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カカの天下  作者: ルシカ
338/917

カカの天下338「新年あけまして湯煙殺人事件!? 本編」

「ほらー、急いで急いでー」


 せかせか準備! サカイですー。


 事件を解決した早々、わたしたちは大急ぎで帰り支度を整えています。といってもあらかじめ用意はしていたので、すぐに発つことはできるのですが――


「テンカちゃん、おっけ?」


「あぁ、もう行けるけど……なんでそんなに急いでんだ?」


「事件が起こるんだよー! ほらほら、チェックアウトするよ、急いでー」


「お、おぉ」


 そう、急がなきゃならない。


 わたしたちは即行で手続きを終え、駅へ向かうバスへと乗り込む。


「なぁ、いったいなんだってんだ? 姐さんを待たずに出発だなんて」


「だからー、事件なのだよワトテン君」


「事件はもう終わったろ?」


 うー、ワトテン君の呼び方にツッコんでくれないー。


「ちーがーうーのー! わたしたちの事件ゲームはまだ始まったばかりなんだからー」


「はぁ?」


「さっきね、カツコちゃんに――」




 同時刻、警察署。


「世話になったなコノヤロウ」


「いやー礼はいらんぞ!」


「あたしゃイヤミ言ってんだ! 威張るな!!」


 相も変わらず戯けたことを抜かすコケーさつに一発怒鳴り散らし、あたしカツコはようやく警察署から開放された! んー、シャバの空気はうまいわ! 


「あ。ちょ、ちょっと待ちたまえ君! 君が牢屋にいる間に食べたカツ丼の請求書を受け取りたまえ!」


 あー、そういや捕まってるときに出る食事って後で請求されるんだったな。でも。


「いらねーよそんなもん」


「なっ、いや、これは規則で」


「無実なのに牢屋にぶち込まれてたって訴えてもいいんだぞ」


「ぐっ」


「それが嫌ならこんくらい奢れや」


「し、しかし十日にも満たない間にカツ丼だけで10万の請求を超えるとは、いったいどんな食べ方をしたのだ!?」


「暇だったから食うことくらいしか楽しみなかったんだよ」


「それにしたって食いすぎだろう!!」


「うるせーな。時間つぶしに筋トレもしてたからすぐ腹減ってたんだよ」


 一日10食は食ったかな。ちなみに一食カツ丼三杯ね。


 ドラマでよく出るだけあって警察の用意するカツ丼はうまかったわ。さすがに飽きたけどな……


「むぅ……仕方ない。それは奢ろう。しかしこれは受け取りたまえ」


「ん? なにさこれ」


「君の友人たちから預かったものだ」


 コケーさつから預かった封筒を開き、中をのぞいてみると、そこには――


「帰りの電車の切符と、写真? これ、は……」


 サカイちゃんとテンちゃんが写ってる。それは問題ない、だがしかし――彼女らの前に写っているものが問題だった。


 ニシンそばでピース。きつねそばでもピース! 豆腐料理でイェーイ! ぼたん鍋でヒャッホーイ! うどんすきでチェケラッチョ!! 八橋食い放題でキラーン♪ などなど、この上なく楽しそうな京都のおいしいもの巡り写真が山ほど!!


「あ、あたしがカツ丼ばっか食ってる間に……!」


 ひらり、と写真とは違う紙が落ちた。


 地面に落ちたその紙の文面を読んだ瞬間。


 あたしは鬼と化した。




「さ、サカイさん! なんでそんなことを!?」


「事件は現場で起きてるんじゃない、人と人との間で起きてるんだ!! というわけでー、人間関係に亀裂を入れてみました♪」


「無意味に入れるなよそんなの!!」


「食べ物の恨みで友情がピンチ!? くー! これは事件ですよー! 危険ですスリルですー!」


「……その紙には、なんて書いたんだ?」


「大したことは書いてませんよー? 『うらやましいだろ』とかくらいしか」


「じゅーぶんすぎるほど大したことじゃねーか!! こ、こえぇ……どうなるんだオレたち!?」


「大丈夫ですよー。ほら、もう電車動きますし」


 そう、すでにわたしたちは電車へと乗り込んでいる。


 この駅から警察署までは距離があるから、カツコちゃんがこの電車に乗ることはまずできない。そこはちゃんと計算済みだ。


 間もなく電車が発進する。さらば京都よー! さらばカツコちゃんよー! いけいけごーごー速いぞいぇーい!


