カカの天下378「ひな祭りは女性の天下」
「ただいまー」
「ん、おかえり」
どうも、会社から帰ってきた僕の挨拶に応えながらもパタパタと居間で動き回ってるっぽいカカの姿に首をかしげるトメです。
「なにやってんだ?」
「ひな祭りの準備に決まってるでしょ」
あー、そっか。そういえば今日って三月三日か。
雛人形……出してやりたいけど残念ながらもう出せないんだ。なぜかというと原因は一昨年前。カカと姉がひな祭りで暴れたせいで、飾ってあった全ての人形の首を落としてしまったことがあったからだ。
ポロポロと首が落ちまくる様はとてつもなく怖かった。
それ以来うちで雛人形を飾ることは禁止された。なんか呪われそうだから。
「……忌まわしい記憶があるから、今日のことすっかり忘れてたな」
「女の子の日を忘れるなんてトメ兄それでも男なの?」
「そう言うカカは覚えてたのかよ。学校行く前は何も言ってなかったけど」
「私はサエちゃんに聞いて思い出した」
「普通そういうのは女の子自身が覚えてるもんじゃないのか」
「違うよ! 女性を敬うべき男性が覚えてるべきなんだよ」
……ひな祭りって女性を敬う日だっけ?
「というわけで、敬え」
「無理」
「えー」
そんな不満そうに言われても。
「じゃあ今日は女の子の日だし」
「はぁ」
「トメ兄は男だし」
「ああ、それで?」
「消えてよ」
「そんな悲しいこと言うなよ」
泣きたくなるじゃん。
「だって女の子の日に男がいるなんて変だよ」
「じゃーアナタ様は本日全ての男に絶滅せよと仰るつもりか」
「今日だけでいいよ」
「んな器用なことできるか!!」
相も変わらず無茶苦茶を言うカカにツッコんだところで、ピンポーンと来客。
「お、きたきた」
てってけてーと玄関に向かうカカを尻目に、さっきまでカカが動き回ってた居間の様子を見てみる。お皿、コップ、ジュース……ひな祭りの準備とか言ってけど、お茶会みたいなことする気かね。
「おじゃましまーす」
「おじゃましますっ」
「おう、いらっしゃい。なにそれ、お菓子?」
サエちゃんとサユカちゃんはそろって小奇麗な包みを持っていた。春のイメージっぽいピンク色の可愛らしい包装だ。
「はい、今日のお茶会のために持ってきましたー」
「やっぱりお茶会するんだな」
「ひな祭りってことで色んなお菓子売ってたんですよっ。特にこの『桜大福のパイ包み』がすごく楽しみなんですっ」
うきうきと語るサユカちゃん。やはり女の子にとって甘いものは特別なんだろうなぁ。しかし大福のパイ包み? 桜大福って桜餡の大福かな。甘党としては気になる。
「さて、じゃあ始めますかー」
「そだね。女の子の日のお茶会だー、ていうわけでトメ兄消えて」
「なぁ妹よ。そんなにお兄ちゃんが嫌いか?」
消えろって言葉、結構胸にくるんだぞ? グッサリと。
「だって今日は女の子の日なんだよ?」
「そ、そりゃそうだけどさ」
「トメ兄って男だよね?」
「……ああ」
「この下等生物が!!」
ちきしょーなぐりてー。
「まーまーカカちゃん。やめなよー」
「そ、そうよっ! 男だから不参加なんて、そんなこと――」
「――は当たり前なんだけどー」
ええっ、と勝手にセリフを被せられてのけぞるサユカちゃん。
「トメお兄さんが女になれば問題ないでしょー」
…………アンダッテ?
「その手があったか。はいトメ兄。お姉のおさがりの服」
「なぜ即行でそんなモノが出てくる!?」
「こんなこともあろうかと」
「頭いいなオマエ!!」
そこまで未来の予測ができるようになるなんてお兄ちゃん嬉し――いわけあるかいボケ!!
「なんだって僕がそんな服を!?」
「女の子の日だからー」
「だからってな、良い大人がそんな!」
「子供の遊びに付き合えてこそ良い大人だと思うんだけど」
「くそー、頭がよさそうな言葉で頭が悪い要求しやがって」
……着るの? これを? 僕が?
「なぁ、サユカちゃんも何か言って……あれ? なんでサユカちゃん目が虚ろなの? なんで姉の服もってこっち迫ってくるの? なんで半笑いなの? なんで三人とも、え、ちょ、ちょっと待っ」
数分後。
とりあえず言いたいことは一つ。
スカートって下がスースーするわね、いやん、
いやんじゃねえええええええええええ!!
激しく心の中で叫び、おそるおそる僕をこんな姿にした(どんな姿かは細かく描写させるな、頼む)三人の小悪魔の顔を見てみる。
三人とも、口元をヒクヒクさせまくっていた。
どう見ても笑いをこらえようと必死だった。
泣いていいですか?
「ト、トメ兄、あ、あの、あのさ……ブッ」
どこにナニ吹きだしてんですかカカさん。
「……イイ」
サユカちゃん、正気に戻ってよ!
「トメお兄さん、『あん、いやだ、やめてよバカ』って言ってくださーい」
サエちゃん要求レベル高っ!?
「言ってくださいっ」
「言ってよトメ兄」
ちょっと待て! それを言うことにこそ『やめてよバカ』って言いたいんだけど! あぁでもそれじゃ結局言うことに!?
「言え」
「言えー」
「言ってくださいっ」
ぐぐぐ、こんなに女性陣が強いのはひな祭りだからか。瞳から発射されるキラッキラの輝きに負けそうになる……ものすっごく楽しんでるなコイツら。わくわくしてるのが音にして聞こえてきそうだ。
「「「わくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわく」」」
「やかましい!!」
じゃーやって、と期待する三人の目線。
く、くそぅ……子供付き合いのいい大人になるには通らねばならない試練なのかこれは。保護者たる大人はみんなこの試練を通ってきたのか。すげぇな大人って。大尊敬だ。
あー、うー、ええい、やけくそ!
「あ、あん、いやだ、やめてよばか」
「もっと可愛く」
「あん、いやだ、やめてよバカ!」
「もっと甘くー」
「……あん、いやだ、やめてよ、バカ」
「もっと色っぽくっ!」
「あぁん、い、や、だ♪ やめてよバカァン」
完璧だ。
ぶははははははははははははははははバンバンバン!!(テーブルを叩く音)ドタバタドタバタ(腹を押さえて転げまわってのた打ち回る音)ヒー、ヒー、ヒー!(呼吸困難の音)
死んでいいですか?
身投げするため立ち上がろうとした僕の肩を、ぐわしっと小悪魔の手が掴む。
「まだ終わってないよー、ト、メ、子、ちゃん?」
「トメ美ちゃんのほうがいんじゃない?」
「わ、わたしはトメ香ちゃんのほうがっ」
「サユカンたら自分の名前とおそろいにしたいのね」
「やーらしー」
「なんでよっ!?」
あぁ神様。
タスケテ。
今日ってひな祭りだったんですね! いやぁ私も忘れてました、さっき知り合いに聞いてようやく思い出したところです笑
今日書こうと思っていたのを急遽変更。ひな祭りかー何書こうかなーと思ってたところでもらった差し入れが作中に出てきました桜大福のパイ包み。
桜餡がすごく甘くて甘党な私にはかなりグッド! コーヒーと一緒にいただきました。そして思わず作中で出しました笑
もしお店にあったら甘党の人はオススメです^^いやまぁお店によって味違うでしょうけどね^^;