表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カカの天下  作者: ルシカ
387/917

カカの天下387「社会のルールだ、がんばれタケダ」

「た……頼まれたものを、買って、きたぞ」


 どすん、と重い買い物袋を床に下ろし、手近な机へと華麗に倒れこむ。そんなステキな俺の名はタケダ!!


 ……全然華麗でもステキでもないではないか!


「おー、やっときたー」


「遅いわよ!」


「次に買ってくるのはこれね」


 ご苦労様の一言もなしに渡されるメモがピーラピラ。


「いい加減にしろ!!」


 さすがの温厚な俺でもキレた。


「いいか君たち! 俺が買い出し係というのは百歩譲ってよしとしよう。だが、だが! なぜ俺が自腹を切っていろいろ買わなきゃならんのだぁ!!」


 俺の叫びに目を丸くするカカ君のクラスメイトたち。いやいやなぜそのような不思議そうな顔するのだ!? 俺は至極真っ当なことを言っただけだぞ!


 そう、状況は理不尽極まりないのだ。


 カカ君のクラスのお楽しみ会を手伝うことになった俺。そこまでは良かったのだが……最初の話し合いのときにカカ君が俺のことを『財布』と紹介してからというもの、俺の扱いは本当に言葉どおりのものとなっていた。すなわち、小道具、大道具に必要なものを買うための財布!


 しかもカカ君は大道具小道具の係にはあまり顔を出さないし(ここ重要)!


 とにかくフザケルナ!!


「なぁ、誰か答えてみろ。なぜ俺が自腹を切る必要があるのだ!? 理由はなんだ!!」


 答えられるはずがない!


 そう思っていた……のだが。


「なぜって、なぁ?」


「持ってるやつが出す、それが社会のルールだし」


「社長と飲みに行った平社員は金出さなくていいだろ? そういう決まりなんだよタケダ」


「君ら一体いくつだよ!?」


 そういうのはもっとサラリーなマンとか営業するマンとかされるマンを経験してから言うことだろうっ!


「大体だな、なぜ俺のことを金持ちと決め付けるんだ!」


「だって病院の子供なんだよな?」


「どう考えてもお金もちよね」 


「病院の子供だからって金持ちとは限らないだろう! 最近は不景気で、経営不振な病院だって多いんだぞ! あぁ心配なり日本」


「タケダ、おまえも人のこと言えんぞ。何歳だよ」


 俺は心は大人だからな。 


「とにかく、憶測でなんでも決め付けるのは――」


「じゃータケダ。おまえ月のお小遣いっていくらもらってるんだよ」


「二万だが」


 気がついたら床にキスしていた。


「い、っつぅ……なな、なんだこのモノスゴイ後頭部の痛みとキスの味は」


 クラクラする頭を押さえながら顔を上げると――


 小鬼だ、小鬼がおる。


 はて? カカ君のクラスメイトによく似た小鬼だ。


「タケダ……てめぇ、今なんっつった?」


 男子Aの額から角がにょきっと生えた(イメージです)。


「タケダ君……あなた、さっきなんて言ってた?」


 女子Aの口から牙がのぞく(あくまでイメージです)。


「金持ちとは、限らない?」


 男子Bが手にした椅子を握りなおす、って俺の頭を殴った凶器ってもしかしてソレデスカ(イメージではありません)!?


「俺の小遣い教えてやろうか……月に千円だよ、千円」


「私なんか五百円よ」


「僕なんか家事を一つ手伝うごとに二十円だ」


「オイ、もしかしてこのクラス全員の小遣いあわせたより、タケダのほうが金持ちなんじゃねぇか?」


「ぜってーそうだ」


「クラス全員より金持ち、世の中じゃそれをなんて呼ぶか知ってっか?」


 そそそそれよりもなぜに皆様が恐ろしい存在に変貌しているのかが知りたいのですが(しつこいようですがイメージです)!!


「知らないか? じゃあ教えてやる。社長って呼ぶんだよ社長!」


「オラ社長! 社訓言ってみろよ! 演説してみろよ!」


「俺たちに奢ってくださいよ社長さん! オラァ」


「きゃー。ゴチになります社長!」


「わ、や、ちょっとやめてごめんなさいごめんなさい俺が悪かったですううううう!!」


 か、カカ君。


 君のクラスはもう魔界だ。


 彼らは小鬼だ。強すぎる。なぜあのような姿に……


 あぁ、そうか。


 カカ君と一緒にいるんだもんな。


 そりゃ強くもなるかぁ、アハハ……がく。



 

 数十分後、観念した俺はとぼとぼと商店街を歩いていた。


 両手には買い物袋。重い、でもあまり高いものは買っていない。


 なんだか恐喝にでも遭った気分だったが、彼らの話をよくよく聞いてみれば俺が金を出すのも一理あるような気がしていた。持っている者が出す。それで物事が円滑に進むなら悪くないような気がするのだ。


 などと偉そうなことを言いつつ……他の人に比べて自分が楽してたくさんお金をもらっているという事実が後ろめたくなっただけ、というのが本音だったりするのだが。 


「あれ、タケダじゃないか」


 と、トメさん!?


「おおお俺はもうお金持ってませんよ!?」


「なんだいきなり。トラウマでもあるような反応して」


 はっ!? さ、先ほどの恐怖がまだ残っているせいか、過敏に反応してしまった……落ち着けタケダ。何を慌てることがある。相手は我が最愛の人の兄ではないか。


「コホン、し、失礼した」


「おらタケダ。持ってんだろ? ジャンプしてみろよ」


「持ってないですごめんさいごめんなさいごめんさい!!」


「あれま、本当にトラウマか。あー冗談冗談、だからそんな震えるな」


 ううう……この人やっぱカカ君の兄だぁ。


「それで、なにやってんだタケダ。そんなに荷物抱えて」


「働かない社長がいる会社には未来がない、だから働けって、皆が……」


「……もしもし? どこの会社にお勤めなんですか、おとーさん」


 学校という会社です。意外と忙しいしイロイロあるんです。ホント。


「実はかくかくしかじか……」


「へー、皆のパシリにねぇ。で、タケダは月にいくらもらってるんだ?」


「二万です」


 今度は地面にキスをした。


「このブルジョワがっ! 札束とでも喋ってろ!!」


 えっと。


 もしかして俺の小遣い、すごく多い? 


 地面の味が答えを物語っている気がした。


 ……おとなしく買い出し続けよ。




 持ってる者が払う。

 悲しいけどよくある現実です。

 私?

 持ってないのでよく払ってもら――ええとても感謝してますしてもしきれませんすいません><(誰に言ってるかはナイショ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