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カカの天下  作者: ルシカ
362/917

カカの天下362「バレンタインゲーム おまけそのに」

 バレンタインデー、ニシカワ君の場合。


 こんにちは、僕の名前は西村。え、西川じゃないのかって? だっていま西に川ないもん。村があるもん。だから西村なんだよ。


「えー、チョコー、チョコはいりませんかー?」


 僕は今こんな感じでチョコを配っている最中だ。もちろん僕は男だし、バレンタインデーにチョコを配り歩く趣味なんてない。なのになぜこんなものを配っているのか。


「ほらほら注目! 私の愛のこもったチョコがほしい人は他にいませんかー? ほら、もっと気合入れて配りなさいよ」


 それは僕が、自称『学校のアイドル』アヤの付き人だからだったりする。


 ……幼馴染やってるうちに、いつのまにかこうなってたんだよね。


「なぁアヤ坊。なんで僕も配らなきゃならないんだ?」


「なによニッシー。嫌なの?」


「別に毎年のことだからいいけどさ、なんでかなーと」


「そりゃあなた、アイドルがファンの一人くらいはべらかしてないと格好つかないからでしょ」


「はー……そーですか」


「なによその『はーヤレヤレ』って目は! 相変わらずダルダルで言いたいこと言わないんだから」


「えー、だって余計なこと言うの面倒くさいし」


「ほんとニッシーって西の川だの村だのってこと以外は無気力よね」


 そう、僕は西のことになると人が変わると言われている。なぜかは知らない。


「それはなんというかほら……西川になるのが僕の使命だし」


「じゃあ私の付き人も使命と思ってがんばりなさい!」


「はいはい」


 アヤ坊に付き合うのはいつものこと。面倒とは思いながらも廊下に出て、チョコを配っていく……30個入りの箱に入っていたチョコはすぐになくなった。高飛車でわがままだけど結構人気あるんだよなーアヤ。あと単にチョコに飢えてる男が多かったのか。


「よしっ、ご苦労様!」


「はいはい、じゃ僕は戻るから」


「待った! はい」


 ぽん、と手渡される包み。たった今まで配っていた安いチョコの包みとは全然違う。


「頑張ってくれたお礼ね」


「ありがとさん」


「ニッシー。もうちょっと感動とかないわけ? アイドルからバレンタインチョコもらっといて」


「毎年のことだし」


 喜ぶのも面倒だ。


「ま、それもそっか。じゃ今年もよろしくね」


「はいはい」 


 にこやかに笑って去っていくアヤ坊。ああいう笑顔は可愛いんだけどなぁ……なんて思ったところで周囲の視線が痛いことに気づく。


 ああ、ここ廊下だっけ。教室に戻らないと――そう思って振り返って歩き出したとき。


 ドン、と。


 その人に衝突してしまった。


「おっと、大丈夫かね、君」


「え、あ、はい……教頭、先生」


 やばい、デストロイヤーだ。


「その手に持っているのは、まさかお菓子か?」


 まずい、学校にお菓子持ってきたなんて知れたら怒られる。


 怒られるのはとても面倒だ。


 とてもすごく面倒だ。


 ……よし。


「え、えっと。実はこれ、教頭先生に!」


「私に? まさか君は性別の壁を破壊しようというのか?」


「そーです」


 めんどいからそれでいいや。


「ふむ……まぁ、そういうことなら」


 アヤ坊に怒られるだろうけど、それもいつものことだからいいや。




 バレンタインデー、タケダの場合。


 こそこそとカカ君の教室を覗き込む我が名はタケダ!


 せっせと夜なべして用意した手作りのチョコ……これをカカ君に渡すのだ! ん? 男のくせにバレンタインデーにチョコを作った理由か? そんなものは決まってるだろう! カカ君が俺にチョコを作るはずがないからだ!


 しかしカカ君はああ見えて義理がたいからな! チョコをもらえばホワイトデーにお返しをくれるだろう! きっかけ、そう、きっかけ作りが大事なのだ! この際体面などは置いておく!


 しかし……むむ? カカ君は一体どこに?


「何をしておる」


「うぉあ!? あ、ああ、教頭先生」


「それは、なんだ」


 その、鋭い眼光に――


「まさか、学校に菓子なんぞを?」


 俺の言葉がデストロイされた。


「ん? なんだ、それは私にくれるものだったのか?」


 こくこく、と勝手に頷く俺の首。もう思考も破壊されてるっぽかった。


「ふむ、そういうことならば仕方ない、もらっておこう」


 こくこく、と怯えたように頷く俺。実際怯えてるんだが。


「いやぁしかし……最近の若者はエライ趣味をしておるなぁ! まさか男から男に、しかも中年男性に片思いとは!! はっはっは!!」


 その、無駄にでかい声によって。


「ひそひそ……タケダ君って」


「ニシカワ君も……って話よ」


「不潔……」


「イヤー! キャー!」


「じゅるり……あ、ヨダレが」


 俺の評判も、見事に破壊された……

 



 バレンタインデー、教頭先生の場合。


 まったくもってけしからん! あぁ、私は教頭だ。いま巡回を終え、職員室の自分の机に戻ったところだ。


 座りながら嘆く。バレンタイン、まぁいいだろう。テンカ君や他の女子生徒が数人休んでいるのも愛のためならば致し方ない。だが男のくせに学校にチョコを持ってくるなど……情けないことこの上ない! せいぜい悪い評判で懲りるがいいわ!


 さて。


 ふむ……


 おお。おー。


「あ、あの、教頭先生」


「なんだね」


「いくら甘党だからって……生徒からチョコを取り上げてパクパク食べるのは教師として」


「教師としての理念など、とうの昔に破壊しておる」


「……そんなにチョコ好きなんですか」


「大好きだ」


「……おいしいですか?」


「死ぬほど」


 なんでこんなバレンタイン話を書いたか?


 投票数が多かったからですが。


 何か問題でも?

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