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カカの天下  作者: ルシカ
356/917

カカの天下356「大人の恋と子供の恋 中編」

 待ってました! サユカですっ。


 何を待っていたかは言うまでも無いでしょうっ! 今日はついに――トメさんとの再デートの日なのです!


「やぁサユカちゃん、待った?」


「待ってましたっ!!」


「うぇ!? ご、ごめん」


「あぁっ、嘘です嘘です! 全然待ってないです」


 勢いに任せてまたやっちゃった……でも負けないわっ。


「改めましてこんにちはっ、今日はよろしくお願いしますっ!」


「あ、うん。こちらこそ。サユカちゃん、先週と同じ格好なんだね」


「あ、はいっ。その……せっかくカカすけやサエすけが選んでくれた服ですし……これ、前回のやりなおし、ですし」


 前回……不意に告白した場面が蘇り、頬が熱くなる。


「トメさんは先週と違う服ですねっ」


「うん、どうかな?」


「ツッコミ所がなくてトメさんらしいですっ」


「……ま、そーな。僕はツッコむ役であってツッコまれる役じゃないからな」


「ふふっ、わたしがボケればいいですか?」


「毎日カカのボケでお腹いっぱいなんだ、勘弁してくれ」


 苦笑いするトメさんは節分のときよりずっと自然だ。かく言うわたしも結構自然、だと思う。


「じゃあ行きましょうっ、トメさん」


「あ、うん。そだね」


 心は穏やかで晴れやか、もちろん緊張はするけど不安は少ない……これも自分の気持ちがハッキリしたからだと思う。サカイさんに感謝だわっ。 


 昨夜サカイさんと電話してから、布団にもぐりながら考えてみた。自分の気持ちを。自分がどうしたいのか。


 すると――拍子抜けするほどにあっさりと答えが出てきて、それで安心しちゃったのか目覚まし時計に叩き起こされるまでぐっすりと眠ってしまった。我ながら単純ね。


 でも。


「上映まで時間あるし、ポップコーンでも買うか」


「ごちそうさまですっ」


「……サユカちゃんも言うようになったね」


 自分の単純さに感謝してるわ。おかげで今日はこんなにも楽しいんだからっ。


 そう、細かいことは後回し。今はとにかく、このデートを楽しんでやるんだっ!


「へぇ、いろんなポップコーンあるんだな」


「あ、和菓子味のポップコーンですってっ」


「うぁ、変なの」


「これにしましょうっ」


「賛成」


 自分達の即決ぶりに笑みをこぼすわたしたち。好きな人と趣味があった瞬間ってなんて楽しいのかしらっ! 和菓子好きと変なもの好きでよかったわっ。ちなみに変なものっていうのは主にカカすけのことねっ。


「すいませーん。これください」


「ぅげ。ありがとうございまーす」


 この店員……商品見て「ぅげ」って言ったわね。でもまぁ許してあげるわっ。今日はカカすけもサエすけも遠慮してくれて来ないって言ってたし、わたしたちを邪魔する人なんてどこにもいないんだからっ!


「ではお会計――って、あれ? トメさんとサユカちゃんじゃないですか」


「サラさん!?」


「ぅげ」


 予想外の邪魔者がきた……


「サラさんって本当にいろんなとこで働いてるねぇ」


「あぅ!? いろんなとこですぐクビになってごめんなさい!」 


「や、別に謝らなくても……」


「うぅ……すいませんすいません。ところでお二人はデートですか?」


 ぴく。


 あなたイイコト言ったアルね。邪魔者訂正。いい人決定っ。


「そそ、そうなんですよぉっ、と、トメさんと、デート!」


 デート! あぁなんていい響きっ! なんか前にもおんなじようなこと考えてた気もするけど、いいものはいいのよぅっ!


