カカの天下340「トメカちゃん誕生」
こんにちは、トメです。
今日はちょっとおとなしくさせていただきます。なぜなら、悲しい日だから。
集まる人々、黒い服、すすり泣く声……そう、今日はお葬式の日なのです。
僕も皆と同じように黒い服を身にまとい、焼香をあげるために並んでいるのですが……むう、なんだか並んでる皆さんが遠慮なく僕の前に割り込んだりしてくる。なんとか避けてるけど、こんな調子じゃボーっとしてたら突き飛ばされちゃうじゃないか。悲しいのはわかるけど……まるで僕を無視するみたいなことはやめてほしいもんだ。
「……可哀想に、まだ若かったのに」
「24歳だったらしいわよ、それがあんな死に方……」
聞こえてくる話し声。そっか、僕と同い年かぁって、あれ?
そういえば、これって誰のお葬式だったっけ?
「なんでも、お餅を喉に詰まらせたらしいのよ」
「楽しそうに家族と食事しているところに……らしいわね」
ん?
んんん?
「いつも無茶な妹さんやお姉さんに振り回されていたから、いつかはこうなるんじゃないかと思ってたけど」
「そうね、あたくしもそう思ってたわ。そう思えば長くもった方よね、ハハ」
ハハ、じゃねぇよ!
ま、まさかアレか!? お餅食いまくり大会のときに僕が餅を喉に詰まらせて、そのまま――そ、そんなはずはない! だって僕にはあの後の記憶あるし! 昨日だってカカと楽しい夕食を!
「これでようやく姉妹から解放されたんだから、さぞ安らかに眠っているでしょうね」
「ええ、きっと安らかで楽しい夕食の夢でも見ているでしょう」
ご丁寧に説明ありがとうコノヤロウ!
ほ、本当に僕は……死んでしまったのか?
すっ、と僕の肩をすり抜けておばあちゃんが歩いていく。そっか、僕はいま、幽霊なんだ。道理でさっきから無視されるわけだ。幽霊なんて普通は見えるもんじゃないし。
あはは……死んだ? 餅を喉に詰まらせて?
冗談だろ……やり残したこと、いっぱいあるのに! せめて、せめてカカにだけでも何か伝えないと――そう思った瞬間、僕はカカの姿を見つけることができた。
葬式会場の隅、サエちゃんやサユカちゃん、姉と一緒に固まって……泣いている。
「な、なぁ! カカ! 僕の声が聞こえるか!?」
もし無視されたら――それも怖かったが、せっかく僕はここにいるんだ! 伝えることができるなら、伝えないと!
僕の、最後の言葉を!
カカは――振り向いてくれた。
僕の姿を見て、目を丸くした。やった、見えてる、言葉を伝えることができる! あぁ、これぞ兄妹愛!!
「ゾンビだ幽霊だ! 消えろ無くなれ成仏しろ!!」
愛なんて信じねぇ。
「トメお兄さん、人って死んだらいなくならないといけないんですよー?」
つ、冷たいよサエちゃん! さっきまでの涙はどこにいったの!? ってもう乾いてるし!
「トメさん! わたし、わたし後を追います! にっくき餅を滅ぼしたあとで!」
待て、んなことしたら餅大好きの姉に滅ぼされるぞ! ほら、そこの姉が怖い顔してるじゃないか……って、怖い顔を向けているのは僕にか。
「ば、バケモノだぁ!!」
バケモノにバケモノって言われたぁ!?
