カカの天下370「いい仕事!」
「よ、おもしろい店員」
「よう、おもしろい客」
どんなファミレスでの挨拶だ、これは。たしかにファミリーっぽい気軽さではあるが。
あ、どうもトメです。今日は夕飯を食べにファミレス東治にまで足をのばしてみたのですが、毎度のおもしろ店員にカカは喜んで絡んでいきましたとさ。
「メニューでございます」
「私が着てるこの服は?」
「おそらくおニューでございます」
「牛が出すのは?」
「牛乳でございます」
「あそこの席のお客さん二人は?」
「貧乳と巨乳でございます」
「店員さんが好きなのは?」
「爆乳でございます」
ニューニューにゅーにゅーと、なんで仲良くなってんだこいつら。
「今日もいかしてるね、店員さん」
「恐縮です。ではご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
丁寧にお辞儀して去っていく好青年……しかし。
「おい、そこの小僧!」
厨房の方へ戻ろうとしたバイト青年を呼び止める粗雑な声があった。
「なんでしょうかお客様」
「このパスタ見ろよ! 髪の毛が入ってるじゃねぇか!」
「あぁ、本当ですね」
「どうしてくれんだコラ!! こんなもん食わせやがって、いますぐ取り替えてこい!!」
うわ、厄介なお客だ。髪の毛入りの食事を食べさせられたら確かに気分は悪いだろうけど、そこまで怒鳴りつけることないと思う……店員君はどんな風に返すんだろ。
「……本当にお取替えしていいのですか?」
「あん?」
「この髪の毛、細さと長さから察するに先ほど帰ったバイトの髪に間違いないかと」
「それがどうしたってんだ!?」
「そのバイト、背は155と少々低めですが胸はボンバーお尻はマンボゥ、いつも流し目うっふんあっはんフェロモンむーんむんの20台の人妻さんの髪の毛なのですが……そう、ちょうど帰るところの、あの方です」
店員君が指差した窓からは、ちょうど車に乗ろうとしている女性が見えた。なるほど、前は見えないけど後姿だけ見るなら相当綺麗だ。
「……ごくり」
「あんなべらぼぅにぶらぼぅな女性の髪の毛入りパスタ、マニアなら垂涎の一品を……本当に代えてしまってよろしいんでしょうか?」
「いや、男として断じてそれはできん! 皿まで完璧に舐めつくしてくれる!」
「ありがとうございます。調理した店長も喜ぶことでしょう」
「ぐっじょぶ、そう言っておいてくれ」
「かしこまりました」
ほんとこの街はバカばっかだ。
「すいませーん」
「はいただいま! ……失礼します。ご注文はお決まりですか?」
「チャーハンをつゆだくで」
僕の妹もバカだ。
「かしこまりました」
かしこまるコイツもおかしい!
「そちらのお客様は?」
「あ、僕は、んっと……このハンバーグのセットを」
「つゆだくで」
「あ、こらカカ」
「かしこまりました。ハンバーグセットのご飯をつゆだくですね」
「しかもご飯!? ハンバーグじゃなくてご飯をつゆだくなの!?」
「まさかつゆだくだくで!?」
「誰もそんなこと言うとらんわ! ご飯に何のつゆをだくだくさせる気かは知らんが却下! 普通ので頼む!」
「えー」
「店員がえーとか言うな!」
「かしこましました……はぁ」
「面白くなさそうにため息もつくな!」
「では少々お待ちください……はぁ」
「だからさ!」
全て承知の上、とでも言うかのようにニッコリ笑い、厨房へと去っていく店員。まったくもう……何笑ってんだカカ。
「トメ兄、やっぱあの人おもしろいね」
「……まぁ、否定はしないが」
腹が減ってる身としてはちょっとうざいぞ。
――やがて、つゆだくのチャーハンがきた。
「あんかけレタスチャーハンでございます」
なるほど、あんかけがつゆだくということか。
ためしに一口もらってみると、ジョークで出てきた料理のわりにすごく美味しかった。
うーん、いい仕事するなこの店。
いろんな意味で。
意外と人気な店員登場!
このレストランとお客様はフィクションです。でももし実在したらごめんなさいm(__)m