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カカの天下  作者: ルシカ
385/917

カカの天下385「チェンジ! 中編」

 こんばんは。前回に引き続きトメです。


 演技の練習をするためと言ってチェンジしたカカとサエちゃん。


 カカっぽく行動しようとするサエちゃんと楽しく戯れていたのも束の間。夕食を作り始めた途端にサエちゃんは黙り込んでしまいました。


 一体どうしたんだろう、何があったんだろう。


 疑問に思いながらもなんとかハンバーグとサラダを作り、食卓へと並べるところまでいきました。


 さぁ、どうする。


「はい、あーん」


「はい?」


 さぁ、どうなってんだこりゃ?


 食卓について「「いただきます」」の合掌を終わらせた途端、スススと寄り添ってきたサエちゃんが箸を持ってサラダをつまんで僕のお口に「あーん」とかましてきましたよ? 


「あーん!」


「や、あの、サエちゃん? どうしたのホント」


 さっき黙り込んだかと思ったら、なぜに急にそのような笑顔?


「どうしたって、カカちゃんの真似してるだけですよー」


「カカはそんなことしないぞ」


 何か裏があるとき以外は。


「したくても恥ずかしくてできないだけですよー。だから代わりに私がしてあげるんです」


 なんつー強引な理屈だ。


「はい、あーん」


「や、でもさ、さすがにこれは」


「あーんしないと、このまま目に突っ込みますよー?」


「……そういうとこはカカっぽいのな」


 観念して口を開けると、おずおずとサラダが口の中に入ってきた。強引にさせたわりには遠慮がちだな。


「はい、次はハンバーグですね」


「や、サエちゃん。だからもう自分で」


「トメにぃーって頭のてっぺんにもお口があってハンバーグくらいなら一口で食べてしまうという噂は本当ですか?」


「あー、つまり言うこと聞かないとハンバーグ頭にぶっかけるぞコノヤロウってことか」


「そうともいいますねー」


「……あーん」


 サエちゃん、なんか変だ。


 無理にテンションを高くしようとしてる気がする。カカの真似をしてると言いつつ喋り方は元に戻ってるし。


「はい、あーん」


「あの、サエちゃん? コップに入ったお茶をあーんで飲むのって結構しんどいんですけど」


「じゃーハンバーグにかけて一緒に食べればおっけーですねー」


「やめろ! さっきの梅こんぶ抹茶味レベルになるだろ!」


「じゃーおとなしくあーんしてください」


 一つだけ、思い当たることがある。


「なんでコップまで箸で持つの!? 危ない危ない落ちる落ちる!」


「器用でしょー。あ」


「あ!!」


 冷たい、じゃなくて。


 コホン。思い当たることあるんですよ。


 もしそれが正しいなら。多分この夕食が終わったあと――




「トメにぃー。一緒に寝ましょー」


「やっぱきたか」


 もう夜。そろそろ寝るかな、と電灯を消して自分のベッドに寝転がっていた僕は、予想していたその声を聞いて身体を起こした。


 部屋の入り口を見る。そこにはカカの枕持参で部屋へ入ってきたサエちゃんが。


「カカちゃんならこうしたいと思いつつ、たまにしかできないはずですー」


「……はいはい、おいで」


 仮にもカカを世話してきた身だ。恥ずかしながら、子供と寝るのは慣れている。


 小さい頃にカカと一緒に寝ていたときのようにスペースをあけてあげると、サエちゃんは恐縮しながら布団に入り込んできた。


 そして、何を思ったのかもぞもぞと僕の身体をまさぐり始めた。


「ちょ、なにサエちゃふははは! くすぐったいぞやめはは」


「お手!」


 え、あ、はいはい手をさがしてたのね。 


 適当に差し出した僕の手を探り当てたサエちゃんは、控えめにその手を握ってきた。


 これは、あれだね。もう間違いない。


 何かあって甘えてくるときのカカと一緒だ。


「サエちゃん、聞いていい?」


「手をつなぐ以上のことはダメですよー」


「そうじゃなくて! あのさ。さっきハンバーグ作ってたとき急に黙っちゃったじゃん。あれ、どうしたの?」


「あー」


 サエちゃんは照れくさそうに布団に顔をうずめた。


「ちょっと、小さい頃を思い出しちゃったんですー。お父さんとお母さんと、三人でハンバーグを作ったときのことー」


 お父さんと、お母さん。


 そう、か。


 姉づてに聞いたサカイさんの話が確かなら、サエちゃんはずっと本当の両親と離れ離れの状態なはずだ。


「お父さんのハンバーグが一番大きくて、次がお母さん、一番小さいのが私でー、自分で食べる分なんだから、当たり前なんですけど」


 サエちゃんの顔は、布団に隠れて見えない。


 今、どういう顔をしてるんだろう。


「できあがったハンバーグを並べて……並んだハンバーグが、家族みたいで」


 今、どういう気持ちなんだろう。


 わからない、わからないけど……さっきの夕食のときに甘えてきたのは、きっとその気持ちのせいなんだろう。


「家族が、三人とも、一緒だったんです」


 そのときは、と小さな呟きが聞こえる。


 静寂。何を言おう、何が言える? 僕は何を言えばいい?


 ……や、余計なことは言わないほうがいいだろう。自分の家族の話が人づてに伝わっていたなんて知ったら気分が悪いだろうし。あくまで何も知らないことにして話を進めよう。そして、できるなら――慰めてあげたい。


「サエちゃんちの家族は、うまくいってないの?」


 ぴく、と少し身じろぎするサエちゃん。


「いえいえー、うまくいってますよー」


 その声は極めて平静だった。


「でも、ちょっと、甘え方がわからなくてー」


「えっと、僕に今してるみたいに甘えたらいいんじゃないのか?」


 サエちゃんは少しだけ寂しそうに笑った。


「だってこれは、トメお兄さん相手にカカちゃんの真似をしてるだけなんですもん。私はカカちゃんを演じて、甘え方をなぞっているだけ。だから簡単、だからわかるんです。でも……」


 本当の両親じゃない人たちに、どうやって甘えたらいいかわからない、か。


「あ、トメお兄さん。手を離しましたねー。お手!」


「……はいはい」


 布団の中ではぐれた手を見つけ、もう一度握る。


 今度は、ぎゅっと。


「あったかい……ですー……」


 とろんとした声。そろそろ眠いみたいだ。


「家族って、あったかい……」


 幸せそうな声。


 なのに、切なく思ってしまうのはなぜだろう。


「トメにぃー、知ってますー?」


 ぎゅっと握り返してくる、小さな手。


「家族のぬくもりって、結構すぐに冷えちゃうんですよー……」


 口調は相変わらずゆったりと。


 ほんの少し寂しさを見せながら。


「だからー……たまに温めてもらわないとー……心が寒くて……泣いちゃうことも……あるん……で……す……」


 静かな寝息が聞こえる。


 サエちゃんは今、泣いていたのか。それは布団に隠れてわからない。


 僕は、何も言えなかった。


 だから、考えよう。


 伝えたいことがある。


 それを言葉にするんだ。


 どうせ時間はたっぷりある。


 考えて、考えて――明日、教えてあげよう。


 もう、心が寒くならないように。






 しっとりな終わりに浸りたい人は後から読んでね。








 ――さて、書き始める前はここまでで前編のつもりだったというのに、気づいたらどんどん長く……

 愛が成せる業ですね(ぇ

 明日は後編!

 はたしてトメはまたもやいい格好しやがるのか?

 それとも今回みたいにいい思いをしやがるのか?

 

 うらやましい状況なトメにムカつきながらお待ちください^^

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