カカの天下381「監督はフリーダム」
よう、オレだよオレ。わ、バカ待て切るな、オレオレ詐欺じゃねぇよテンカだよ。
こほん、よし。珍しくオレが視点だからってチャンネル変えるんじゃねぇぞ貴様ら?
今な、うちのガキどもがお楽しみ会の準備やってんだ。午後からの二時間使って自由作業。本当は担任のオレがクラスの監督すべきなんだろうが、全くしてねぇ。
なぜか? 面倒だから、それもある。
だが理由は他にもある。見てみたいからだ。あいつらがあいつらだけで、どんなものを創りあげるのか。
とはいえ……まったく無視するわけにもいかねぇしな。劇をするのは知ってるが、どんなことをするのかは全く知らねぇ。しかし一応ちゃんと『何か』をしてるか見回るくらいはしなきゃな。
たしか体育館でなんか練習してるって言ってたよな、とそこへ向かう途中。
「あそこ、やけに騒がしいな……あん? 保健室?」
まさか。一応覗いてみると、案の定うちのクラスの男子どもが数人詰め掛けていた。
「何の騒ぎだ?」
「あ、先生」
この連中は……たしか、カカに渡した運動神経いいやつ名簿の上にいたやつらだ。
「何があった?」
「えっと、その……カカと体育館で練習してて、みんな保健室行きに」
下を向きながら恥ずかしそうに言う男子A。
「なんの練習だ?」
「空を飛ぶ練習です」
「飛んでるのはてめぇらの頭じゃねぇのか」
「いいえ、カカの頭です」
それは間違いない。右斜め下を見つめている男子Bの言うとおりだ。
「でも、俺たち頑張ります」
お?
「絶対に飛んでみせますよ!」
意気込みながら左斜め上に向かって吼える男子C。
「なんでそんなにやる気あるんだ」
「だって飛べたら格好いいじゃないですか」
「飛ぶっつっても、どうせカカに吹っ飛ばされるとかそんな役だろが」
「なぜそれを!?」
図星か。
「でも、飛べたら格好いいことには変わりないんです!」
ふむ? 保健室行きになってるわりには妙にやる気に満ちてるな、こいつら。ただ吹っ飛ばされるだけじゃないのか。
「ま、がんばれ」
「がんばります!」
「あと、人と話すときは相手の顔を見たほうがいいぞ」
「無理です!」
そう、こいつらが保健室にくることになった原因。
この男子どもは揃いもそろって、首が変な方向に曲がったまま戻らなくなっていた。
カカに殴られて首がおかしくなったのかね。ま、男は頑張るもの見つけて怪我するくらいがちょうどいい。ほっとこう。
保健室を後にしたオレは教室へ行ってみた。実は午後の授業が始まってからは一回も行ってねぇ。うちのクラスは昼休みの時点で劇の準備に取り掛かってるから号令する必要もねぇんだ。自由にさせすぎ? オレは放任主義だからいいんだよ。
やがてたどり着いた教室を覗くと、楽しそうに小道具を作っている男子と女子が見えた。
「わたしの武器はバナナよ!」
「俺の武器はサルだ!」
「私の全てはカレー」
どんなもん作ってるのかわからんが楽しそうで何よりだ。
「あれー、テンカ先生じゃないですかー」
他の子に指示を出していたのだろう、女子数人の塊からサエの顔がひょっこりと現れた。
「よ、はかどってるか?」
「はいー、彼のおかげで」
サエの視線の先には……たしかタケダとかいうやつ。
あいつ、なんで真っ白になってんだ? しかもチャイム鳴ってるのに自分のクラス戻らなくていいのか?
「先生は見回りですかー?」
ま、どうでもいいや。
「おう。と言ってもあまり干渉する気はないがな。他に別教室とか使ってるやつらはいるのか?」
「はいー。音楽室でアヤちゃんを中心に、女子たちがイロイロとー」
「よし、いってみるわ」
こいつらの邪魔しても悪いしな。そう思ってオレは早々に教室を出た。詳しく作業内容を聞いたりはしない。『何か』をしっかりやっているなら、それでいいのだ。
さて、音楽室は……ここだな。
がらり、と戸を開ける。
「ねぇ皆、この『暗いBGM』って歌でどう表せばいいと思う?」
「BGMだからぁ、歌っていうより音よねぇ」
「暗い音を、皆で声に出して歌えばいいんじゃない? ららら〜♪ じゃなくて、でろでろ〜、とか」
「暗い音ならズーン……とかじゃない?」
「それ反省するときの音よ。暗い音といえばグチャとかネチョとかベチャでしょ」
「なんだかホラーっぽくて、暗いというよりグロくないかしら?」
「昨日の映画見たんでしょ。『ツンデレゾンビ』とかいうやつ。『別にあんたのために生き返ったんじゃないわよ!』って名言よね。あ、ちなみに私はヒューどろどろどろ……とか良いと思うけど、どう思う? アヤ」
「じゃーいっそ全部合わせちゃいましょ! 皆で適当に歌ってみるわよ! せーの」
『でろでろズーンでろでろでろ♪ ツンデレゾンビがグチャネチョベチャ! グチャネチョベチャ! グロ! ヒューどろどろどろ』
ピシャリと戸を閉めた。
しかしそれでも異界の歌は音楽室から漏れてきてオレの耳を侵食する。おのれ、もう少し頑張れ防音設備。高い金払ってんだから気味の悪い音の一つや二つ封印しやがれ。
封印……オレがするべきなのか。いや、しかしもう一度この音楽室の扉を開ける勇気はない。開けたが最後、まるで無数の蟲が耳の中に入ってくるようなおぞましい悪寒に襲われるに違いない。
いや、しかし、このようなBGMを全校生徒と保護者の方々に聞かせるわけには……
聞かせたら、きっと……
おもしろくなるな。ならいいや。
オレは耳栓もってこ。
「よし、全体的に見てオレのクラスは順調だ」
それさえ確認できればオレの仕事はもう終わりだ。
順調に変なもの――オレの大好物ができている。
頑張ってくれよ、カカ。
もう三月もすぎ、思いのほかお楽しみ会も迫ってきました。ちょっとのんびりしすぎたかな^^;
次のカカラジまでの間くらいまで、主にお楽しみ会の話中心になるかと思います。
普通のなんでもない話派の人には申し訳ありませんが、ちょっとばたばたしてしまうことをお許しください笑