カカの天下365「しげ遊び」
「トメ兄、大丈夫?」
「うーん……うーん……」
こんにちは、カカです。
急いで学校から帰ってきて、すぐに寝込んでいるトメ兄の部屋へと直行する私って妹の鑑ですよね。でも唸ってるだけで反応なし。お父さんの攻撃でくたばっているからと言っても、ちょっとひどいんじゃないでしょうか。
「ねーねートメ兄」
「うーん……爆発が……チャンピオンのラーメンがぁ」
「もう! トメ兄!」
無視ばっかして……そっちがその気なら!
ズボッ!!
「はなげっ!?」
ブチッ!!
「みみげっ!?」
プッツン!!
「どこのけ!? ……うぅ」
「あ、起きた起きた」
私の愛の力だね。
「いつつ……か、カカ、おまえ今なにした?」
「トメ兄、その前に言うことは?」
「……おかえり」
「ただいま!」
うん、挨拶は大事だよね。
「で、なんの用だよ妹」
「わ、そういうこと言うの? 暇してるだろうと思って遊びにきてあげたのに」
「せっかくなら自然に起きた後に来てほしかったが……ま、いっか。あんがとあんがと」
ぽんぽんと私の頭を叩くトメ兄。ん、許してあげよう。
「じゃー遊ぶよ!」
「なにして」
「んー……あ。とりあえずそれ代えるね」
トメ兄のおでこにのっているおしぼりを手に取り、洗面所へたったったー。ところでトメ兄って怪我で寝込んでるんだよね。これする意味あるのかな? ま、いいや。
冷たい水で絞りなおして――なんとなく思い立ったことがあり、他にも三つおしぼりを取り出してトメ兄の部屋へと戻った。
「おー、おかえり……なにしてんだ」
「おしぼりのっけてるの」
「額にのせるのはわかる。だがなぜ両肩とへその上にまでのっける?」
寝ているトメ兄の身体の上にひし形の頂点っぽく置かれた四つのおしぼりを確認して、コホンと私は咳払い。
「えー、これからおしぼりの冒険物語を始めます」
「……おしぼりの?」
「うん。まずね、トメ兄の身体の上はおしぼりの王国なの」
「僕の身体も出世したもんだ」
「それでね、おしぼりの名前は……シゲル君!」
「うわ、そんな親近感わくおしぼり初めて見た」
「この四つのおしぼりはね、シゲル、シゲール、シーゲル、シゲルーっていってね」
「覚えやすいんだか覚えにくいんだか、よくわからんな」
「この王国を治めているのはこの四つのおしぼりなの。東西南北に分かれて住んで、国を守ってるんだけど……うーん、誰がどこにいくべきかな」
「んー……シゲルは南かな」
「なんで?」
「語呂がいいから」
「ミナミシゲルでございます。うん、たしかに」
その他はあんまり語呂がぴったりこなかったので、適当に北がシゲルー、東がシゲール、西がシーゲルということになった。
「そしてここで驚愕の事実が!」
「いきなりだなオイ」
「どんな事実がいいと思う?」
「決めてないんかい。んー……じゃあ、実はシゲルーは女だったとか」
急展開だ!
「シゲルーを取り合って争いを始める、ヒガシゲールとニシーゲル!」
「なんか短くなったな」
「その間にちゃっかり彼女をかっさらったシゲル!」
「サエちゃんみたいなヤツだな」
たしかに。
「そして結ばれた二人はかけおち、シゲル王国を徐々に移動して……」
トメ兄のへその上から南下。ちょっとモコっとしたとこで止まる。
「……おい、なぜそこで止める」
「なんか茂ってて進めないんだよ」
「た、たしかに茂ってるけどさ」
ん? 「しげ」って言葉使いたかったから適当に言ったんだけど……たしかに茂って? どういうことだろう。ここら辺って何か茂ってるのかな。
「……そんなにしげしげと眺めるな!」
「あう、そんなにげしげしと蹴らないでよトメ兄」
「ったく……あ。なぁカカ」
「なにさシゲル」
「誰がだ」
おっと。
「なに、シゲル兄」
「おしぼりの兄になった覚えはない。それはともかく、あのゴミ捨ててくれるか?」
トメ兄の指差した先には空のペットボトルが。
「えー、それくらい自分で……」
ふと気づく。
「資源ゴミ、しげんゴミだこれ!」
「よくできました。よしよし――じゃなくてげしげし」
「なんで蹴るの」
「ノリで」
こんな感じで今日はシゲルで遊んだ。
そこそこ楽しかった。ありがとうシゲル。
シゲル君。
彼を見て思いついたお話。
ただそれだけです。
うーん、久々に普通な感じです笑