カカの天下342「寒くてもちゃんと起きましょう」
「さむ……」
毛布でぐるぐる巻きのトメです……おはよぅ……
今日は日曜日、そして外は雪。
これはもう目が覚めてもひたすらベッドでごろごろし続けるしかないでしょー。
ゴロゴロ……ぐー。
ゴロゴロ……すかー。
「とーめーにー」
そんなまったりと過ごしていた僕の部屋に、小悪魔の声が響く。
「ねーねー、朝ごはん作ってー」
「……適当に食べてろー」
ねむねむまったりモードの僕は投げやりに返した。だって面倒なのだ。毛布がワンダホーで天国なのだ。出たくない。
「カップラーメンも切れてるし、何もないんだよー」
「じゃーパンでも買ってくればー」
「ジャパンなんか買えないよー」
カカが頬を膨らませているのがわかる、が、どうでもいいや。ねむ……
「よーし、そっちがその気なら」
カカが離れた。よーし、これでゆっくり眠れる……
「えーと……お、あったあった」
ごそごそ、ごそごそ。
「どれどれ……おー、一万円以上ある」
あん?
「よし、これを燃やそう」
「待たんかい!!」
とてつもなく理不尽な使い方を聞いて思わず飛び起きた。
「僕の財布の中身をどうするつもりだ!?」
「寒くて寒くて、これを燃やさないと死にそ――」
「財布の中身と食事とその他もろもろが寒くなって後々本当に死んでしまうでゃろうぎゃ!」
「でゃ? ぎゃ? 噛んだね今」
「やかましいよ!」
「ごめんYO!」
「ノリよく返すなYO!」
寝起きなんだから少しくらい噛むわ!
「とにかく返せ!」
シュパッとカカの手から財布を取り返し、中身を確認……ほっ、大丈夫だ。
「じゃトメ兄、朝ごはん作ってぎゃ?」
「おやすみ」
「うぎゃ!?」
財布を大事に抱え、再び毛布の中へと戻る。
「ぎゃーぎゃー、トメ兄起きるぎゃー」
妙な生物の鳴き声が聞こえるがキニシナイ……
「財布を抱いて寝るなんて虚しいと思わないの?」
燃やされたほうが虚しいわぃ。
「よーし、それじゃ」
もぞ、もぞもぞ。
なんか布団の下で蠢いている。
「てや」
キン!!!
モノスゴイ衝撃が僕の身体に響き渡った。
「どうよトメ兄、起きる気になった?」
「う、動く気力もなくなったわ……」
どこを攻撃されたかは推して知るべし。
「じゃあじゃあ、これでどうだ」
う? 鼻のあたりに何かこしょこしょと……くしゃみでもさせようってのか?
ブチッ!!
「!!!!!!!??????」
いっでぇぇぇぇぇっ!! 声無き声で叫びながらのた打ち回る!!
「おお、すごい飛び跳ねてる。トメ兄元気だね」
「…………!!」
あまりの痛みにまだ声が出ない……この妹、毛抜きで鼻毛を抜きやがった! 婿入り前の男子になんてことを!
こ、こうなったら意地でも起きてやらないんだからな! 毛布に全身くるまろう! ゴロゴロっと!
ゴロゴロっと!
ゴロゴロゴロゴローっと!
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!
なんかゴロゴロしすぎのような気がする。でも毛布の中に入って丸まってる僕には外の様子はわからず……
やがて回転が止まった。
「すいません! お兄ちゃんが、お兄ちゃんが!」
「ど、どうしたんだいお嬢ちゃん!?」
「ずっと起きないんです! 私、私どうしたらいいか!」
毛布からそっと顔を出すと――冗談のような光景が待っていた。
そこは病院だったのだ。
僕はここまで転がされてきたらしい。んなバカな。
「鼻毛が出てるからきっと鼻毛病です」
そんな不名誉な病気になってたまるか!!
「もしくは股間の」
「おまえもう黙れ! 起きるから!」
たまらず僕は毛布を剥ぎ取り、飛び起きた。
すると目の前には医者っぽい人が数人。
「おお! 確かに鼻毛が出ている! しかも少し腫れてるぞ!」
「股間も腫れているな。オペが必要だ」
「え? うそ? ちょ、ちょっと待って――」
ぱちり、と目が覚める。
「……え? 今の夢? うそ、え?」
「あ、トメ兄やっと起きた」
鼻が痛い、股間も痛い、でもここは僕の部屋。
……途中から夢だったのか? どこからだ?
まさかオペ――手術されて記憶消されたとかじゃないよな。まさか、な。
「……? カカ、なんだそれ」
「ろうそくとろうと」
「……なんでそんなの持ってる」
「トメ兄を起こすのに使った」
あれ? もしかして今の、最初から夢? そういえば今回のカカの攻撃ってやたらと普通だった気が……いつもなら意表ばっかついてくるのに。
「ねね、朝ごはん作ってよ」
「……おう」
何はともあれ、素直に起きるのが一番だと思った。
夢オチってよく使われてるのであんまり使いたくないのですが、こういう中途半端な夢オチもどうかと思って書いてみました。
まぁこの話を書いた理由は単に私が最近布団から出れなくて、似たように夢と現実混同しがちだったからなのですが^^;布団中で電話して返事したつもりが、実はそれ夢だった、とか笑