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カカの天下  作者: ルシカ
383/917

カカの天下383「話の中にお入りなさい」

「練習をしよう!」


「おー!」


 元気よく言い放つカカすけ、それに賛同するサエすけ。そしてそれを呆気にとられながら見つめるわたしはサユカです。


「学校終わって『早く早く!』と連れてこられて何かと思えば……一体なんの練習よっ」


「もちろんお楽しみ会の劇の練習だよ、サユカン。私たちは主役なんだよ? 学校にいるとき以外でもちゃんと練習しなきゃいけないの」


「勝手に主役にしたのは君らでしょっ」


 そこまで強制される筋合いはないわっ、とそっぽを向いてみる。すると二人は――焦るどころかニヤリと笑った。


「へー、そっか。主人公のトメに食べられたくないんだ」


「そ、それはそうよっ、なんで好きな人に食べられなきゃいけないのよっ」


「じゃートメお兄さんが他の人を食べてもいいのー?」


「別にトメさんが何を食べてもいいじゃないのっ」


「そっかー、トメお兄さんと他の女が一つになってもいいんだー」


 ひ? と? つ?


「そっか。食べるってことはそういうことだよね」


「劇とはいえどもー、せっかくトメお兄さんと合体できて身も心も一緒になるチャンスなのにー、きっと温かいだろうなートメお兄さんの中。気持ちいいだろうなートメお兄さんと合体。でも仕方ないかー、こうなったらサラさんあたりに頼んで合体させ――」


「冗談じゃないわっ! トメさんの全てはわたしのモノよ! 皿は皿! 料理をのせるものであって食べるものじゃないのよっ!」


 まんまとノセせられた気もするけど構わないわっ。こういう言い方されちゃ黙ってられないのよっ。


「よし、サユカンもやる気になったとこで早速練習しよっか」


「それはいいけど……何するのよっ?」


「んーっとね」


 わたしが問いかけると、カカすけは周囲をキョロキョロと見渡して――やがて何かを見つけたのか、わたしたちを手招きしながら歩きだした。


 わたしとサエすけは首を傾げながらもついていく。途中、カカすけが唇に人差し指をあてて「しーっ」と合図したので、なるべく音をたてないように進む。


 そして先行していたカカすけに倣って草むらに身を潜め、視線の先を追ってみると……


「ネコと、犬?」


「総理大臣だねー。あの犬は初めて見るけどー」


「あの犬はラスカルっていうの。ああ見えて三匹も子持ちの主婦なんだよ」


「わー、苦労してるんだねー」


 犬に主婦とかあるのだろうか。ほとんど全員ニートのような気がするんだけど。


「じゃあ練習しよっか。あの子らになりきって会話するの。セリフは各自で考えて」


「わ、おもしろそー」


「だけど難しそうね……それにこっちは三人、あっちは二匹よ? どうすんのよ」


「んじゃ最初は私とサエちゃんで見本をみせよう。私は総理大臣役ね」


「じゃー私はラスカルでー」


 じゃ、わたしはツッコミね。


「いくよ、あの子たちの動きに合わせて会話するの。せーの」


 じっ、と総理大臣とラスカルを見つめる二人。役に入り込んだのかな。わたしも二匹のほうを観察しよう。


 じっと見つめあっている総理大臣とラスカル。やがて、ラスカルが「あん」と小さく吼えた。


 そしてラスカル役のサエすけが口を開く。


「わかってるでしょー? あの子たち、三匹ともあなたの子なのよ。どう責任とってくれるのー?」


 いきなり話が重っ!!


 切なげに鳴くラスカル。しかし総理大臣はあくまでクールに「にゃ」と短く応えた。


「責任なんて知らねぇよ。だって俺、ネコだモン」


 即興でやるにしては妙にキャラが立ってる気がするんだけど気のせいかしら?


「大体よ、おめーの子供は全員、犬じゃねぇか。俺の子だってんなら少しくらいネコっぽくなるはずだろ。耳がネコだったり、下半身だけネコだったり、犬の顔とネコの顔が二つくっついてたり」


 それじゃ突然変異の障害者じゃないの。 


「そうならないところを見ると、大方じつは俺の子じゃなかったとか、そういうオチじゃねぇのか?」


「そんなことないわよー。うちの子たちはね、みんな魚が好きなの。ネコが好きな魚が特にー、これはあなたの血をひいている証拠よ?」


 あ、意外と多いらしいわね、魚が好きな犬。


「どの魚が好きなんダ?」


「鮪よー」


「俺は鰹が好きだ、つまりそいつらは俺の子じゃネェ!」


「じゃー鮪は嫌いなのー?」


「ぐ」


「鰤は? 鰆は? 鯖は? 鯵は? 鰻は? 鮟鱇は?」


「く、くそー。そんな読めない漢字ばっかりだしてきやがって」


 このネコは何を言ってるのかしら。


「は、はん、そんなこと言って誤魔化そうとしても無駄だぞ。どうせ他の犬とも付き合ってんダロ? シューあたりが怪しいな」


「確かにあの男は犬みたいなものだけどー、犬として見ても特に魅力がないからありえないわよー」


 犬って……ごめんシューさん。ちょっと納得しちゃった。


「本当に、俺の子なのか?」


「ええ。そして私はあなたを愛してる。そういう設定だもの」


 設定てオイ。


「悪かったなラスカル、俺、おまえのこと誤解してたよ」


「気にしないで、あなたは総理大臣だもの。きっといろいろと大変なんでしょー?」


「ああ、実は今日も野党(野良猫党)がさー」


 いい雰囲気で見つめあう総理大臣とラスカル。そういえばあの二匹、ホントにずーっとちちくりあってるけど……珍しいわね、ネコと犬であんな仲良いの。


 あれ、こっちに気づいたのかな。二匹が同時にくるりとこちらを向いた。


「ところでラスカルよ」


「なんでしょう総理」


「俺たちがうまくいかねぇのはさ、やっぱり種族が違うからだよナ?」


「そうですね。ああ、そういえばこんな伝承を思い出しました。人を食べると人間に化けることができるようになると」


 一歩一歩、静かにこちらへと向かってくる二匹。って、え?


「そう、か。じゃあ、あそこの人間を食えば」


 がし、と押さえられる両肩。え? えっ?


「私たちは、幸せに……」


 ゆらゆらと近づいてくるネコと犬。目がぎらぎらしてる? 舌なめずりしてるっ!?


 あぁなんか総理大臣の顔が般若に見えてきた! ラスカルの口がパカって開いて竜の口みたいに牙がキラリと光って切れ味よさそうにわたしのお肉を狙ってる!? 冗談よね、うそっ、ちょっとカカすけサエすけ肩離してよ逃げられないじゃないっきゃああほんとすぐ近くまで来てる来てるいやああぁぁ!!


「いただき」


「まーす」


 ぺろり、と両頬を舐められて。


 わたしは気絶した。


 意識が落ちる寸前、「サユカンって役に入り込むタイプなんだね」「本番が楽しみー」とかいう薄情な声が聞こえたような気がした。 


 あなたはだんだん眠くなーる。

 あのネコと犬が喋ってる風に見えーる。

 食べられーる。

 

 たぶんサユカちゃんの中ではこんな感じだったんでしょうね^^;

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