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カカの天下  作者: ルシカ
368/917

カカの天下368「ヤツがくる」

「くるっ、くるのよっ!」


「ど、どしたのサユカン。そんなに慌てて」


 ごちそうさま、カカです。


 そう、今ちょうど給食を食べ終わったところ。


「サユカちゃん、お通じでもきたのー?」


「おお! おめでとう!」


「そうじゃなくてっ!」


「じゃーまだ便秘なの?」


「サユカンかわいそう」


「話聞けやっ!!」


 えー、もうちょっと遊びたいなー。


「くるのよこのクラスに! あの人が!」


 む、あの人? サユカンの言い方に興味がわいたので、遊びは中断して話を聞いてみることにしよう。


「誰がくるってのさ」


「カカすけは聞いたことない? 毎日わたしたちが食べている給食……その給食はクラスのみんなでよそって配ったりしてる。だから毎日の中でおかずがあまったりすることも結構あるわ。休む人だっているんだもの、それは仕方のないこと。でも――」


 何が恐ろしいのか、サユカンは身震いしながら話を続けた。


「その給食の『お残し』が臨界点を突破したとき、給食センターからわざわざやってくるという……」


 サユカンが意味ありげに間をためる。そしてそれをさらに盛り上げるかのような悲鳴が廊下のほうから聞こえてきた――廊下のほう?

 

 なにか、くる?


「先生も警備員も誰も止められない、放たれたが最後、言いたいことを言い終えるまでけっして口を止めることがない最強のケモノ……」


 どすん、どすん、どすん、と。


 まるで怪獣のような足音が廊下のほうから聞こえてくる――気がした。


 その足音はやがてはっきりと聞こえてきて。


「その名も――」


 教室のドアが開く。


 そいつが姿を見せた。


「給食の、おばちゃん!」


「『お残し』するごはいねぇがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 


 こ、ここここ、こわっ!?


 あまりに人外な迫力にビビりまくる私たちクラスメイト一同!


「ちょぉぉぉぉっとアンタたち! 黙ってあたいの話を聞きなさい!!」


 その猛禽類のような眼光に、教室に居た全員がすくみ上がり、思わず「はいはいなんなりとお申しつけくださいませ!!」とばかりに頷いた。


「最近さ……このクラス、お、か、ず、残、す、子、が! 多くないかい!?」


 それはサユカンにたった今聞いたばかりの内容だった。曰く、成長期にしっかり食べないと大きくなれない、好き嫌いするな、などなど。この上もなくわかりやすい口上を述べるおばちゃんに嫌気がさしたのか、ちょっかいを出す生徒が現れ始めた。


「うるせぇなぁババー。適当に食ってりゃ身体は育つもんだろが」


「おだまり、そこの未来のチビデブ!!」


「チビデ……! おいこら、人の未来を勝手に決めるな!」


「はん! あんたみたいな不摂生ばっかしてる子はね、背がのびなくて腹がのびるに決まってるんだ!」


 どキッパリと断言されて唖然とする男子。と、そこで勇敢にも前に出る女の子がいた。


「あ、あの……ちょっといいですか」


「なんだい未来のぺったんこ」


「ぺ、ぺた――!」


 絶句する女子。哀れ。


「それがイヤならもっと食いな。あんたみたいなヒョロっちぃ子は食べすぎくらいがちょうどいいんだよ!」


「は、はいぃ……ご、ごめんなさい。それであの、その、『お残し』が多かったのはですね、多分、この間の日に欠席がいっぱい出たから……」


 あれ、もしかしてそれ私たちのこと? 


 バレンタイデーの日……みんな休んでたんだよね。 


「そんなの関係ないよ! それなら他のやつらがいつもの倍食えばいいだけじゃないのさ! 無理? 子供が胃袋やデブを気にしてどうする! あたいらが汗水たらして作ったおかずを捨てなきゃいけないこの悲しみが、あんたらにわかるかい!?」


「え、この給食って汗水たらしてるの? 調味料がわりに? うげろ」


 おばちゃんの勢いがおもしろくて、ついつい私も口を出してしまった。


 当然、おばちゃんの視線は私のほうへ。


「給食がまずくなるでしょ。冗談でもそういうこと言うんじゃないよ」


「う……は、はい」


 あまりに真摯でマジメな瞳に、思わず頷いてしまった。


「わかったね、未来のセクシーダイナマイツ」


 微塵もマジメじゃないし!


「おばちゃん。誰がボンキュッボンになるって?」


「子供のくせに古い言葉知ってるね。あたいはただ見たまんまを言っただけさ。あんたはしっかり食べる子だ。だからこれからもちゃんと成長するわ」


 そ、そうなのかな。確かに運動する分ちゃんと食べるようにしてるけど。


「あんた、名前は?」


「カカだけど」


「カカ? カカだって!? ほー! あんたがあの!」


 あれ、おばちゃん私のこと知ってるのかな。


「弟からたまに話は聞いてるよ、面白い子だってね。うんうん、そんだけしっかり食べてるようならそりゃ面白くもなるわ! いい笑いはいい食事がないと生まれないからね!」


 弟? 誰のこと?


「じゃ、あたいは帰るよ! いいかいあんたら! ちゃんと飯食うんだよ!」


『はーい!!』


 話し合いとも名ばかりな勢いに押される形だったけど、給食のおばちゃんがあまりにも恐ろしく凄むもんだからクラスメイト全員が最敬礼で応じることになった。


「あ、そうそう! あたいのことは南おばちゃんと呼んでおくれ! じゃね!」


 最後までハイテンションを保ったまま、給食のおばちゃんは去っていった。


 給食のおばちゃんって……怖い。


 それにしてもあのおばちゃんって誰から私のこと聞いたんだろ。


 弟……弟……


 あ。


 そういえば、給食のおばちゃんの名前って、南おばちゃんなんだよね。


 名前に西と東の漢字が入った料理系の人いたね。きっとそれだ!


 そろって料理、そろって濃い兄弟姉だ。


 きっと料理の味も濃いに違いない。


 ……や、おいしいんだけどね?


 実は隠れて設定していたもう一つの三きょーだいがこれで揃いました。

 お料理三人衆! アダルト三人衆よりもさらに(年齢が)上をいくトリオである!

 ……や、だからって登場しまくるわけでもありませんが笑


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