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カカの天下  作者: ルシカ
360/917

カカの天下360「バレンタインゲーム 後編」

 ……どうも、前回からピンチ真っ最中なトメです。


 状況は最悪だ。


 右向けばサユカちゃんが首に彫刻刀を当ててチョコをもらってくれなきゃ死ぬと言う。


 左向けばサエちゃんがカカを人質にとっててチョコをもらってくれなきゃ目をサクッといくと言う。


 で、僕はどっちを向いても殺される。


 どないせいっちゅうねん。


「トメさんっ」


「トメお兄さーん?」


「トメ兄……」


 うぅ、サユカちゃんは思い込み激しいっぽいから勢いでやっちゃいそうだし、サエちゃんはなんていうか黒いし、ああもうどうしよう。


 とりあえず……会話して説得できないか探りを入れるしかないか。


 まずはサユカちゃんを見る。


「わたし……このチョコ、一生懸命作ったんですっ」


「う」


「これが受け取ってもらえないなんて……失恋したも同じだわ……死のう」


「待てぇい!!」


 説得できねぇ!!


 こっちは諦めてサエちゃんとカカの方を見る。


「サエちゃん? まさか本気じゃないよね」


「本気ですよ、ええ、それはもう腹黒ですからー」


「え、えっとサエちゃん? なんかスネてない?」


「えーえーもうなんとでも言ってください黒いですからー。真っ黒ですからー、黒くなれるだけ黒くなってやろーじゃないですかー」


 や、やっぱなんかスネてる。


「大体ですねー、最近損な役回りばっかりなんですよー。私だってたまには良い役やりたいのに黒い黒いってみんなが言うから私もそうせざるをえなくてー、サユカちゃんのときだって……ぶつぶつ」


 愚痴り始めたし!


「ほらほらー。早くしないとカカちゃんの視界も黒くなりますよー?」


「トメさんっ! 早く選んでくれないと、わたし、ショックで死んでしまいますっ」


 ……ぴく。


「トメ兄! 助けて!」


「ほらほらー、カカちゃんとサユカちゃん、どっちをとるんですか? 早くしないと両方死んでしまいますよー?」


 ……ぴく、ぴく。


「トメさん……そっか、そうですよね、わたしのチョコなんて……うん、死のう」


「トメお兄さん、時間切れですー。残念ながら――」


 …………ぷつん。


「――なさい」


「はいー? トメお兄さんなんて言いましたー?」


「トメさん?」


「三人とも、こっちにきなさい」


「トメさんー? 答えになってな」


「来い」


「「「ひっ」」」


「そこに並びなさい」


「え、えと、トメ兄?」


「早く!!」


「は、はいぃ! そ、そんな怒らないでよぅ」


 おとなしく並んだ三人に電光石火でゲンコツをくらわす。


「「「いだぁっ!?」」」


「おまえらね……悪ふざけにもほどがあるだろ!! 彫刻刀を人に向けて、軽々と死ぬだの殺すだの……そんな言葉を使うんじゃありません!!」


 キレた。


 こいつらに対する戸惑いよりも、兄として教育すべしという義務感のほうが上回って……気づいたら僕は説教をかましていた。


「いいか、死ぬとか殺すとかそうい言葉は(中略)っていう気持ちになるだろ、すると(中略)って心が傷ついて(中略)ということになるんだ、わかったか!」


「「「はい……」」」


「よし、じゃあ三人とも中に入りな。罰として今日は家の中で遊ぶこと!!」


「「「ごめんなさいでした……」」」


 すごすごと家へと入っていく三人。まったく……こんな本気で怒ったのは久しぶりだ。でもこういう躾はきちんとしておかないとな、うんうん。


 さて、じゃあ僕も家に……って、あれ。 


 そういや僕、ピンチ切り抜けちゃってるじゃん! うわ、すごいな僕――っとぉ!!


