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カカの天下  作者: ルシカ
357/917

カカの天下357「大人の恋と子供の恋 後編」

「おもしろかったですねっ」


「ん、そうだね」


 映画館を出て「うーんっ」と身体を伸ばします。ずっと座ってて、ずっとスクリーンとトメさんを気にしていて……ちょっと疲れました。


 でも、とても幸せな時間でしたっ。


「まさか最後のシーンがどこかのサスペンスみたいに崖っぷちだとは思いませんでしたねっ」


「まさか年増女がそのまま崖に落ちるとも思わなかったな」


「落ちてからダッシュで崖を駆け上ってくるとも思いませんでしたっ」


「年増の執念って怖いな。サユカちゃんはあんな風になっちゃダメだぞ」


「はいっ。トメさんこそ主人公さんみたいに優柔不断で彼女を困らせちゃだめですよっ」


「お、おう」


 さて……勝負はこれからよっ。


「これからどうする?」


「わたし、お茶がしたいですっ」


「ん、じゃそこらへんの喫茶店に――」


「いえあのっ。この近くにおいしいお茶葉を売ってる店があるので……その、そこで買って、トメさんの家でお茶会とか、どうですかっ?」


 わたしの緊張した声で察してくれたのか、トメさんは頷いてくれた。




「――はい」


「あ、ありがとうございますっ」


 トメさんの煎れてくれた緑茶に口をつけ、心を落ち着かせる。そう、落ち着くのよ、慌てたら絶対またおもしろい結果になるわ。今は笑いはいらないのよっ。落ち着いて……うぅ、いつも来てるトメさんちの居間なのに、なんだか別世界にいるみたいだよぅ。


「お、すごいね。これは美味い」


「でしょっ! やっぱり玉露のお茶は違いますよねっ」


 と言いつつ味なんてしないんだけどねっ。緊張でっ。


「それで、あの――」


「先週の、話?」


「は、はいっ」


 トメさんは一口だけお茶を飲むと、湯飲みを置いて、テーブル越しから真正面にわたしを見つめてきた。


 ……ステキ。


 じゃなくてっ!!


「あのっ、その、前のときは変な形になっちゃいましたけど、改めて言いますっ!」


「うん」


 きょろきょろ、きょろきょろ。


「なんで指差し前後確認してんの」


「えっ、いやそのっ、何か邪魔が入ったりしないかなー、なんてっ」


「さすがに大丈夫だろ。きっとみんな空気を読んでくれてるよ」


「そ、そうでしょうかっ」


「うんうん、だから続きをどうぞ」


 ううぅ、なんでそんなに落ち着いてるのよぅトメさん! これが大人の余裕なのっ!? いつだったか「トメ兄を見るときのサユカンの目にはフィルターかかってる」とか言われたことあるけど、そんなことないわよねっ。


 ――よしっ、も、もう一回、言うのよ。


「わたしは、トメさんが好きですっ」


 言ったっ!


 言っちゃったわよっ!


 口にするのは二回目だけどっ、心の中では死ぬほど言ってきた言葉だけど!


 やっぱり緊張する……! と、トメさん、は?


 ついつい俯いて瞑ってしまった目を開けて、顔をあげる。 


 そこには、優しく微笑むトメさんが。


「うん、サユカちゃん。あのね、僕は」


「ちょっと待ってくださいっ!!」


「――っと、な、なに?」


「あの、わたしっ、その……好き……ってしか言ってなくて、わたしが、トメさんに、どうしてほしいのか、とか、その……言ってなかったので」


「どうしてほしいか……あぁ、あの『一緒の墓に入る』ってやつ?」


「それはクライマックスです! 一番の見せ場です! 一気にそこにいったんじゃ順番が違います! さっきの映画だって、冒頭からいきなり年増女が崖を爆走してたらおかしいでしょうっ!?」


