カカの天下34「クリスマス受け取れ」
「メリークリスマスだねトメ兄」
「メリークリスマスだな、カカ」
今日はクリスマス、時刻は夕方とタイミング的には微妙だが、わざわざ僕の部屋に来てまでそんなことを言い出した妹に一応合わせてみる。
「ところで、一般的にはサンタさんが子供に物をくれる日だね」
「そうだな、子供でよかったな、カカ」
わざわざ一般的に、とか言うあたりがなんとも子供らしくないが、まぁそれは置いておこう。
「それで、今度は何がほしいってお願いしたんだ?」
他の家ではどうか知らないが、うちの家族はクリスマスの一週間前にはツリーを飾り、そこに願い事を書いた紙を貼っておくとクリスマスの翌日には枕もとにプレゼントが置いてある、というやり方をとっている。靴下は非常にやりにくいので却下だ、と我が両親は言っていた。
ちなみに、このやり方は子供が「サンタさんっていないんだよね」とか夢のないことを言った瞬間、子供に伝授される。一気に夢を壊してしまうすばらしい伝統だ。
「んー、お願いはしたんだけど、さ」
こう聞いてはいるが、僕はとうにカカのほしいものはわかっている。今回は大きなツリーが壊れてしまったため急遽ミニツリーを買ってきたのだけど、そのツリーの前にお供え物をするかのようにほしいものが書かれた札が献上されているのを確認済みだ。
「でもさ……サンタさん、こないほうがいいかも」
しかし、我が妹はなぜかそんなことを言い出した。
「なんでそう思う?」
「だってさ、いくらプレゼントを配るからって、勝手に人の家に入るのは犯罪だよ?」
夢の無いことを……いやしかし、サンタを信じているからまだ夢はあるのだ、多分。
「ああ、それは大丈夫。サンタは法律的に無敵な存在だから。住居不法侵入も黙認されるのさ」
まぁ、嘘ではない。
「でもさ、そのプレゼントが本当にその子のほしいものとは限らないんじゃないかな。こないだニュースで見たよ。どこかのお宅のポストに爆弾が送られてきて、そこを覗いちゃった人がどっかーんって」
「ああ、それも大丈夫だカカ。そんなのが送られてくるのは裏でいろいろ恨み買ってる偉い人だけだから」
「じゃあ私危ないじゃん」
「裏で何をしとるんだおまえは」
「とにかくあれだよ、サンタさんは危ないかもしれないんだよ? サンタさんの本当の発信源は『赤い服を着たドロボウが忍び込んだ家の人にバレて、ごまかすためにプレゼントをあげた』って話が始まりだって学校の噂だもん。皆信じてるもん。赤い服着ないもん」
どれだけ夢のない小学校だそこは。
「とにかく、サンタさんには気をつけてね」
言うだけ言って、カカは僕の部屋から出て行った。
さーて……どうするかな、買っておいたクリスマスプレゼント。
翌日。
なんとなく従来通りに枕元にプレゼントを置かなかった僕は、カカの反応を見てから別のやり方で渡そうかと考えてみた。
すると。
「サンタさん……来なかった」
なんか、予想以上に落ち込んでいた。
「おいおい、来ないほうがいいんじゃなかったのか?」
「そうだけどさ、そうだけどさ、やっぱ来てほしいじゃん」
どっちだよ、とツッコみたかったが、子供の論理なんぞにいちいち腹を立てていたらキリがない。
まぁ、なんだかんだ言ってもサンタは来ると思っていたのだろう。小学三年となれば「サンタはいない」「サンタは親」ということに気づいても全然おかしくない時期だ。そして信じている子供が同級生にバカにされたりもする時期……おそらくは『サンタにそんな夢もってないよ』みたいな感じで見栄を張りたかったんじゃないかと思う。
「カカ、サンタから預かり物」
「……え?」
「ほら、昨日おまえいろいろ言ってただろ? だからサンタも素直にプレゼント渡していいもんか悩んでさ、僕のほうから渡してくれるように頼んでたんだよ」
そう言って僕は買っておいたプレゼントの包みをカカに差し出した。
カカはしばらく呆然として、おずおずとそれを受け取った。
そして一言。
「サンタさんって……盗聴までするの?」
「素直に喜べよ、子供」
そんな可愛くないことを言いつつ、頬が緩んでいるカカだった。
はい、ようやくクリスマスです。
……はい、相当前の話ですみません^^;
早く今の時間軸に追いつけるように更新がんばりますw