カカの天下336「新年あけまして湯煙殺人事件!? 後編」
ども、前回に引き続きテンカです。
「どうしたんだ? 二人とも」
何かを見つけたらしい姐さんとサカイさんが見つめる先には、コケーさつしかいない。
「どうしたって……気づかないの? テンちゃん」
「見ればわかるじゃないですかー」
見れば……って、ええと。二人の視線の先は間違いなくコケーさつだと思うんだが……特に、変わったとこは……
「ほらほらよく見てよ! あの――」
パキン、と。
言葉を止め、唐突に姐さんが放った手刀は、飛来したソレを見事に叩き落とした。
見事に真っ二つに割れ、地面に転がったソレは――陶器製の灰皿。
「この人殺し!!」
旅館に響く憎悪の叫びは廊下の向こう、今まさにソレを投げ放ったばかりの体勢で涙交じりにこちらを睨み付ける――あのストーカーまがいの女性のもだった。
「人殺し……私の……私の『Love』男を返してー!!」
らぶお? ださっ……とか思ってる場合じゃない!! それよりも気にすべきは――しばらく消えていたうちに彼女が集めていたのであろう品々だ!
そう、ストーカー女の攻撃は灰皿だけではとどまらなかった。近くに置いてあった箒を投げ、雑巾を投げバケツを投げ、それらが入っていたロッカーを投げ、宴会場へと運ぶ予定だった椅子を投げカートを投げ、どっから持って来たのか包丁やら鉈やら斧やらチェーンソウ(作動中)やらを手当たりしだいに投げつけてくる!!
いや、あれだ。すげぇ。
何がすげぇって、こんな何でも大砲人間がいること自体もすげぇんだけど――
「ほっ、はっ、ふっ!!」
それらを全て素手で叩き落し、払い、受け流してる姐さんが何よりすげぇ。
「こ、こんのおおおおおおお!!」
最後には野次馬を投げつけようとするストーカー女! しかしさすがに放っておくわけにもいかず、オレも一緒になってみんなで抑えにかかって――何とか落ち着いてもらえた。
「……カツコちゃん」
「うん。サカイちゃん」
暴走女を抑えている間に、姐さんとサカイさんは何やら話し合っていた。
女が抵抗しなくなったのを確認すると、オレも二人の会話に参加しようと近づく――が、
「よし! タイホだ!」
「うぉあ!? どこにいたんだてめぇ!」
「最初に灰皿が飛んできた時点でコケた!」
「えばるな!!」
「えーいうるさい! とにかくそこの女! 貴様をタイホだ!」
「ん、わかったよ」
……え?
何言ってんだよ姐さん!
呆然としているオレに、姐さんは「心配いらないよ」と微笑んだ。
「面倒だけど、ちょっと行って来るわ。テンちゃん、事件のことはサカイちゃんに任しとけば大丈夫だから、この後も適当に旅行を楽しんでおいでよ」
「そ、そんな! 姐さん無しで楽しめるわけねぇだろ!」
「だいじょーぶだよー。すぐ戻ってくるからー」
自信満々でサカイさんが言う……本当に、大丈夫、なのか?
連行されていく姐さんを、オレは呆然と見送る……姐さん、オレは、オレは……あんたの疑惑を晴らしてみせるぞ! なぁ、サカイさん! って、サカイさん?
気がつけばサカイさんは隣におらず、遥か後方に。そして誰かと話してる。
あれはたしか……この旅館の女将?
「よよよ……なんて可哀想なわたしの親友! わかりますか? たったいまわたしの親友が無実の罪で連れていかれてしまったのですよー!?」
「は、はぁ」
「はぁじゃありませんよマジメに聞いてください! いいですかわたしたちは昔からとても仲がよくてそれがどれくらいかというと幼稚園のときにプリン戦争〜中略〜そんな無二の親友で時には大きな難関や壁があってそれを迂回しないで登ったり破壊したり食い荒らしたり〜中略〜そしてついに三人は友情合体技を完成させるためにこの旅館へと臨み心からの信頼と友情を〜中略〜した末に捕らえられてしまったんですよああなんて悲しいんでしょう!!」
「ぇ、あ、は、はい! なんて悲しい! なんて可哀想!!」
「んああぁ!! わたしたちは彼女の無実を証明したい! でもここに滞在するお金がない……あぁ路頭に迷うべきでしょうか、ダンボール家族の仲間入りをするべきでしょうか……ふふ、どうせマッチをいくら擦っても現れるのは放火魔と勘違いして来る警察だけというこの世の中、それも仕方の無いことでしょう……」
「ぇ。えー……とっ、その、も、もしよろしかったら、その……ご友人の無罪が晴らせるまで、もうしばらく滞在なされますか? お、御代は、結構ですので……」
「あぁ! なんていうことでしょう! このような親切な方がまだこの世にいらしたなんて!! 世の中捨てたものじゃないわ! ビバ21世紀! どうなる21世紀!! ありがとう! ありがとう!」
「い、いえいえ、その、人して当然のことです……た、たぶん」
「あ! ついでにあの亡くなった方の彼女さんも滞在させていただけませんか? 友達の無実を、ちゃんと彼女の目の前で晴らしたいんです!」
「……! はい! あなたの決意はわかりました! どうか……どうかご友人のためにがんばってください!」
「ありがとー! ありがとー!!」
ブォンブォンと思いっきり手を振り回しながら女将と握手して、ぺこりと一礼。そしてサカイさんはこちらへ戻ってきた。
「あ、あんなに早口なサカイさん、初めて見たぞ」
「あははー、勢いで押し切るときくらいしか使いませんからねーあの喋り方。すごく疲れるんですよー……あー、だるー」
目をキランキランさせて正義を語った姿はどこへやら。そこにいたのはいつもどおりの無気力おねーさんだった。
「それで、サカイさん! 早速姐さんの無実を晴らすために動こうぜ!」
「あーうん、そだねー」
「こういうときってまずは現場検証だよな! うわー、結構厳重に閉まってるけど入れるのかなーあの部屋」
「あ、テンカちゃん。そこはいかなくても大丈夫ですよー。わたしたちはもっと別の場所を現場検証です」
「ど、どこですか?」
よくある名探偵的な『なんでこんなところを』って場所にいくんだろうか? あぁ認めてやる。オレはちょっぴりわくわくしてる。こんなん好きなんだよな。
でもサカイさんはそんなオレの期待を裏切り、こんな場所を指定した。
「ずるずるずる……」
「んー♪ やっぱり京都のニシンそばはおいしいねー」
「……サカイさん。なぜにこんなとこを現場検証?」
「せっかく滞在日数が延びたんですよー? これはもう行けるおいしい店は全部検証しないともったいないじゃないですかー」
……ぇ? あの、もしもーし。
「ずるずるずるずるー♪」
ま、まさか、本気じゃない……よ、な?
そうだ、きっとこれはカモフラージュだ! 姐さんも安心しろって言ってたし、サカイさんなりの考えがあってのことなんだ!!
「ずるずるずるー♪ あ、すいませーん! さらにきつねのトッピングいいですかー?」
……た、たぶん。
でも、あれ? なんか忘れてるような。
はい、後編といいつつまだ続きます笑
次回、いよいよ解決編です!