はぁ……僕は、姉よりもバケモノになってしまったのか……もう人としての価値はない。死のう。もう死んでるけど。
「トメ兄……あんな餅で死んだから、死んでも死にきれなかったんだね」
「あんな餅ってなんだよ」
「最近さ、シュー君の姿が見えないことに気がつかなかった? あの人はね、トメ兄が喉を詰まらせたお餅の材料になってたんだよ」
「うええええええ!? あれってシュー餅だったのか! なんか名前の響きだけならシュークリームと餅をあわせた新製品みたいだけど!」
「死ぬほどおいしかったんだね」
「本当に死んでどうすんねん!?」
「しかもそんな姿になってまで……」
「そんな姿!? ぼ、僕はいったいどんな姿だっていうんだ!?」
「耳と鼻と目と口と股間からなんか出てる」
「うあああ死にたいいいいい!!」
「大量に出てる」
「言い直すな! 死にたくなるだろ!!」
「死んでるし」
「ごもっとも!」
あああ! 僕は、僕はいったいどうすれば……
「トメさん!」
「さ、サユカちゃん?」
「……わたしに、とり憑いてください!」
とり憑く? それってつまり……
「だ、ダメだよそんなの! 何が起こるかわからないんだよ?」
「わたしは、トメさんのことが好きでした。だから、トメさんと一緒にいられるのならっ!」
さ、サユカちゃん! そんなに僕のことを……感動した! 感動したけどちゃんと僕を直視してよ! 目を逸らさないで! どんだけ醜い姿なんだ僕は!
「……ま、まぁいいや。ありがとう! じゃ遠慮なく」
ひょいっと憑依。
「あれ? 僕は……これ、この身体、まさかサユカちゃん?」
――そのとき発した言葉は、サユカの身体へ憑依したトメのものだった。そう、彼はサユカの身体を乗っ取ってしまったのだ!! 失われたサユカの意識を取り戻すためのトメの冒険が、いま始まる!! 身体は乙女、頭脳は野郎。その名は名ツッコミ、トメカ!
「――なんていう話を考えてみたんですけど、どうでしょー?」
「ど、どうと言われても……」
「トメ子のほうがいいですかー?」
「それはどうでもよくて」
読んでいたノートをパタリと閉じて、やたらと目を輝かせているサエちゃんに向き直る。
「僕、死んでるじゃん」
「あのときの選択を間違えばこういう結末もありえたかとー」
『あのとき』というのは、このサエちゃんの創作話にも出てきたけど、先日の餅食いまくり大会のときのことだ。あのとき僕は餅を喉に詰まらせ、大ピンチに陥ったが……姉が片手で脚をつかんで豪快にジャイアントスイングをかましてくれたおかげで詰まっていた餅はスポーンと口から抜けて飛んでいった。餅の他にもいろいろ口から出そうだったけど、なんとか助かったのだ。
「それでどうですか? 乙女の身体を手に入れた男がイケナイ道へ走るお話なんですけど」
「そのイケナイ道というのがどんなものかは知らんが、自分がそんな風になるっていうのは気分がよくないなぁ」
「じゃあ全国公開とかダメですか?」
「ダメ!!」
「ちぇー、おもしろいと思ったのになー」
「そりゃ身内が読めばおもしろいかもしれないけどさ……で、サエちゃん。なんで急にそんなお話なんか書き始めたの?」
「ちょっと頼まれましてー。詳細はまだ秘密です♪」
「ふーん」
そういやカカも変な話作るの得意だったよなぁ。あっちはもっとハチャメチャだったけど。サエちゃんのはなんというか……シュールだ。
「ところでこれ、僕の他に誰かに見せた?」
「ほぼ全員に」
「……感想は?」
「あ! そういえばシュー君最近見てない! って」
「真っ先にそっちかい」
や、たしかにそれは僕も思ったけどさ。
どこいったのかなぁ、シュー君。まさか本当に僕らの腹の中じゃあるまいな。
夢オチと思ったそこのあなた、惜しい!笑
まーこれまでいくつも思わせぶりな話書いてきたので、大抵の人は「トメが死んだ? まっさかー」と思っていたことでしょう。なので今回は特に捻ることなくバラしました。
創作話はやっぱりカカのほうがはっちゃけてますね。発想自体はサエちゃんも面白いですが、やはりワケノワカラナサはカカが一番でしょう。なぜサエちゃんがいきなり創作なんか始めたのか……それは今後の展開で^^