「それにですねー、本来なら犯人当てゲームだったところを変更しまして、犯人捕まえゲームにしたんですよー」


「どう違うんだ?」


「わたしとテンカちゃんを捕まえればカツコちゃんの勝ち。わたしたちが自分の家まで逃げ切れればカツコちゃんの負けです。そのルールもちゃんと書いておきましたので」


「んなあっさり納得してくれんのか? 食い物の恨みはこえぇぞ」


「大丈夫ですよー、カツコちゃんもシャレの通じる大人ですから。でも勝ったらわたしたちが食べたのと同じ分だけおいしいものを奢ってあげるって書いておきましたから、かなり必死で追ってくると思いますよー」


「……逃げきれるのか?」


「実はぎりぎりです。昨夜のうちに電車の時刻表などを確認してみたのですがー、カツコちゃんがわたしたちの乗っている電車から一本遅れて乗ったとしても、効率よく乗り継げば、わたしたちが降りる駅に五分遅れで到着するでしょー」


「ふむふむ、じゃあその五分間でオレたちがどれだけ自宅に近づけるかが勝負なんだな?」


「ええ、でもそれはあくまで最も効率よく乗り継いだ場合ですー。カツコちゃんはあまり頭を使うのが得意じゃありませんから余裕はある……か、と」


「そう……だ……な?」


 二人そろって尻すぼみになっていく声。


 あはは。


 あはははー。


 あははははははははー!


 突然何を笑っているのかとお思いでしょー。でもこれが笑わずにいられますかー。


 わたしたちはですね、窓の外を見ていたのですよ。快調にとばす電車のおかげで高速で流れていく風景に、名残惜しみながらも別れを告げていたわけですよー。


 でもですねー。


 なんかですねー。


 風景の中に別れを告げられないものがあるんですよー。


 わかりやすく言えばー、さっきからずーっと風景の中で変わらないモノがあるんですよー。


 もーっとわかりやすく言いましょうかー?


「あ、あはは♪」


「ははははは♪」


 わたしとテンカちゃんは引きつった笑いのまま顔を見合わせ、もう一度それを見た。


 カツコちゃんが電車と並走してる。


 生身で。


「「うそん」」


 うそぴょん♪ って誰か応えてほしい。


 だって……だってだって! 電車ですよ!? 時速百キロ軽く超えてるんですよ!? それに付かず離れず並走してるって――どこの改造人間ですかああああああ!?


 頭を使うのが得意じゃないとは思っていましたけど、普通に走って電車に追いついてくるなんて使わないにもほどがありますよ!?


「姐さんって人間じゃなかったんだーアハハー」


「て、テンカちゃんしっかり! 確かにショッキングな映像ですけど! あんなマッハで手と脚動かしてる人間見たらオカシくなるのもわかりますけど! このままじゃ、このままじゃ――」


 窓の外のマッハ・カツコちゃんを見る。忍者の娘とは聞いていたけど、その走り方は忍者というより小学生が陸上選手の真似してがむしゃらに腕を振って走ってるみたいな荒々しいフォームだ。でも、でも――  


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!


 そんな鬼気迫る走り方で砂煙なんか上がってて、ものすんごく怖いいいいいいいぃぃぃぃ!!


 しかも、しかも! 電車の中だから聞こえないけどなんか叫んでるしー!


 めええええええええええええええええええええええええええしいいいいいいいいいいいいいい!!!!


 って、聞こえるしいいいいいいい!! まずいー! このままだとわたしたちが食べられるー!!


「すいませーん! そこのおねーさん、それ一つ」


「はい、1100円です」


 それを受け取り、中ちょっと開いてちゃっちゃっちゃ。


 わたしは電車の窓を開け(危ないのでマネしちゃだめだよー)、今買ったそれを投げはなった!


「くらえ、駅弁ボンバー!!」


 私の手元から離れた鰻重弁当はすぐに見えなくなり――間もなく走るカツコちゃんの手元へと現れた。ふっ、食べ物の恨みで動いているカツコちゃんならきっと拾ってくれると思ってたよー。そんなバカみたいなことできるわけないって? 電車と並走してる時点でオカシイんだからこれくらいできるでしょー。


