カカの天下39「正月にお帰りなさい」
「あけましておめでとー」
「お、あけおめー」
ここはいつもの通学路。でも久々に通ると新鮮な気がします。
冬休みも終わって久々に再会した私カカと友達のサエちゃんは仲良くマフラーに首を絞められていました。
ん? この表現だめ?
「カカちゃん、今年もよろしくー」
「はいはい、よろしくしたげるから鼻水拭きなさい」
言いながらティッシュを差し出す私。ヤレヤレ、新年早々世話がやける……
と、ぐじゅーと鼻をかんだサエちゃんの視線が宙を泳いだ。
「……? サエちゃん、どこ見てるの」
その視線は右から左へ移動していく……私は視線の先を追ってみたけど、特に何も見当たらない。
困惑している私の様子に気づいたサエちゃんは、にっこりと笑った。
「今年もいっぱい帰ってきてるね」
「帰ってきて……って、なにが?」
「ご先祖様とか」
ご先祖様……? それって、えーっと……たしか私達の前に死んだ人であって。つまりは……
「やだなサエちゃん。そんなこと言って」
「え、だっていっぱいいるよ?」
「やだなやだなやだなーそんなこと言って言って言って」
「もっと言えばいいの」
「ノーさんきゅっ!」
「と、そんなことがあったの」
ちわっす。トメです。
我が妹カカは今朝あったことを説明し終えて、やれやれとため息をついた。
「サエちゃんにも困ったもんだよね。幽霊がいるなんて子供みたいなこと言うんだもん。そんなの見えるって言って他の人の気を引こうなんて、結構ずるいよね?」
「大丈夫だよー。怖くないよー」
「怖がってなんかないっ!」
一応断っておくが、今のセリフは僕じゃない。
家に遊びに来ているサエちゃんの言葉だ。
というか本人の目の前でよくも堂々とそんなセリフを言えるもんだなーと思ったが、サエちゃんはそれが単なるカカの強がりだとしっかりわかってるみたいだ。
なんかいい友情って感じだ。妬ける。
「大体さ、幽霊が帰ってくるなんて、お盆じゃあるまいし……」
「お盆も正月もおんなじようなものなんだよー」
「……へ? どこが?」
カカは首を傾げたが、僕はその話題に合う言葉を思いついた。
「確かに『盆と正月がいっぺんに来たようだ』とかいう言葉はあるけどな」
「そゆことじゃなくてですねー」
そゆことじゃなかったらしい。
「お盆も正月も日本古来の魂祭りとされていて、ご先祖が帰ってくるんだよー」
「……そなの?」
知らなかった。が、知ってるフリをしよう。大人だから。大人気ないとか言わないでね。
「そうそう。だからほら、そこの台所にも帰ってきてるじゃないか」
びしっと指さした先にはなんの変哲もない台所。もちろん僕には何も見えない、が、これはこの場を切り抜けるジョーク……
「あ、おにーさんも見えるんですねー」
……にゃ、にゃにお!?
「髪が長くてー、菊の花の着物着ててー、俯いててー、手に包丁もった女の人がいますねー」
なにそのホラーに出てきそうなわかりやすい設定の幽霊。
「あ、そろそろ帰る時間ですー」
立ち上がったサエちゃんを、カカは必死に引き止めた。
「ね、ねね、ねねねねね、サエちゃん、お、お祓いとかできないの」
「大丈夫だよー。一日中そこで立ってるだけだから」
それも怖いぞ!
しかしカカの必死の訴えも振り捨てて、サエちゃんはあっさりと帰ってしまった。
しばし呆然とする僕ら兄妹。
「だ、大丈夫だって。幽霊なんているはずないじゃん?」
「そ、そうだよ。そうだよね?」
そのとき、突然バタン! という音と共にドアが開き、僕らはそろってビクッと身体を震わせた。
しかし出てきたのは、ただの我らが姉だった。あーびっくりした。
「なんだよ……脅かすなよ」
「えー、いっつもこんなもんじゃん?」
「じゃあ常にもっと静かにしてよ」
「カカちゃんも常に尖ってないでやわっこくなろうよー。ん?」
姉はふと気づいたように台所を見つめる。
そしておもむろに中空に向かってヤクザキックを放った。
「……おい、なにしてんだ姉よ」
「え、なんか邪魔だったから」
「……なにが?」
「なんか包丁持った、着物姿の髪の長い、暗い女」
……まじで?
まじでー?