 またもやどこからともなく飛んできた矢を跳びずさって避ける、地面に刺さった矢の先にはまた紙が張ってあった。


 曰く、『親みたいな説教しやがって。俺の役を盗るな』って……仕方ないだろうがアンタが率先して親らしくないことしてんだから。僕がしっかりするしかないだろう。


 なんにせよ、これでピンチは脱した。あとは誰もこないようなところに避難して、母さんに電話を――うわぉ!?


「はぁっ!! む、避けたか」


「あ、あぶな……姉! いきなり殴りかかってくるとはどういう了見だ!」


 なんでこんなに千客万来なんだよ今日は!


「あたしの拳にチョコをはりつけてある。つまり当たったら負けよ!」


「なんでおまえらそんなに僕を殺したいのさ」


「や、別に弟を殺したいわけじゃないよ? 商品がほしいだけで」


「……どういうことだ」


「あれ? 読んだんでしょ、紙。バレンタインゲームだよ。トメにチョコを渡せるのは一人だけ、渡した人には豪華商品が」


「そんな『狙う側』の設定は初めて聞いたぞ!!」


「あ、そういやそっか。まーそういうわけでさ、その賞品ってあたしの自腹なのよ。だからあたしも勝たないといけないの」


「その賞品のために僕、殺されかけてるんだが」


「だってそうでもしないと盛り上がらないでしょが」


「んな当然みたいな顔して人の命を危険にさらすなよ!!」


「あー、うっさいな。おら!」


「うわぁ!?」


 問答が面倒になった姉が踏み込んでくる――速い。振るわれる拳、右膝を脱力させてわざと転んでなんとか避ける。転がって体勢を立て直しながらも逃げる算段をたてないと――カカならともかく、姉のようなバケモノを捌く自信はない!


「くっ……姉!!」


「あん? なにさ」


「手に貼ってたチョコ、落ちてるぞ」 


「え?」


 思わず自分の手の甲を覗き込む姉。視線が逸れた今がチャンス!


「シュバッ!!」


「え!? うそ!」


 ふっ……忍者のクソオヤジが得意な神速移動術。伊達に何度も見てきたわけじゃない。


「と、トメ……いつのまにそんな技を! くそぅ、まだ遠くには行ってないはず! どぉぉぉこぉぉぉぉだぁぁぁぁぁ!!」


 どどどどど! と砂煙をあげながら去っていく姉。


 馬鹿だなぁ姉は。


 僕はあんたらと違って普通の人間なんだ。


 んな移動術なんかできるわけなかろう。


「本当は電柱に隠れただけなのに……シュバッって言っただけで勘違いするんだから姉もアレだよなぁ。まぁ本当にシュバッと移動する父親がいるってだけでも充分アレだが」


 アレが何かは想像に任せる。


「さて、さっさと移動を」


「トメさーん」


 今度はなんだよぉ!?


「サカイさん……」


「トメさん、チョコを受けとってくださいー」


 またか……


「さもなくば殺すー」


「それもまたか!!」


 直球で来たなオイ!!


「ふふふー、キレたヒキコモリをなめちゃいけませんよー」


「最近のご時世を考えると非常に怖い脅しだが……」


 こないだ姉に聞いたんだよね、あの話。これからのことを考えてっていうことで……誰もいない家の玄関のほうを指差しながらつぶやく。


「あ、サエちゃん」


「シュバッ!!」


 うぉ、父さん以外にもいた! シュバッと消える人!!


 ヒキコモリで運動不足のはずなのに……これが母親の(逃げる)力かー。


 さて、改めて移動を……


「トメさん、殺す!」


「まてや」


 しまいにゃ前置きなしかい。僕はいつから賞金首になったんだ。


「あぅ! ご、ごめんなさい、さっきカツコさんに会って、トメさんに会ったらこう言うようにって……」


「そうかい……サラさんも律儀に従わなくても」


「す、すいません、つい……それでですね、コレ」


 う、まさかサラさんまで。


「あの、マフラー編んだんです、よかったら、その」


「え!? 手編みのマフラー!?」


 そんな男の夢を!? い、いいよな、チョコじゃないし……受け取っていいんだよな!!