「アハハー、姐さんが高速で走りながら弁当食ってるー。中身とばねーのかなー……お?」


「きましたねー」


 即行で弁当を食べ終わったカツコちゃんは顔色を悪くし、急にスピードダウン、だんだん視界から遠ざかっていく。


「……サカイさん、あの弁当に何いれた?」


「今回の旅行のために買っておいたインド象用の下剤です。これならいくらカツコちゃんでも効くでしょー」


「……いま気づいたけど、オレらって普段からあの人が普通じゃないってちゃんとわかってたんだよな、うん。そうだよな、電車と並走できるくらい、今更驚くことじゃないよな」


 テンカちゃんが正気に戻ってよかったー。その通りなんですよー、だって実際、普通の下剤なんてカツコちゃんには効かなかったしー。


「さて、なんとかこれで差はつけましたが……油断できません。こっちは停車したりしますし……でもカツコちゃんだってさすがにあの速さで走るには持久力が持たないでしょう」


「ほんとか?」


「に、人間には体力というものが」


「あるのか、あの人に。本当に?」


「……自信ないです。もうこれは追いつかれるたびに攻撃していくしかないですねー。交代で電車の周囲を見張りましょう」


「なんだかスリルを感じるぜ……たしかに何かの事件に巻き込まれてるような気がしてきたぞ」


「それもあれですね、恐竜さんとか怪物が現代の世界に逃げ出したーみたいな事件ですよ。わたしたちはそのデンジャーゾーンから抜け出さないといけないんです」


「ゴールは自宅か」


「ええ、お互い生きて帰りましょー。いいですかー? 電車の外へ出るときはとにかく隙を見せないでダッシュです。駅から降りたら言うまでもなく自宅まで全力で」


「あぁ、それまでにどれだけ姐さんとの距離を稼げるか……って、あれ。もう追いついてきたぞ!?」


「くー! なにか、なにか武器はー!?」




「――と。そんなわけであたしたちは京都からここまで延々と追跡ごっこしてきたわけよ」


 あたしが大方語り終えると、ギャラリーの皆さんはなぜか開いた口がふさがらなくなっていた。


 ふむ、ぽい。


「んぐっ!?」


 とりあえずトメの開いてた口に餅を放り込んでみる。喉に詰まったらしく、のた打ち回るトメ。まぁ死にはしないっしょ。


「て、テンカ先生たちが帰ってきたとき、みんな全力疾走だったのはそんなわけがあったのねっ」


「お姉があんなに疲れてるなんて珍しいと思ったけど、京都からここまで走ってきたんだね。納得だ」


「な、納得できるんだーカカちゃん。電車と並走だよ?」


「甘いなサエっち。うちの親父は電車より速いぞ」


 本物の忍者にはさすがに敵わねぇんだよな、速さじゃ。力なら勝てる自信あるけど。


「そ、そうですかー。それで、結局お姉さんは犯人を捕まえたんですかー?」


「もっちろん! 捕まえて説明させたからあいつらサイドの話もできたんだよ」


「そ、そうですかー。さ、殺人事件にはなってないですよねー?」


「殺したら奢ってもらえないだろ」


 ムカついたのは確かだが、最終的に美味いもんくえるんならあたしはそれでいいのだ。


 ――いろいろあったが、今回の旅行はなかなか楽しかった。


 文句を言うとしたら二つ。カツ丼に飽きたことと、京都ならではのおいしいものが食べられなかったことだ。


 ま、でもサカイちゃんとテンちゃんがもっとおいしいもの奢ってくれるらしいし。


 とりあえず今は大好物の餅を食えてるし!


 幸せ幸せ、万事オッケー!


「さー、もっと餅食うぞ!! トメ、おかわり! ……トメ?」


「息してないよ」


「なに!? 餅食えば生き返るだろ! さあさあもっと食え」


「やめてえええっ! それ以上詰め込まないで! トメさん、トメさああああん!!!」


 めでたしめでたし。


 ん、トメはどうなったか?


 あたしは餅が食えりゃめでたしなんだよ。悪いか。


 姉さん、事件です(ぇ

 

 はい、今回はどっかで見たことあるような箇所、「おいおい」とか「ねーよ笑」とかツッコむ箇所、「どんだけー」な箇所を盛りだくさんでお送りしました笑


 姉、それはカカ天唯一でもなくなってきたけどのファンタジー。というわけでずいぶんと好き勝手に遊ばせてもらいました。やー楽しかった。長くなっちゃったけど^^;

 読者の皆さんはどうでしょうか。楽しんでいただけたでしょうか。私の自己満足だけにならなければいいなーとちょと心配です。

 今回かなりはっちゃけたので、明日からはまたのんびりペースな話でいこうと思います^^ではではー! 

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