カカの天下376「事件は会議室で起こってる、いや起こす準備をしている」
「あ、サエちゃん。いらっしゃい」
「こんにちはー」
はいこんにちは。カカです。
いよいよ来週から本格的に始まるお楽しみ会の練習に向け、今日は最後の台本まとめ会議です。サユカンはあえて呼んでいません。そう、あえて。
「さ、どうぞどうぞ」
「トメお兄さんはー?」
「居間でゴロゴロしてる」
私の部屋へ行く前に覗いてみると、私の言葉どおり転がってテレビをぼけーっと見ているダメっぽい大人が見えた。
「トメお兄さん、おじゃましまーす」
「おー、いらっしゃい」
ちらりとこちらに顔を向けて挨拶したかと思うと、すぐにテレビに顔を向けるトメ兄。
「何見てるんですかー?」
「カメの産卵」
「……はぁー。おもしろいんですかー?」
「意外と」
なんか瞳に涙をにじませて熱心に見入ってる。
「あんなの放っておいていこいこ」
「う、うんー」
去り際に居間から小さく「がんばれっ」ってテレビへの声援が聞こえたような気がしたけど、気のせいということにしておいた。
さて、部屋に落ち着き、早速会議開始!
「決まってないのはなんだっけ?」
「全部ー」
前途多難だなぁ。
「とりあえず一つずつ決めてこう。まずは主人公は私だけど……どういう感じで何をすればいいのかな」
「カカちゃんはいつもどおり、なにはともあれぶっ飛ばす、って感じで突き進めばいいかとー」
「私、いつもそんな感じ?」
「大体はー」
そうだったのか。まるで姉じゃん。まぁそういうの得意だからいいけどね。
「主人公の方針はこれでいいとしてー、みんなの意見をどういう風にまとめるかが問題だね。『飛べ』とかー」
「ぶっ飛ばしたら飛ぶんじゃない?」
「それもそっかー」
問題一つ解決。
「他は……あ、そういえば劇のタイトルも決めてないやー」
「あ、それそれ。さっき思いついたんだけどさ。劇名は『トメの天下』にしようと思うの」
「トメさん出るのー?」
「や、私がトメって役やるの。なぜなら敵がサユカンだから」
にやり、と私の考えを一瞬で見抜いたサエちゃん。
「セリフが楽しみだね」
「うんうん。でも問題が一つあるの。そこらへんのセリフはいくらでもホイホイぽんぽんドカドカずんずん浮かぶんだけどさ、他のところが微妙なんだよね。なに喋らせればいいんだろ」
当たり前だけど、私に台本を書いた経験なんてない。サエちゃんも同じだろう。はたしてセリフなんてどうすればいいのか……小首をかしげる私。でもサエちゃんはまったく問題ないよーとばかりに微笑んだ。
「セリフなんか考えなくていいよー」
「え。じゃ、どうするの」
「劇の流れだけ説明してー、次の場面に移れるように各自で適当にやってもらうんだよー」
「あ、なるほど! どうせハチャメチャ劇って言ってあるんだし、それでいっか」
「いちいちセリフ考えるの面倒だしー」
「サエちゃん天才! 楽することの天才! どこかのヒキコモリ星人みたい!」
「嬉しくないよー」
褒めてるんだけどなぁ。
「じゃさ、必要な小道具とかは」
「それも各自でー」
「ちゃんと用意してくれるかな」
「用意できなかったらペナルティつければいいよー。一週間の休み時間、全部ひたすら便所掃除とかー、一週間ずっと便所味の給食を食べるとかー」
「……サエちゃん、ほんとによくそんなに黒いこと思いつくね」
「黒いって言わないでよー」
だって仕方ないと思うよ? そこまでいったら。
「んー、でもやっぱり物語の主軸がいまいち決まってないからまとめづらいねー」
「よし! じゃあ主人公に聞いてみよう!」
「どゆことー?」
私は立ち上がり、サエちゃんを手招き。
居間へゴロゴロしているトメ兄の下へいく。
「トメ兄、ちょっといい?」
「んー?」
トメ兄はテレビに熱中しているのか上の空。ま、いっか。
「ちょっと聞きたいんだけどさ。トメ兄の好きな国ってどこ?」
「アトランティス」
ふむふむ、舞台はアトランティスっと。
「いま、なにしたい?」
「夕飯食べたい」
主人公は夕飯を食べるために旅にでかけるっと。
「なに食べたい?」
「竜田揚げ」
竜を食べるための冒険がはじまるっと。
さらさらとノートに書いたあらすじをサエちゃんに見せた。
拍手された。
うん、こんな感じで行こう!!
今日はいろいろ決まりました!
決まりました?
……何が決まったんでしょかね笑