「ど、どうぞ」


「ああ……ありが、と、う?」


 差し出されるマフラーを受け取ろうとして……ふと気づく。


「……ね、サラさん」


「は、はい!?」


「そのマフラーと手の間に隠してるモノは……なに?」


「…………えへ」


 結局あんたもか!?


「す、すいません! でも賞品が」


 振り返って猛ダッシュ。くそぅ……どいつもこいつも僕の命より賞品優先しやがって! そんなにみんなほしがるなんて一体どんな賞品なんだ!?


「おー、トメ。こっちこっち」


「テン!? ま、まさかおまえも」


「オレがおまえなんぞにチョコやるわけねーだろ。痒くなる」


「そ、それもそっか。そうだよな、似合わないしな」


「ムカ……ま、まぁな。いいからこいよ、こっちなら誰もいねぇ」


「あぁ、助かった」


「ほれ、缶コーヒー」


「お、さんきゅ」


「こんな寒空の下にずっといたら身体も冷えてるだろ。それでも飲んで温まれ」


「お、ホットか。いいね……って、よく寒空の下にいたって知ってるな」


「見てたからな。おもしろかったぞ」


「おまえな。人が殺されそうなときに」


「まーまー、ここ座れよ」   


 促されたのは公園のベンチ。平日の、しかも朝ともいえる時間のせいか、周囲に人の姿はない。


「ふー……ったく、ひどい目にあった」


「大丈夫だって、おもしろかったから」


「あのなぁ」


 缶をプシッと開けながらため息をつく。


「ゲームの生贄にされる僕の身にもなってくれよ。チョコに触れたら殺される? ふざけんなっての」


「は? そんなルールだったのか。姐さんからは『トメをチョコ恐怖症にしておく』って聞いてたから、単にチョコが嫌で逃げてるんだと思ってたが」


「……ある意味、恐怖症だよ。もう」


 ぐいっ、と缶をあおる。


「バレンタインに女に追い回される、ってのは幸せそうに聞こえるがな」


「じょーだん。普通に追い回されるならともかく、賞品目当てだぞ?」


「別にそれだけじゃねーだろ。姐さんが他のやつにゲームを提案したのは今朝だし、もともとみんなてめぇのためにチョコ用意してたんだよ。よかったな、モテモテで」


「ほほぅ」


 ぐいっともう一度缶をあおって、ジト目でテンを睨む。


「じゃーこの缶コーヒーも、もともと用意してたもんだったのか?」


「まさか、そこの自販機で買ったんだよ」


「この、缶コーヒーを?」


「ああ」


「僕の記憶が確かなら、これってコーヒーじゃなくてホットチョコレートっていう飲み物じゃなかったっけ」


「そうだっけ」


「……おい、テン。さっきコーヒーっつったよな」


「ん、それ嘘だ」


 コノヤロウ。


「テン、おまえ……僕なんかにチョコやるわけないって」


「まな。賞品なかったらやらねーよ」


「可愛くないヤツ」


「当然だ。オレを誰だと思ってやがる」


 なぜいばる!?


「おい審判! オレの勝ちだな」


『ああ、確認した』


「どっから聞こえるんだこの声!?」


「んじゃ賞品くれ」


 再びどこからともなく飛んでくる矢! ほんとどこにいるんだよあの親父!?


 矢の先に巻きつけられていたそれを受け取ったテンは、満足そうに頷いた。


「うし、んじゃ他の人に報告よろしく」


『了解した、しかしその前にトメを殺さねば』


「あー、あとで殺してくれ。ちょっと用事あるから」


『……仕方ない、ではその間に爆薬をもう少し増やしておこう』


「そうしとけ」


『では』


 なぁ、僕はいったいどこにツッコめばいいんだ?


「トメ。ん、どした?」


「……や、なんでもない。で、殺されるまでの間、僕はどうすればいいんだ? そもそも、その賞品ってなんなんだ?」


 僕をここまで振り回した賞品がなんなのか気になって、テンの手元を覗き込む。


 そして驚愕した。


「ん、これだよ。今回の賞品」


 こ、これは……


「二万三千円」


 なんて身も蓋もない賞品だ!!