「た、たしかにそりゃおかしいが。興味はひくけど」


「だからそのっ、今わたしが何をしてほしいかと、いうと、ですねっ」


 言葉がだんだん尻すぼみになっていく。


 恥ずかしい。


 でも、言わないと。


「お付き合いとか、していただけなくても、いいんです。そりゃ、お付き合いしていただけるなら崖を爆走できそうなほど幸せすぎますけど」


 うん、それくらいはきっとできる。でも。


「でも……そんなこと言われてもトメさん、困っちゃいますよね」


「い、いやっ、そんな、ことは」


「犯罪者って呼ばれちゃいますよ?」


「うぐっ」


「ふふっ、わたしは気にしませんけどっ」


「……ごめん。僕は、気にしちゃう」


 本当に申し訳なさそうなトメさんの顔に、こっちのほうが申し訳なくなってしまう。わがままを言っているのは、わたしなんだから。


「当たり前ですよっ。だって、わたしは子供で、トメさんは大人なんですから」


 そう、わたしは子供だからいい。でもきっと、大人だと違うんだ。


 歳が違う。それはとても大きなこと。サカイさんに教えてもらった。


「わたしが、トメさんのことを好きだって言った理由はですね、その」


 笑われるかも、しれないけど。


「ただ、わたしの気持ちを知ってもらって、それでも、仲良くお話したり、遊んだり、たまにお茶したりとか、できたらいいな、なんて」


 そう、それだけのこと。


 ただ、もっと一緒にいられるようになりたかった。


 素直じゃないわたしが、素直な理由で。


 好きな人と一緒にいたかった。


 ただ、それだけ。


「それだけで、いいの?」


 たったいま考えていたことをツッコまれたようで、少し笑ってしまった。


「はいっ、それが、いいんです」


「それってさ、単に――もっと仲良くしましょうってことじゃないのか?」


「はいっ! だって、わたし、子供ですから」 


 強がりなんかじゃない。


 これがわたしの、素直な気持ち。


 わたしは今、とても晴れやかな顔をしていると思う。言いたいことが全部、ちゃんと言えたから。


 トメさんはまじまじとわたしの瞳を見つめて――やがて、安心したように微笑んだ。


「そっか……こういう言い方もなんだけど、よかったよ。小学生とお付き合いかー、なんて本気で考えちゃったからね」


「わたしはそれでも全然構いませんよっ」


「……ごめん。やっぱりそれは無理みたい」


「ふふっ、いいんです。これからもっともっと仲良くなって――いつかわたしが大人になったとき、またトメさんに告白しますからっ」


「そんときまでサユカちゃんの気持ちが変わらなかったらな」


「変わりませんよ、絶対。ですから、それまで仲良くしてくださいねっ」


「仲良く――か。うん、サユカちゃんは、子供だ」


「はいっ」


「子供だけど、大人だよ」


「――はいっ、ありがとうございます」 


 トメさんに褒められたっ! 


 これもサカイさんのおかげねっ。あの電話がなかったら、わたしは自分の気持ちがわからなかった。きっと「好き」という言葉をぶつけるだけで、トメさんに拒まれて、わけもわからず泣いていたに違いない。


「ところで、その、トメさん?」


「うん?」


「わたしの、告白のお返事は?」


 わたしの告白。


 あなたのことが、大好きです。だからどうか、これからも仲良くしてください――


「ああ。もちろん、喜んで」


 その告白は、トメさんに笑顔で受け入れてもらえた。


 とても嬉しい。


 とても幸せ。


 わたしはついに、やりきったんだっ!! 


 告白を、やりきった。


 今回のわたしのお話は、これでおしまい。


 結構長かったけど、無事にハッピーな結末を迎えられてよかったわっ。最後は邪魔も入らなかったしっ!




 ――と、思ってたんだけど。


「そ、そうだっ!」


「ん、どしたのサユカちゃん」


「わたし、カカすけに返してもらわないといけないものがあったんですよっ、だからちょっと、カカすけの部屋に入ってもいいですかっ!?」


「んー、勝手に入るとあいつ怒るんだけどな。ま、サユカちゃんならいいだろ」


「ありがとうございますっ」


 ぺこりとお辞儀して、ぱたぱたとカカすけの部屋に駆け込む。


 確か、机の上に置いてあるって――あった。 


「べ、別にさ、わたしはもう、これで満足なんだけどさ」


 誰にともなく言い訳しながら、それを手に取る。


「な、なんていうか……カカすけやサエすけの言うことにも一理あるっていうかっ」


 言い訳を続けながら、もぞもぞと着替え始める。


 カカすけ、サエすけ、双方曰く――そんでも好きになってもらうに越したことないっしょ。


 と、いうわけで……着てみました、いつかのクリスマスのときのサンタ衣装。


 おへそが出てます。


 太もも出てます。


 なんか……わたしこそ犯罪者っぽくないかしら?


