カカの天下371「想いは歳より真剣さ」
「かんぱーい!」
「んなでっかい声出すなよ……カカが起きるだろ?」
「細かいこと言うね、男のくせに。ほれほれ、かんぱーい」
「はいはい、乾杯」
軽く缶ビールをコツンとあわせ、少しだけ口をつける……どうも、トメです。ただいま時刻は0時をまわったところ、よい子は寝る時間なのですが、悪い子(子って歳じゃないが)の襲撃によって僕の睡眠時間は危うくなってまいりました。
「で、急に飲もうなんてどうしたんだよ。気持ち悪い」
「つれないこと言わないでよぅ。たまには姉弟水入らずも悪くないじゃん?」
唇をとがらせながら柿ピーやポテチなどのおつまみをテーブルに広げていく姉。絶対何か企んでるな。
「それでは、インタビューのコーナー!!」
ほらきた。
「わ、なにその冷たい視線。酒の席に恋バナはつきものじゃん?」
「寝るわ」
立ち上がりかけた僕の腕をがっしり掴む姉の魔手。
「あたしの酒が飲めんのか?」
「飲めんと言ったら?」
「トメが寝ている間に鼻から飲ませる」
「…………」
「もしくは股間から飲ます」
「わかったよ!」
うちの姉妹はやると言ったらやる。仕方なく座りなおし、ヤケくそ気味にビールをあおった。
「んで、何が聞きたいんだよ」
「んふふふー、いくつかあるけど、まずはサユカちゃんの話かな」
「……なんのことだ?」
「しらばっくれても無駄、あたしには優秀なスパイがついてるからね。どう告白したか、どういう風に区切りがついたかも一通り知ってるんだよ」
本当か? 適当な嘘を言って詳しく話を聞きだそうとしてんじゃないのか。
「で、告白でおしっこされて気持ちよかった?」
「そのとてつもない言い方はやめろ!!」
くそぅ、本当に詳しく知ってやがる。
「そんで、返事はどうだったの?」
「なんだ、そこは知らないのか」
「んっふっふ、違う違う。トメがどう答えるつもりだったのか、聞いてるんだよ」
……そう、正確に言うと僕は返事はしなかった。
サユカちゃんが見つけた最適な答えに、ただ頷いただけだ。
「それを聞いてどうする」
「酒の肴にする」
「あのなぁ……」
呆れる僕をカラカラと笑い飛ばす姉。
「いいじゃん、どうせ結果は出た後なんだしさ。そのときの自分の気持ちを話すことで、わかることもあるかもよ?」
……まぁ、姉の言うことにも一理ある。家族ということで照れくさいが、こいつがテンと同じくらいに色々と相談しやすい相手には違いないし……いいか。
「答えようとしてたのは……そうだな。『サユカちゃんに好きって言ってもらえて、僕は嬉しい。でも、付き合ったりとかは無理だと思う。歳が違うから、僕は君を女としては見れない』と、そんな、感じかな」
からかい風味だった姉の表情が、少しだけ真剣味を帯びた。
「へぇ、フッちゃうつもりだったんだ」
「そうすべきだと思ったよ。だってサユカちゃんまだ小学生だぞ? 僕なんかのためにそんな若いうちから人生決めさせちゃったら可哀想だ」
そう、思っていた。幼い想いと勢いだけで、人生の中で最もと言っていいほど大事な今の時間を無駄にさせないために――キッパリと言ってしまうべきだと。
「でも結局フッたりはしなかった、だね?」
「ああ。そこまで知ってるなら、わかるだろ? 一緒にいられるだけでいい、だからもっと仲良くしてください、なんて……そんなこと言われて嫌と言えるわけがない」
やれやれ仕方ない、とため息をつく僕。しかし姉は僕の心を見透かすように見つめてきた。
「困った風に言ってるわりには、嬉しそうだけど?」
「そうか?」
「それっぽいこと言って、あんた結局サユカちゃんの好き好きオーラに負けただけじゃん? サユカちゃんは真剣に考えてきた。真剣に想いを伝えた。それにあんたは真剣に応えざるをえなかった。歳の差とか体面とか恥ずかしさとかを気にしてはぐらかす、ってことができなかったんだ。しかもなんだかんだでサユカちゃんが可愛いから、なおさら」
「……うるさいなぁ。弟いじめて楽しいか」
「楽しい楽しいあっはっはっは!」
笑われまくるが憮然とするしかない。ああそうさ。僕は単に負けたんだ。サユカちゃんに。
あのときのサユカちゃんは、大人だった。
もしかしたらこの先、僕はあの子を好きになるかもしれない――そう思わせるくらいに。
「んじゃさ、テンちゃんはどうなの?」
「テン?」
「バレンタインデーにいろいろあったみたいだけどー?」
「いろいろって……飲みに行っただけだぞ。チョコはもらったが、あいつは単にゲームがおもしろそうだから参加しただけだろうし」
「……こっちの進展はまだまだか。ちったぁ自意識過剰になりゃいいのにこの弟」
「なんか言ったか?」
「いやいや、別に。あ、ビールなくなった! おかわり」
「はいはい」
冷蔵庫に次の缶ビールを取りにいきながら、ふと思って聞いてみる。
「なぁ、姉。こんなこと聞くのもなんなんだけどさ」
「んー? なにさ弟」
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、閉める。
「サユカちゃん、こんな僕のどこが好きなんだろうね」
「そりゃあんた、本人に聞きなさいな」
「聞けるか!」
恥ずかしいにもほどがある!
「んなこと言ったってあたしにわかるわけないでしょが」
「……そこまでいろいろ知ってるならもしかしてと思って」
座りなおし、新たなビールを姉に渡す。
「あたしにわかることは一つだけだ」
「なんだ?」
「サユカちゃんのふとももは、おいしそう」
「黙れ貴様」
「じゃあサユカちゃんの今後の衣装について会議しようか」
「だから僕は――」
こうして、くだらないことを話しながら夜は更けていく。
……いや、訂正。あまりくだらなくないか。
サユカちゃんの話をしたおかげで、少し気が楽になったかもしれない。
なにせ。
バレンタインデー騒ぎのあとから、結局ほとんどサユカちゃんと喋っていないのだから。
バレンタインデーはごちゃごちゃしてたからともかく。
改めて会うとなると……恥ずかしいもんだ。困ったことに。
今日のはコメディ分控えめです。告白、そしてバレンタイン話が終わったあとに書いておかないと、と思っていた話です。
サブタイトルの通り、想いに大事なのは真剣さであって年齢ではないと思います。年齢が関係ないとは言いません。あらゆることにおいて経験があるのとないのとは大きな差ですからね。
でも、想うことにおいて何より大事なのは『真剣さ』だと思います。
――なんて、えらそうなこと書いてるわりにはサユカちゃんのふともも話でオチをつける私って……これでいいんだろうか笑