カカの天下392「卒業、おめます」
しーっ、カカです。
「それでは、送辞!」
ただいま体育館で卒業式の真っ最中。私はクラスメイトたちと一緒に並んで立って、ステージに並んでいる六年生の皆さんを見つめています。
ぶっちゃけ、下級生いじめしてるとこ見つけてぶっ飛ばした顔くらいしか見覚えがありません。
しかしほとんど交流がなかったとはいえ小学校をシメてくださっていた先輩方だ。ここは敬意を表して送辞を手伝ってあげよう。私は代表じゃないから見守り係だけど。
送辞……在校生から卒業生へと送る門出の言葉だ。一年生のころからやってるから大体覚えてる。たしか始まりは……『おだやかな、春です! 僕たち、私たちは、皆さんのご卒業を心よりお祝いいたします!』だったかな。一人一人、代表の人が単語っぽく言ってくんだよね。
最初は五年生が言うんだよね。さぁがんばれ上級生。
「おだやかな!」
「僕たち!」
抜けてる!! 『春です』が抜けてる!! なに自己紹介してるの五年生!?
「皆さんの!」
「ご卒業を!」
「心より!」
「します!」
何をするの!?
あー、思い出した。たしか私が一年生のときにもあったなこんなの。緊張しすぎて焦って飛ばしちゃうんだよね、前の人を。
例えば、『クラブ活動では、わからないところを優しく一生懸命教えてくださいました』っていう感謝の言葉も……
「クラブ活動では!」
「わからないところを!」
「くださいました!」
なんていう、すんごいヤなやつの文章になっちゃったり。
『運動会では、先輩方の頼もしい姿を見て、僕たちも、私たちもと、やる気と、勇気がわいてきました!』っていう心温まる言葉も……
「やる気と!」
「ゆうじがわいてきました!」
ユウジって誰? って身元不明の人物が浮かんできたりするわけだ。
しかしいちいち面白い間違いかたするなぁ皆。
おかげで卒業生の皆さんも父兄の方々も微妙な顔をしてらっしゃる。今にも笑い出しそうな……だって面白いもんね。
「こほん! では……と、答辞! ぶっ」
や、ぶってアナタ。先生が吹いてどうすんの。
「在校生の、皆さん!」
ともかく答辞の始まりだ。がんばれ卒業生。
「僕たち」
「私たちは!」
「今日!」
「します!」
だから何を!? や、卒業なのはわかってるけどさ。
卒業生の皆さんも緊張しているのか、在校生のみんなと同じような間違え方をしていた。例えば、『在校生の皆さん、私たちと同じように、この学校で勉強やスポーツをがんばってください!』という言葉も……
「在校生の!」
「皆さん!」
「私たちと!」
「がんばってください!」
卒業するんじゃなかったんですかアンタら、という文になったり。
『教職員の皆さん、六年間、いろいろお世話になりました!』という言葉も……
「教職員の皆さん!」
「いろいろ!」
「なりました!」
何を教えられてどうなったのか疑問がつきない展開になったり。
『ここまでこれたのは、お父さん、お母さんのおかげです』という普段言わないような家族への感謝の言葉も……
「ここまでこれたのは!」
「お母さんのおかげです!」
お父さんがとても憐れなことになったりと、珍答辞が盛りだくさんだ。
しかしここまで示し合わせたかのように変な言葉になると、狙ってやってるんじゃないかと疑いたくなる。だってほら、その証拠に皆笑って……
笑って……
笑って。
泣いてる?
そっか。
私は六年生に親しい人はいないけど。
そうじゃない人もたくさんいるし。
卒業する六年生だって、もちろん寂しいんだろう。
笑ってお別れする、なんて。どこかのドラマや漫画みたいな話だけど。
「皆さん……本当に、ありがとうございました!!」
「ありがとー!!」
「こちらこそー!!」
笑いながら、泣きながら、もはや答辞とか送辞とか関係なしに叫び始めた皆を見ていると、それに参加してない自分がちょっと寂しかったりして、自分たちの卒業式にはもっと面白いことしてやる、とか考えたりして……
いろんなことを思いながら、私は卒業生たちを見送った。
いいな、こういうの。
今度からはもうちょっと、他の学年の人とも交流してみるようにしようかな。
でも、今はとりあえず。
皆さん、卒業おめでとう!
デストロイヤー教頭主催、自由な卒業式です。
リハーサルの類はしないため、いつもぶっつけ本番です。たまに妙な展開になることもありますが、送りたいように送り、答えたいように答える生徒たちにはわりと好評だったりします。
現実にあったら……どうなるかはわかりませんが^^;