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カカの天下  作者: ルシカ
389/917

カカの天下389「白い日のアイテム 後編」

「気をつけ、礼」


 号令も終わり、今日の学業は終了!


 ここからが戦いだ。


「サエちゃん、どうする?」


「トメお兄さんもテンカ先生も仕事終わるまでまだ時間あるからー、今のうちにカカちゃんちに行ってそのクッキーを処分するのはどうかなー」


「それで行こう!」


 すでに帰り支度はできている。そうと決まれば即行で帰宅だ!


「カカすけサエすけっ!」


 教室の戸を勢いよく開け放ってサユカン登場。


「私んちに急行でかくかくしかじか!」


「角材で鹿たちをなぐるのねっ!」


「その通り! 待ってろ鹿々!」


「鹿のお肉はおいしいよー!」


 ノリ任せに喋りながら猛ダッシュ!


 トメが帰ってくるまでにクッキーを見つけないといけないから、急がないと!




「あ、おかえり」


「なんでいるのおおおおおお!?」


 帰ってくるなりズザーッ!! とコミカルに転んでしまった私たち三人。


「今日は仕事も少なかったから半日有休使わせてもらったんだよ。なんだ、いちゃ悪いのか」


「悪い!!」


「この悪党めー!」


「犯罪にもほどがあるわっ」


「出頭しろ!」


「妹さんは泣いてるぞー!」


「奥さんも悲しんでるわっ!」


「え、あ、はい、すいません! って思わず謝ったけど待てやオマエラ」


 トメ兄はなんで自分が責められてるのかわからないみたいだ。なんてうまくトボけてるんだろう。こんな悪人が私の近くにいたなんて……


「あー、まぁおまえらの変な言動はいつものことだからいいや。ちょっと待ってろ」


 そして台所へ引っ込んだトメ兄が持ってきたものとは――


「ほれ、これやるよ。食べてみ」


 サラの、じゃなかった。皿の上に少しだけ盛られたクッキー。


 ……クッキー!?


 これって、やっぱあのクッキーだよね?


 まさか私たちまでメロメロにする気か!?


「この極悪人!」


「あくまー!」


「浮気者っ!!」   


「うああ生まれてきてごめんなさい! ってだからなんで僕がそこまで言われなきゃいかんの!?」


「そんなクッキーを食べさせようとするからだよ!」


「……げ、もしかしてバレてたか?」


 あちゃー、と残念そうな顔になるトメ兄。ふん、とうとう正体を現したな!


「大体トメ兄は――」


 さらに文句を言おうと口を開けた瞬間。


「ほい」


「あむ!?」


 前触れなく放り投げたクッキーが私の口の中に!?


「ほい、ほい」


「あむー!?」


「あむっ!?」


 ぽかんと口をあけていたサエちゃんとサユカンの口の中にもクッキーが!!


 あぁ……これで私たちはトメ兄の奴隷になってしまうのか。


 これを噛めば噛むほど、トメ兄のことが好きに……


 噛めば……噛む、ほど?


 あれ? 


 あれれ?


 なんだろう。


 宇宙が見えるよ?


 宇宙にマグマが浮いてるよ?


 あぁ、マグマってすっぱいんだぁアハハ。


 わ、マグマの中から火星が生まれたよ。太陽に勝つために猛特訓を始めたよ。頑張れ頑張れー。


「――ってぇ私はどこの世界に旅立ってたの!?」


 私が正気に戻ったと同時にサエちゃんもサユカンもこっちの世界に戻ってきたらしい。


「あれ? 火山を食べるクマさんどこにいったのー?」


「太陽の姉VS水竜ケロリンの試合会場は!?」 


 二人もいい感じの世界に旅立ってたみたいだ。


「……あー! そういえばトメお兄さんのクッキーを食べちゃったんだー」


「だよね、でも特に変化ないよ?」


「わたしもないわっ」


「この二人は元からトメお兄さんにデレデレだから効果ないのもわかるけどー」


 誰がデレデレだ!?


「ねぇ、トメお兄さん。これってー」


 先ほどから黙ってこちらを見ているトメ兄とサエちゃんが目をあわせたとき。


 サエちゃんの頬が染まった。


 え、まさか。やっぱり薬の効果が!?


 ……あれ。


 私の頬もなんか、熱い。


 頬だけじゃない。あれ、熱い――ていうか、痛い! なんか舌が痛い!! 身体もあちこち熱くて熱くて――


「ひ、ひひゃはっ、ひひゃはーっ!!(し、舌がっ、舌がーっ!!)」


「ひゃふぅー、ははひひょー!!(あうー、辛いよー!!)」


「ひょへひぃ、ほうはっへふほ!!(トメ兄、どうなってるの!!)」


 三人そろってなみだ目をトメ兄に向ける。


 トメ兄は笑っていやがった。


「ふははは! や、予想以上の効果だな。これはテンに食べさせるのが楽しみだ」


「ひっひゃい、ひゃひひゃへはへはほ!?(一体、なに食べさせたの!?)」 


 なんとか言いたいことは伝わったらしい。トメ兄は私の喋り方に笑いながらも、通販クッキーのパッケージにある説明書きを見せてくれた。私が見たのは品名のあたりだけだから、ここを読むのは初めてだ。


 そして、そこにはこう書いてあった。


 『火を吹くほど辛い薬味、略して火薬入り。かやくじゃないよ、ひやくだよ。でもひやクッキーってなんだか語呂悪いから、びやくって読むことにしてびやクッキーね。

 あと、口に含んだときにあまりに辛すぎて身体が拒否して意識飛ぶこともあるので注意。意識が戻ったあたりで身体がだんだんと辛さを自覚していくでしょう。

 でも大丈夫、死にはしない』


「どうだ。テンにやるならこれくらいのネタがちょうどいいだろ?」  


「はひははひーは!!(紛らわしーわ!!)」


「ひゃははへはー!!(騙されたー!!)」


「ひょへはんほひほへはひー!!(トメさんの人でなしー!!)」


「悪い、何言ってるかさっぱり――ぐほぁ!?」


 口でわからないなら身体でわからせてやった。


 うぅ……『びやく』違いだったから気持ち悪い展開にならなくてよかったけど、舌がひりひりするよぅ。


 


 ちなみに、トメ兄がテンカ先生にそのクッキーを渡した結果は。


「ぅぐ……!!」


「ははは! どうだテン。おいしいか。ホワイトデーなのに顔も舌もまっかっかとはこれいかに――え、ちょ、その凶器はシャレにならなグホッ、ぐあっ! いだぃん!? うああああ関節はやめてやめてギブギブ!!」


 ざまーみさらせ。


 鑑定結果を報告します。


 『びやクッキー』


 効果 使った者に対する周囲の人の好感度を下げるアイテム。とことん下げる。しこたま下げる。

 攻撃力は高い。

 血行がよくなる。



 はい、みなさん。

 ホワイトデーは誠意を持って返しましょうね。

 くれぐれも気安い相手だからといってトメのようなことをしてはいけませんよ。

 

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