「これを思いついたときの姐さんの全財産らしいぞ、これ」


「お、おま、おまえら!! このために!?」


「だって、普通にほしいだろ」


 問答無用の説得力がぁ!!


「さて、じゃあこれ使って昼間から飲みにいくぞ! 付き合え!」


「は? い、いや、まぁ、いいけど」


「と、その前に……ほれ」


 差し出される包み。


 は?


 なんですか、この、バレンタインっぽい包みは。


「なにって、チョコだよ」


「は? だ、だっておまえのチョコはあのホットチョコじゃないのか?」


「あれは勝つために買ったんだ。こっちが本命」


「……本命?」


「ぅえあ!? ち、違う違う! 本命チョコって意味じゃなくて! こっちが本番というか用意してたやつというか!」


 包みをあけると、そこには不恰好なチョコが並んで……


「て、てて、てててて手作りか!?」


「お、おう……あんだよ! オレがチョコつくるのがそんなにおかしいか!?」


「極道の親分が鼻歌まじりに可愛らしいチョコ作ってたら違和感あるだろ、それと同じ」


「うるせぇよ! ちょっと納得したじゃねぇか! お、オレだってな、理由がありゃこれくらい作るんだよ!」


「理由って、二万三千円か」


「おうよ!」


 そのわりにはこれ、その二万三千円のために使ってないような……とかツッコむのも野暮か。


「……ありがとな、テン」


「痒い、痒いから礼なんか言うな!」


「わ、わかったよ。じゃあ後で食べる」


「今すぐ食え!」


「な、なんだよ。痒いんだろ?」


「こんなことを継続してるほうが痒い! さっさと食って感想言え! んで飲みに行くぞ!」


「わ、わかったよ……」


 なんだ、照れてんのか? まぁこういうのとは縁遠い性格だからなテンは。気恥ずかしくて仕方ないんだろう、それでも作ってくれたんだから感謝して食べるべきだな。


 さて、ではこの粘土の塊にしか見えない凸凹したチョコを……ぱくりと。


 ……もぐ。


「……なぁ、テン」


「あんだよ」


「シソの味がするんですが」


「んじゃそっち食ってみ」


 ……もぐ。


「フシギと刺身の味がするんですが」


「おう」


「ナニコレ?」


「う、うっせぇな! 普通のチョコなんか作れるわけねぇだろ! 痒いにもほどがある!!」


 や、だからってこんな製法が不明なもん作らなくても……


「ま、まずいか?」


「フシギな味……」


「よし! まずくねぇんならオッケーだ! 食え、さっさと食え!!」


「もが、もががぐが!」


「さっさと飲みに行くぞ!!」


「もがー!!」


 そんなこんなで無理やり口にフシギチョコを詰められた僕は、その勢いのまま飲みに連れて行かれることになった。もちろん昼前から飲み屋がやってるわけがない。最初はファミレスをはしごして飲み、夕方になったら『病院』へ、というコースだ。


 正直、楽しかったと思う。


 テンにチョコをもらえたのは意外だったが、嬉しかったし、照れるテンなんていうおもしろいものも見れた。姉の暴挙もたまには役に立つもんだ。


 しかし。


 テンにチョコをもらってから飲み会が終わるまでの間、カカたちに一切会わなかったが。


 あれから一体どうしていたのだろう?


 読んでいただいた方はお分かりでしょう。

 そう! 見事『テンカ先生→トメ』が投票数一位でしたとさ!

 ……痒い(笑

 照れたテンカ先生が見たい、手作りで――などの熱いメッセージ、本当にありがとうございました笑 ほんといろんな意見いただきましたので次のカカラジででも紹介したいと思います^^

 

 さて、またまた予想外に長くなってしまったので……この日カカたちは、また他のキャラはどうしていたのか、トメは結局爆発したのか等はまた明日書きたいと思います。


 にしてもトメ。

 幸せな悲鳴あげてますよねぇ笑

 やっぱ爆発か(ぇ


 ではでは皆様。

 いいバレンタインをお過ごしください^^もう終わるけど笑

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