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カカの天下  作者: ルシカ
393/917

カカの天下393「先生、しっかりしなさい」

「……あん?」 


 よう、テンカだ。


 午後の5、6限を使ったお楽しみ会の準備も、今日とあと一回を残すだけとなった。カカたちは相変わらずオレが指導する必要もなく動いてくれているから楽でしょうがない。


 むしろ楽すぎて暇だ、そんな教職員にあるまじきことを考えながら、職員室の自分の机に肩肘ついてボケーっとしていたのだが。


「なんだ、これ」


 見慣れない封筒を見つけた。机に乱雑に置いてある書類の下敷きになっていたのだ。


 引っ張り出して中身を確かめてみる。


 日本人なら誰でも知っている紙が入っていた。


「……天からの贈り物?」


 天からテンに?


 はいはい、つまらないですね、すいませんでしたよ、けっ。


 それはともかく、この飲み代――じゃなくて金、一体何だろう。誰かがこれでオレに飲めと言ってるのか? 神様かそいつ。もっとくれよ神様。


 まぁ、冗談だが。


「おーい、デス頭。これなんだ?」


「その恐ろしい呼び方はやめてくれたまえ、テンカ君――おい、本気で言ってるのか」


「んだよ教頭。デス頭がそんなにまずかったか?」


「死んでいるのは君の脳だ」


「……言ってくれるなぁ、オイ」


 基本的に穏やかな教頭がそこまで言うとは、これもしかしてまずいお金っぽい?


「相当前に説明したはずだが、そのお金はな――」


 結果。


 かなりまずかった。




「おい、カカはいるか!?」


「ガサ入れ!?」


 何をとち狂ったことを言っているのだこの小娘は。


「ガサ入れされたら困るようなもんでもあるのか、アヤ」


「い、いえぇそんな滅相もない!」


 この準備時間にほとんど顔を出さなかったオレが急に来たせいか、教室の中にいる全員が戸惑っていた。


 というか怯えていた。


 ……ほんとに何もしてないだろうな、おまえら。


 まぁいい。


「カカは?」


「た、体育館で飛んでます」


「サエは」


「根回しを」


 どいつもこいつも豪儀だな。


「仕方ないな……おまえらでいいか」


「な、なにか?」


 なんとなくこの中ではアヤがリーダーっぽいので、こいつと話をすることにした。


「なぁ、劇の準備してたんだよな」


「はい、それはもう」


「経費……かかってたよな。どうしてた?」


 バツが悪くて頭をかきながら聞くと、アヤは近くにいた男子生徒の首根っこを掴んで差し出し、あっさりと言った。


「このタケダで払ってました」


「クレジットカードか何かか? そいつは」


「はい、便利ですよ」


 そりゃそうだろうさ。オレもほしいくらいだ。


 その差し出されるカードの顔を伺ってみる。


 あまり楽しそうには見えない。


「あー……タケダ、大丈夫か?」


「……外傷は特にはありませんが」


「財布の中身は?」


「このくらいの犠牲、大したことはありません!」


 なんて男らしい財布だ。ほしいくらいだ。


「いやー、悪い悪い。実はさ、お楽しみ会をするにあたって、各クラスに多少の援助が学校から出てたんだよ」


『え……?』


 ポカンとする一同。しかしツッコまれる前に一気に説明してしまう。


「ほんとはさ、衣装に使う布とかそういうのも家庭科室に余ってるの使っていいし、他の教室の備品も許可さえあれば使ってよかったんだと。でもおまえらは勝手に体育館とか他の教室も使って準備してたから指導の必要もねぇやと思って放ったらかしにしてたんだが――」


 たはー、と後頭部をかきながら愛想笑いを浮かべた。


「少しは指導しなきゃなんなかったみたいだな、オレも」


「何を当たり前のことを言ってるのですか?」


 ぐっ……タケダも言うじゃねぇか。しかしオレのクラスの財布役になってしまっていたコイツなら、これくらい言う権利はあるだろう。許す。


「と、というわけでタケダ! 今まで使った分、今すぐ出すぞ! いくらだ」


「い、いやしかし俺とて脅しに屈して金を払っていたわけではなく、社員に奢るのは社長の務めであって」


 何の洗脳受けてんだコイツは。


「社員、社長? 会社やるほど金もらってんのかよ」


「えっと、月に二万ほど」


「今すぐ潰してやるその会社」


 思わず社長の胸倉を掴んでいた。


「ぐええ!? つ、潰してるのは、俺の、む、胸……」


「うるせぇクレジット会社タケダ!! もともとペチャパイなんだから潰れても問題ねぇだろが」


「む、無茶苦茶を……」


「てめぇ……オレの一ヶ月の飲み代くらいもらってんじゃねぇか。ええ!?」


「そ、そんなこと言われても!」


「こんなガキにそんなに持たせるたぁ親は何考えてんだ! おいタケダ。一つ聞く。その答えの内容によっては、てめぇの財布の中身はなくなると思え!」


「ホントに教師かアンタは!?」


 肩書きは一応な!


「その金、いつも何に使ってんだ?」


 これは大事なことだ。


 人は子供のころから金銭感覚を徐々に身につけていかなければならない。金銭感覚というものは、現代を生きるにおいてとてつもなく重要なものだからだ。それを親が何も考えずに与えるだけ与えていたら、金の使い方を覚えないその子供はいつか絶対に金で失敗する。


 それをないがしろにしているところを黙って見逃すわけにはいかない!


「さぁタケダ、言え! その分不相応な金を何に使ってるんだ!?」


「い、いつか親孝行しようと思って貯金してます!」


 え。


 目をパチクリ。


 意外と考えてるじゃないか、金の使い方。


 というか普通にいいヤツだ。


「なら許す」


「ほっ……」


 とりあえず今回の経費で使ったという金額を返してやった。


「ありがとうございます! これで両親の結婚記念日に全力で孝行ができます!」


 なんか泣けてきた。


「あー、取り乱して悪かった。ともかく遅れながらオレも協力するからよ、なんか必要なもんあったら遠慮なく言ってくれ」


 そう言ってクラス一同を見渡してみる。


 なぜか全員、こちらを見ていた。


 オレの顔を。


 ……え?


 必要なもん、もしかして、オレ?


 普通は何から何まで子供でやるって無理ですよねぇ。

 でもですねぇ。

 まがりなりにも指導者っぽい子供が一人でもいれば、意外と形になるもんなんですよねぇ。


 ……形は歪になること間違いなしですけどね、なにせその指導者て我らがカカだし。

 

 お楽しみ会まで、あと少し!

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