 そう思いつつも廊下に出る。居間の手前まで来てすーはーすーはー深呼吸。大丈夫、トメさんは犯罪っぽいことならカカすけとかお姉さんで慣れてるだろうしっ! これくらいじゃそんなに衝撃にならないはずよっ!


 すー、はー。


 よしっ。


「と、トメさ――」


 意を決して居間に飛び込んで――時が止まった。


 そこに居た人と目が合って、用意した笑顔が引きつる。


 そこに居た人。


「え、や、あの……」


 それは、トメさんじゃなくて。


「シュー……さん?」


 どっから湧いたの?


「犯罪だ! 君! その格好は犯罪だよ!!」


「やっぱりっ!? じゃなくてっ、なななななんでこんなところに!?」


「そんなことはどうでもいい! タイホだっ!!」


「いやああぁっ! こないで、見ないでっ! このヘンタイ!」


「どっちがだ!」


 逃げようとしたところに手首を掴まれ、手錠をかけられ――てたまるもんですかっ! わたしは『警官から逃れようとしている自分』という場面に泣きそうになりながらも全力で暴れる! 


「おーい、シュー君の分のお茶はいったぞーって何やってんのアンタら」


「見てくださいトメさん、犯罪をタイホしましたよ!」


「誇らしげに自慢してんじゃないわよっ!」


 あぁ、トメさんが目を白黒させてる! 変な事態に百戦錬磨のあのトメさんが! もう終わりだわっ!


「ヘンタイの現行犯でタイホ――」


「ヘンタイはあんたよっ!! 大砲する!」


 どっかーん。


 あ、吹っ飛んだ。やればできるもんね。


「い、痛て……」


「トメさんっ! なんでそんなとこにそんなものが!!」


「そんなものってシュー君のことか? や、なんかようやく帰ってきたけど自分の家に誰もいなくて、仕方なくうちに来たらしいんだけど……」


 なんて……なんてタイミングの悪いときに帰ってくるのよっ!


「うぅ……た、タイホ――」


「ひっ」


 再び立ち上がろうとするシューさんに恐怖するわたし! でも、そのときシューさんの肩にポン、と置かれる手が二つ。


「いいとこを邪魔した罪で大砲する!」


 どっかーん!


「なんかもうシューさんってだけで罪だから大砲するー」


 どっかーん!!


 シューさんは吹っ飛んでいなくなった。 


 残ったのはトメさんとわたしと――シューさんを吹き飛ばした犯人が二人。


「カカすけ……サエすけ……」


「ぁ、や! 別にこっそりつけてたとかじゃないよ! 約束したじゃん!?」


「そ、そうだよー! おとなしく遊んでたんだよー?」


「……どこで?」


「こ、この家でー」


「だってここ、私んちだし」


「……見てたの?」


「あなたのことが、大好きです。だからどうか、これからも仲良くしてください」


「ああ。もちろん、喜んで」


「いやああああああああああああああああああああ!!!」


 どっかーん。




 その日、結局わたしはサンタ衣装をトメさんにツッコまれる暇もなく、まっしぐらに自分の部屋まで爆走した。


 でも、そのあとにトメさんから電話があった。


 大したことは話してないけど、すごく幸せだった。


 これからも仲良くできればいいなぁ。


 うん。


 今は、それで充分。


 長かったサユカちゃんの告白話もようやくひと段落です。ここまで長くなったのはひとえにサユカちゃんの愛の深さのせいでしょう笑 なにせ前回のデートで告白する予定すら私の頭になかったのですから……サユカちゃん、がんばったね。思う存分動き回ってくれて楽しかったよ笑

 

 さて! 予想外にハマりこんじゃったサユカちゃん話のおかげでいつの間にかバレンタイン間近です!

 まだ投票していない方はお早めに^^

 

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