カカの天下335「新年あけまして湯煙殺人事件!? 中編」
「ターイーホーだー!!」
ツルッ、どてーん!!
……ども、テンカです。
朝、廊下が騒がしかったので起きて部屋から出てみると、そこには意外な展開が待っていました。
「タイホだ!!」といわんばかりにズビシッと指を突きつけている警察の人と、突きつけられている姐さん。警察の人は偉そうだが、なぜか背を床につけている。
「……警察さんや、あたしをタイホするんじゃないのかい?」
姐さんは呆れている。タイホだーとか言われてるのに落ち着いてんなぁ。もしかして初めてじゃねーのか。
「そう、貴様をタイホするのだ!」
「じゃあ寝てないで起きなよ」
「キメポーズが崩れるだろう!」
この世にはまともな警察はいないのか。
「コケといてポーズも何もないだろに。いいから起きなよ」
「ちっ、仕方ないな」
しぶしぶ起き上がる人。しかし、
「うおっとぉ!?」
足がもつれて壁に激突。だが姐さんから視線ははずさなかった。だから再び背中を強打。
「……酔っ払ってんのか」
「違うわ! バカにした目で見るな! こ、これでも俺は警察の中じゃ『コケまくりの鬼』という異名で知れ渡ってるんだぞ! 座右の銘は『俺がコケればみなコケる』だ!」
「警察が真っ先にコケてどうする!?」
「犯人もコケるから便利なんだよ!」
えーと……どういう状況だ、これ。
「昨日宴会場にカップルいましたよねー。あの男の方が部屋で亡くなったみたいですー」
「うぉ、サカイさんいつのまに――ってそれマジか?」
「はい、そこら辺の人に聞き込みしました結果ですー。それで警察さんが来たところに、カツコちゃんがうかつなこと喋っちゃったみたいでー」
うかつなこと……ああ、そういえば昨日も殺人予告に聞こえそうなこと言ってたなぁ。
「だから! さっきあたしが言った『あたしのせい』っていうのは間違いで」
「間違いで人を殺したのか!? タイホだ!」
「だから! あれはあたしたちが昨日やってた遊びで」
「遊びで殺したのか!? タイホだ!」
「だーかーらー! つい」
「つい殺したのか!? タイホだ!」
「話聞けやコケーさつ!!」
「妙にピッタリなあだ名をつけるな!! タイホだ!」
ガキの喧嘩かよ。
「テンカちゃん、とりあえずいきましょー」
「あ、ああ……」
オレらは助け舟を出すべく、姐さんへと近づく。
「貴様らも仲間か!? タイホだ!」
いい加減黙れ。
「聞いてくださいー。カツコさんの他に容疑者はいないんですか?」
「ふんっ、バカにするな。容疑者がいるなら軽々しくタイホなどと言うか!」
ま、普通そうだよな……
「まぁしいて言うなら、先ほど『私のせいで死んだのよ!!』と言ってきた被害者の彼女だな」
あぁ、あのイタい子か。
「さらにしいて言うなら、誰よりも早く朝食を部屋へ運ぼうとした仲居もいるが」
……ん? つまり被害者に最後に会ったということか。
「あとは彼の隣に部屋に泊まっていた指名手配中の猟奇連続殺人犯も怪しいと言われれば怪しい気もするし」
ぉい。
「それから彼のストーカーっぽい男が近くの部屋に泊まっていたな。まぁ関係ないだろう。『男が男を好き』などという話は狂言に決まっている」
待てやコラ。
「そうそう、どうでもいいが仲居連中の間でずいぶんと彼は人気だったらしいな。朝食を運んだ仲居は抜け駆けしようとしたわけだな、うんうん。ちなみに、この村では好きな者は殺して我がものにするべしという古の言い伝えが」
「容疑者腐るほどいるじゃねぇか!!」
「なにぃ!? しかし自分がやったと言ってきたのはそこの偉そうな女だけだぞ!!」
「だからそれはたまたま――」
「たまたま殺したのか!? タイホだ!」
コイツ殴っていいか?
……いやいや、それでオレまで捕まったら元も子もない。さすがに警察の目の前でいつもの無茶をするわけにはいかねぇし……ここは。
「おい、そこの仲居ども! ちょっと来い」
「カツアゲか!? タイホだ!」
「勝手に決めんな!!」
「口調がカツアゲ風味だ」
「大きなお世話だ! てめぇ、いい加減にしねぇとうちの小学校入れて一から教育しなおすぞ!?」
「女教師の個人授業か! ぜひお願いします!」
「その言い方はヤメロ!!」
あーほんと殴りてぇ。けど曲がりなりにも警察だしなぁ……くそっ、非常にムカつくが無視して事情聴取しよう。
「おい、仲居ども。あのな……ぉぃ?」
みんなそろって何泣いてんだ。
「ううぅ……こんな事件が起こるなんて……なんで? どうして!? どうしてうちの旅館がこんな目に!?」
「年末に寂しい身、なんていう情緒不安定な客ばっか集めたからじゃねぇか」
「そーれーだー!! うううううううぅぅぅ」
泣き崩れる女将。自業自得だな。
「それでよ、被害者が仲居の間で人気だったのはたしかなのか?」
「は、はい、顔いいし」「えぇ、顔いいし」「ううぅ……顔いいのになんで死んだの?」「顔……食べたかった」
「顔だけかよ!」
「しょせん年末にこんな所でお仕事して過ごす寂しい女どもですから!」
あー、そう言われて見ればそういうことになるな。
しかしいい証言はゲットできた。
「おい、コケーさつ。聞いたか? この女、顔を食べたって言ったぞ!」
「え!? 違います! わたくしは食べたかった、と」
「いや、『もう一回』食べたかったって言ったぞ! 『食べたかった』発言の前に『……』があるだろ、きっとそこに入るんだ」
「そんな無茶な!?」
へん、無茶でもいいんだ。この頭の悪いコケーさつなら、これで充分犯人扱いするだろ。姐さん以外にも容疑者がいるとハッキリわかれば――
「君、『食べる』というのは隠喩表現ではないのかね?」
「なんでそこだけ頭いいんだてめぇは!?」
あーもー! ヤダこいつ!
「あ、ちょっと待った。えー、そこの野次馬ども! 見世物じゃないんだ散った散った!」
旅館中の人間がこの場に集まっていることにようやく気づいたのか、言葉どおり野次馬を散らしていくコケーさつ。そして、
「「あ」」
姐さんとサカイさんは、それを見つけた。
コケーさつ大活躍(笑
実際こんなんいたら迷惑だろうなぁ。
事件はもうちっと続きます。