表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カカの天下  作者: ルシカ
366/917

カカの天下366「増えたカカ」

「ただいまー」


 疲れたー……体調が回復して間もなく出勤した仕事は予想以上にきつかった。それでもなんとか終わらせて帰ってきた僕を待っていたのは……久々に見るホワイトボードゲームだった。


 説明しよう! ホワイトボードゲームとは、我が家の玄関に設置されているホワイトボードに書かれている『何か』にリアクションをとらなければいけないというゲームである! カカの気まぐれで起こるそのゲームを無視したが最後、カカは拗ねてしまうのだ!


 さてさて、今日は何が書いてあるのかな?


 えーと。


『私カカは分裂しました』


 いきなり恐ろしいことを言う。養育費かさむじゃん。僕の心労も募るじゃん。


『元のカカに戻るためにはみんなを一箇所に集めなければいけません。家の中に隠れているので見つけましょう。玄関に集めといてくれるとわかりやすいです』


 はぁ、つまりは玄関の近くにいるわけね、カカ自身は。


『一人目のヒント。台所』


 んー、つまりはその『分裂したカカ』とやらを集めればいいのか。


 仕事から帰ってきて疲れてるけど……これもリハビリと思って付き合ってやるかな。


「まずは着替えよっと」


 わざわざ声に出して言ったのは、隠れているはずのカカに『僕が無視しようとした』と思われないためだ。拗ねて出てこられてもおもしろくないからね。


 自分の部屋に戻り、気楽な格好に着替え――ているうちに、押入れの隙間から見慣れない布端がはみ出ているのに気づく。おそらくはカカの分身の一つか。


 ……ヒント無視して順番を間違えても拗ねるんだろうなー、カカ。


 見なかったことにした。台所台所、と。


 ふむ、来てみたけどカカの分身とやらが隠れるスペースはない。でも分裂したからには小さくなってるのかも。そう思い棚の中や冷蔵庫などを中心に調べていくが……何も見つからない。


 ふと、コンロの上にのっている鍋に気づく。


 あれ、こんなの使ったっけ?


 疑問に思い、ためしに鍋の蓋をあけてみると――ビンゴ。中に小さな人形が入っていた。人形の頭に貼ってあるのは一枚の紙キレ。手にとって読んでみる。


「えーと、なになに……? 『分裂カカ、一人目。一子さん』か。一人目だから一子、なんともまぁ簡単なお名前で」


 文章にはまだ続きがあった。


『趣味、お料理』


 鍋の中に居たってことは自分がお料理される気満々じゃん。むしろそれこそが趣味なのか? 


 僕は自虐趣味のある哀れな人形を掴み、玄関へと戻ってきた。適当にホワイトボードの下に置いておく。


「さて、つぎは――あ、書き込み変わってる」


 僕が人形を探している間に書き変えたか。やっぱ近くにいるな。えーと……


『二人目のヒント。トイレ』


 トイレか……すぐ見つかりそうだな。


 その予想は的中だった。


 二人目の分身人形は便器の中にいたのである。汚れないようにラップで包んであった。細かい配慮は褒めるべきだが、さすがにこの中に置き去りにするのは人形かわいそうだぞ。


「えーと、ラップの中にまたメモがあるな。『分裂カカ、二人目。二個さん』って、『個』かよ! モノ扱いかよ! かわいそうに……」


 まだ続きがあった。


『趣味、便所』


「どんな趣味だよ」


 設定までかわいそうな二個さんを玄関へ運ぶと、さらなるヒントが書いてあった。


『三人目のヒント。おまえのねぐら』


「兄にむかっておまえとは何だ!」


 文句を言いつつも自分の部屋にもどり、さっきの押入れを開ける。やはりすぐに見つかった。


『分裂カカ、三人目。サンコンさん』


「いきなり中華風になったな」


『趣味、日中戦争』


「こえーよこのサンコンさん」


 日中関係をより良くするために玄関へと戻った僕を迎えたのは、新たに書き加えられたホワイトボード。


『ごめんなさい』


 ああ、さっき怒ったからか。


「まー許してやろう」


 で、ヒントは?


『四人目のヒント。そこ』


「どこだよ」


 とりあえず周囲を見渡すと――それはすぐに見つかった。


 僕が帰ってきたときに脱いだ、靴の中に。


 人形を取り出し、メモを見る。


『くさい』


 なら入るな。


『とてもくさい』


 言い直すな。


『病院いったほうが』


 余計なお世話だ。


『分裂カカ、四人目。死子』 


 だからいちいちこえーよ。


『趣味、どすこい』


 ……シコ踏むからか? これは怖くない。


「さて、次は」


 あれ。そういえば僕がここにいるからもうホワイトボード書けないんじゃないか?


「えーと」


 変な沈黙。


「んー」


 やっちゃったーどうしよー、って感じのオーラがどこからか漂ってくる。


「とりあえず今日はこのへんで合体しといて、続きがあるなら今度にしないか? 今日は特大チキンカツの特売あるから、そろそろスーパーいかなきゃだし」


 チキンカツ、という言葉に喜びオーラを隠せないらしいどこかにいるはずの我が妹。


「んじゃ五秒目をつむったら合体な。はいつむった。1、2……」


 5、と数え終わり、目を開ける。


 するとそこには人形を手足にぶら下げたカカが立っていた。ひもで吊るしてるらしい。


「合体! カカ復活!」


「はいはい、買い物いくぞ」


「あ、待って。私もいく!」


「はいはい、その身体にひっついてる人形とってからな」


「待っててー!」


 ドタドタと騒がしく自分の部屋へ用意しに向かう妹の後ろ姿を見ながら。


 僕って付き合い良いよなぁ……と、少し自画自賛してみた。


 今日も今日とてまったり話。

 ちょっとしたリクエストもあり、久々にホワイトボードの登場です笑

 

 チキンカツ……買いにいってこよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