小僧、狸百匹、箸百ぜん、天目百ぱい、棒八百本。武具馬具ぶぐばぐ、武具馬具、武具馬具、合わせて武具馬具六武具馬具、 菊栗きくくり、菊栗、菊栗、合せて菊栗、菊栗、 麦ごみ麦ごみ、麦ごみ、合せて麦ごみ麦ごみ!」


 おおおおおおおおお!!


「サユカンすごい!!」


「まさか言えるようになるとはー」


 サエちゃんと二人で惜しみない拍手を捧げる。


「れ、練習したもんっ」


 どうやらまんざらでもない様子。


「さぁ、どうだっ! わたしに勝てるかっ!?」


 台本では主人公――トメが勝つはず。そして。


「ま、負けた……負けたのね、わたしはっ」


 ショックを受けたように崩れ落ちるサユカン。うん、演技うまいね。さすが普段から崩れ落ちることが多いだけはある。


「こうなったら、トメ。あなたに食べられるしかないのね」


 見所そのに。ニヤリ。


「実はわたし、トメのことが大好きだったのっ。だから本望よっ」


 この時点でサユカンの顔は紅潮まっさかり、汗がダラダラ出まくっていた。でも台本は続くから演技も続く。


「す、好きよトメ、大好きっ! トメの人形がほしいわ、毎日抱いて寝るのっ! トメの歯磨きがほしいわ、間接キッス! トメの声がほしいわ、囁いてっ! トメのご飯が毎日ほしいわ、結婚! トメの苗字がほしいわ、ビバ結婚! トメの未来がほしいわ、ひたすら結婚! トメの、ここ、子供がほしいわ、いやん!!」


 大変です。笑い止まりません。


「あぁ愛しのトメさま! わたしをラブしてハグして全部して! わたしが何よりほしいのはあなたの瞳! そう、ずっとわたしだけを見つめていてほしいのよっ、ふっ」


 ふっ、と髪をかきあげたサユカンは顔から湯気が出るほど恥ずかしがりつつ、ヤケクソになって演技を続けた。


「トメちゃま、あたち、結婚ちたいっ」


 指をくわえて赤ちゃん言葉サユカン。


「トメぴょん。わたしあなたが好きなんだぴょん」


 頭の上に手の平で耳を作ってウサギサユカン。


「べ、別にトメなんか好きじゃないんだからっ! 好きじゃなくて、だ、大好き、なんだから」


 ツンデレサユカン。あ、これ普通か。


「トメ、ちゅーして♪」


 はにかみ甘えサユカン。


「トメェ、手、つないでくんないと、拗ねちゃうぞぉ?」


 とにかく甘えサユカン。


「トメ、ん、あっ」


 もうどうにでもしてくれサユカン。


 などと、サユカンは延々と恥ずかしい演技を続けまくり――


「これで満足かコノヤローッ!!」


 台本を思いっきり私たちに叩きつけた。


 サユカンは、ゼーハーゼーハーと息を荒くしていた。そんなに興奮しなくてもいいのに。


「ところでサユカン」


「その台本ねー、遊びで作った嘘だからー」


「死んでくれコノヤローッ!!」


 ぅおお、さすがに怒りも頂点か!


「あ、あのね、私たちが練習に付き合わなかったのはね」


「わざとなんだよー」


「そうそう! ちょっと理由があって。本当のセリフは本番前に教えるから」


「……じゃ、わたしが今まで練習してきた台本はなに?」


 決まってるじゃん。


「だから遊びだよ。これ見るために主人公の名前トメにしたようなもんなんだから」


 サユカンはドラゴンに変身した!


 暴れた!


 痛かった!

 



 そんな感じに遊びつつ、お楽しみ会はもう間近。


 あー、いっぱい笑った。


 少しは緊張、ほぐれたかな?


 ……どきどき。 


 ちょっと略しながら引用させていただいた文章、見覚えのある方もいるでしょう。かの有名な外郎売です。

 初めて読む方のためになるべく読みやすく書いたつもりですが……難しいですね^^;まぁこれを言うのはもっと難しいのですが笑

 さりげに最近練習中だったり……始めてみるとハマるんですよね。興味ある方いらっしゃったら全文朗読してみてください^^ 


 ……さて、そろそろお楽しみ会が始まります。

 どうなることやらっ。

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