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カカの天下  作者: ルシカ
352/917

カカの天下352「迷ったときはコレに限る」

「――というわけなんだよ」


「ほぉほぉ! んぐんぐ! ぷはぁ……あのサユカが告白かぁ」


 そういうわけなんですよ、トメです。


 場所は居酒屋『病院』で、飲み相手は言わずと知れたテン。今日はちょっと話を聞いてもらいに飲みに誘ったわけなんだが……


「てっきりこのまま何年も告白できないままズルズルいくもんかと思ってたが、意外とやるもんだな。カカやサエのおかげってとこか。やーさすがオレの生徒」


「……知ってたのか? サユカちゃんが、その」


「知ってるも何も、誰だって見ればわかんだろ、んなもん。それで返事はどうすんだ? はむ」


 生爪軟骨という相変わらず怪しげな名前の料理を口に放り込みながら、僕の瞳を覗き込んでくるテン……


「いや……それがな」


「あん? どうすんだよ」


「どうしよう」


「はああぁ!?」


 や、だってさ、だってさ!


 普通に考えてさ!


 小学生の女の子に告白されてみなさいよ。


 困るでしょ!?


「てめぇよ、告白されたんだろ? 男なら結果がどうあれズバッと答えてやれよ」


「い、いや……そりゃサユカちゃんは可愛いし、好きだぞ? でもそれは恋愛で言う好きかどうかっていうのはまた別の問題で……」


「うざっ! 高校生の恋の悩みじゃねぇんだぞ。多少は恋愛経験あんだろが」


「僕の歳で小学生に告白されるような経験が豊富なヤツなんか、そうそういないと思うが」


「オレはよくされるぞ」


 ……そりゃわからないでもないけどさ、先生。


「しかも女に」


 なぜに。


「それでオレが『おとといきやがれ』通り越して『おととしきやがれ』って言ったらなぜか全員が勘違いして『二年後ならいいんですか!?』って返してくるんだよな」


 おととしって二年前なのにな。


「それだけ期待してるってことか。もうちょっと成長すれば大丈夫かな、とか」


「そういう期待をサユカもしてるってことか」


「……う」


「二年後ならどうよ、トメせんせ」


「……や、二年でも小六、せいぜい中一だろうが」


「聞く限りじゃカカやサエも相当てめぇが好きみたいじゃねぇか。モテモテだな。罪な男だねぇ」


「や、そ、そうなのかな」


「この犯罪者が」


「文字通りの意味かコノヤロウ!!」


「告白への返事しだいじゃそう呼ばれても仕方ねぇな。教師からみりゃ前代未聞だよ、てめぇらみたいな歳の差カップルができるのなんてよ」


「……ぐ」


「でもま、それはあくまで教師から見た意見だがな」


「ぐ?」


 意図がわからず見つめ返すと、テンはニヤリと笑いながらビールをあおり、一気に空にした。


「んぐんぐ、ふぅ……トメとサユカの共通の友人として意見を言わせてもらえば、だ。てめぇらが幸せなら他はどうでもいいんじゃねぇの? って感じだな」


「……後ろ指差されて生きてもいいってことか?」


「それも含めて、だよ。それでも幸せになれるならよし、それが理由で不幸になるならやめればよし。トメ、てめぇだってなんだかんだでサユカは好きなんだろ?」


「……そりゃな。恋愛対象かどうかを別とすれば」


「だったら両方にとってベストな答えを出せばいいだけだろが。サユカと違って、てめぇは大人だ。どこをどうしたらこの先どうなるか、見通しつけることくらいできるだろ」


「できると思う、けど……そんなことを気にしてサユカちゃんの気持ちに答えるのは――」


「不誠実だってか? だからてめぇは高校生かってんだよ。いいかトメ。もう一度言うが、てめぇは大人だ。養ってる家族もいる。だから世間体も常識も未来もひっくるめて考えて恋愛しなきゃなんねぇんだよ。難しいだろうが、それが大人だ」


「……くそぅ、言ってることはもっともだけどさ。テンはそれを偉そうに言えるような大人の恋愛してるのか?」


「おぅ、気になるヤツはいるぞ」


「ほほぅ! 誰だ?」


「トメとか」


「ぶほっ!!」


 生爪を吹いた僕の顔をニヤニヤと眺めるテン……な、何言いやがったコイツ。


「ほれほれどうする、選択肢が広がっちまったぞ」


「て、テン。冗談だよな? 遊んでるんだろ」


「さぁなー。あ、院長店長。おかわり」


 心底楽しそうにすっとぼけるテンの真意はつかめない……


「あいよ。トメさんはおかわりよろしいですか?」


 ……あー、なんかもやもやする。ここは飲むしかないか! ヤケになった僕は手元のビールを一気にあおった。


「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはぁ!」


 ダン! とジョッキをテーブルに置き、腹が熱くなっていくのを感じながら、院長店長を八つ当たり気味に睨み付けた!


「マスターおかわり! 迷いの数だけ!!」


「いいのかい?」


「おうよ!」


「はは、あいよ」


 若いって〜いいね〜♪ と鼻歌を口ずさみながら戻っていく院長店長を見送り、視線をテンへと戻す。


「何笑ってんだよ」


「いやぁー今日は楽しいぜ」


「はぁ……いいさいいさ、存分にからかうがいいさ」


「おぅ喜んで! 迷いの数だけからかってやろうじゃねぇか」


 嬉々とするテンに思わずため息。


「んだよ、そのため息。オレなんかに相談すりゃこうなるのは目に見えてただろうが」


「仕方ねーだろ。おまえが一番話しやすいんだから」


「キャー、ワタシッテ、トメトイチバン、ナカイイノカシラー」


「女みたいな喋り方すんな。キモい」


「ふははははは! 知らなかったのか? オレって女だったんだぞ」


「初めて知った。騙された。慰謝料よこせ。ここの飲み代分でいいぞ」


「やなこった」


 いつも定番の憎まれ口をたたきあっていると、やがて院長店長がおかわりを持ってきた。


「はい、どうぞ」


 ドン!! と置かれたジョッキの山。


「……あれ……こんなに?」


「これくらいは迷ってるでしょう?」


「……や、まぁ」


 僕の迷いの数だけきたおかわりの山がツボに入ったのか、テンは腹を抱えて笑っている……いいさいいさ、飲んでやるさ。そして好きなだけからかうがいいさ。


 幸い、次にサユカちゃんと映画に行くまではまだ日がある。それまでできる限り迷って悩んでからかわれながら考えよう。


 好きだとか、歳が離れているとか、そういうことは置いといて。


 サユカちゃんは大切な友達なのだから。


 大人が迷ったとき、どうするか。

 やっぱ酒でしょう!!!


 というわけで飲んだくれトメです。トメは一体どういう結論を出すのでしょうか……そしてテンカ先生の真意は?

 そして本文には書いてないけど密かに暗躍している姉は何をたくらんでいるのか。

 そして本編からすっかり消えてしまったシュー君はいつ現れるのか。


 バレンタインまでにはすっきりする予定です。

 ……そう、予定、です笑

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