「……私とのデートはまだなのに」


 サラさんがボソっと何か言ったみたいだけど聞こえなかったわ。なんかトメさんの肩がビクリと震えたような気もするけど。


 でもそんなの気にしないっ、わたしは今とてもいい気分――


「兄妹みたいで微笑ましいですね」


 ぴく。


 いい人訂正。敵決定。


「兄妹なんかじゃありませんっ」


「あぅ!?」


 突然声を張り上げたことに驚くサラさんとトメさん。でも――ここだけは譲れないわっ。


「そ、それは知ってますけど、ほら、兄妹みたいに仲がいいなー、と」


「でも兄妹じゃないんですから、そういう呼び方はやめてくださいっ! カカすけに嫉妬されて怒られます!」


「や、あいつはそんな細かいこと気にせんだろ」


 絶対します。気にしてないようで、そういうことはかなり気にします、カカすけは。


「じゃ、じゃあトメさんは、サユカちゃんにとって、何?」


「トメさんは、わたしの嫁です!!」


「ヨメかよ!? せめてムコにしてくれよ!!」


「ヨメのほうが似合いますっ!!」


「それは私もそう思います」


「サラさんまで!?」


「それにしても知りませんでした……最近では小学生でも嫁にできるんですね。私、法律って詳しくなくて」


「や、できんできん」


「え、じゃあ法律違反!? 犯罪者!!」


「指差すな!!」


「これだから男は……」


「勝手に絶望すんな!」


「これだからトメは……」


「悲惨に言い直すな!! あとさり気に呼び捨てっ!?」


 あれ……なんかどんどん落ち込んでく。サラさんってこういうキャラだったんだぁ。  


「あ、あのさサラさん、別に犯罪なんて何もないんだよ?」


「うぅ……信じられません」


「どうしたら信じてくれる?」


「私とデートしてくれたら」


 まてやコラ。


「……ど、どうしよう。話の展開が急すぎてツッコミ方がわからないっ!」


「私の勝ちですね! じゃあデート」


「いつのまにか妙な勝負にしないでくださいっ! トメさんが犯罪者なわけないでしょっ!」


「それじゃあ聞きますけどサユカちゃん。サユカちゃんはトメさんと、どうなりたいの?」


 ――え。


 言うの? ここで?


 こんなところで、わたしの答えを。


 ……いいわ。


 言ってやろうじゃないのっ。


 わたしは。


 わたしは!!


「わたしはトメさんと、一緒のお墓に入りたいですっ!!」


 はっ!? 慌ててクライマックスを言っちゃったっ!!


「ほら! トメさん殺人罪じゃないですか!!」


「ほらって言われても!!」


「許されたかったら私とデートを――」


 あーもう、どうしようかなこの人……そう思ったとき。


「おい新入り!! 何サボってんだ!」


「あぅ!? こ、これはその」


 先輩店員Aが現れた。


「失業して途方に暮れてたのを拾ってやった恩も忘れやがって……てめぇはクビだ!」


「ああぅぅ!? ま、また……で、でもこれで今からトメさんについていくことも」


 がしっ、とサラさんの肩を掴む先輩店員A。


「ざけんな。辞めるにしても今日の分は働くのが筋だろが。もちろん時給は無しだ」


「そ、そんなぁ!? じゃあ働いた分だけ時給くれるのも筋じゃ!」


「うるせぇ、皿割られたくなかったらこいや!」


「あ、あの、私別にカッパじゃないんで皿なんてないんですけど、その、あああ」


 ずるずると引きずられていくサラさんを呆然と見送るわたしとトメさん。


「……席、いこか」


「……はい」


 なんとも言えない空気のまま入場することになりましたとさ。




 さっきは勢いこんで「一緒のお墓に」なんて言っちゃったけど、これを観終わったらきちんと伝えないと。


 席につき、さっそく和菓子味のポップコーンをつまみながらパンフレットに目を落としていたわたしは、ちらりと隣を見た。


 同じくパンフレットに目を落としているトメさんの横顔に想いをぶつけてみる。もちろん心に想うだけで、言葉にするのは後だけど。


「……あ」


 トメさんが何かに気づいたかのようにこちらを向いた。


 え、えっ。もしかして、お、想いが伝わった!?


「サユカちゃん」


「は、はいっ」


「このポップコーン、お金払ってない」


「……あ」


 こ、言葉にしないと伝わるはずないわよね、うんっ。


 後でがんばろう。

   

 普段は温厚、というか気弱。貧乏くじを引きやすく、要領も悪い。ただしあまり冗談が通じず、激しく思い込むと突っ走るクセあり。それが皿、じゃなかったサラさんだったりします。 

 

 さて、次回でサユカちゃんの告白話は決着を見せる予定です。予想外に長引いてもうバレンタイン直前ですが……ハテサテ。

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