カカの天下334「新年あけまして湯煙殺人事件!? 前編」
よぅ、あたしカツコ。
トメたちがうるせーもんだから、今回は年末年始にあたしらが行ってた旅行の話をするぜぃ!
事の発端は、あたしが眺めていた雑誌に載っていたこんな記事。
『年末を過ごす恋人や家族がいない、寂しいあなた! 本旅館はそんなあなたをお待ちしております! お客さまの境遇が寂しければ寂しいほど安くなる――寂しいサービスプラン登場!』
まぁ、簡単に言えばその旅館に電話して『家族が相手にしてくれないんです!』とか『ずっと恋人がいないままで……』とか身の上を話して、その寂しさに応じて安くなるというもんだ。
あたしらは早速電話してみることにした。
「家族にバケモノ扱いされてる」
「娘と生き別れたまま会えず、悲しみのあまりに無気力ダメ人間街道まっしぐらですー……」
「けっ、どうせオレみたい男くさい女に彼氏なんざできねーよ。親? 何年も話してねぇな」
「僕ぁ奴隷です! でも幸せです!」
結構安くなったぜ。
「「「カンパーイ!!!」」」
と、いうわけで。
京都の山奥の温泉旅館へとやってきたあたしとサカイちゃん、テンちゃんにシューは、早速宴会を始めることにした。
「あ、あの……お姉さま。最初って普通、温泉なんじゃ」
「何言ってんのシュー。旅行といったら、到着して飲んで、ご飯前に飲んで、ご飯の後に飲んで、風呂前に飲んで風呂後に飲んで寝る前に飲んで起き抜けに飲んで――っていうのが基本でしょ」
「あははー、カツコちゃん。それ、普通は温泉に入る回数だよー」
「ま、それに付き合ってるオレらも姐さんの意見をとやかくは言えないがな! あむ……んまいなこの料理」
んむんむ、たしかに値段のわりにはいい料理を出してくれる。
旅行前に急いで大掃除をした後に、結構な時間をかけての移動……さすがのあたしも疲れたし、着いて早々食事&飲み会ってのはいいプランだったと思う。食事前の飲みが抜けたのが残念だけど、食事中に飲めば一緒だし。
「ところでさ、あたしらみたいな美女三人が湯煙の旅に来てるんだから、やっぱり事件が起こると思わない?」
「あははー、友達だけで寂しいサービスプランで来ている時点で『美人』なんて言葉もむなしいですけどねー」
「あ、あの……一応僕もいるんですけど」
「シューはあれだ。かばんについてるキーホルダーみたいなもんだから数に入ってねーんだよ」
「簡単に言うとおまけですねー」
「簡単に言わないでください! まったくも――みきゃ!?」
料理を口にした途端に奇声を上げたシューは、口を抑えながらドタンバタンとのた打ち回った。
「ちゃ、茶碗蒸しが、かりゃい!!」
「は? オレが食べたのは普通の味だったが」
「ふふー。犯人は誰でしょうねー」
「サカイちゃん以外にありえないと思うんだけど」
そんな風にさも「してやったり」みたいな顔されるとわかりやすいことこの上ない。
「ピンポーン♪ と、いうわけで、こんな風に事件を起こしてみませんかー?」
「ほぅ。というと?」
「今夜で年越しですが、この旅行は二泊三日。もう少し時間がありますよねー。その間にみんな各自で事件を起こします。そしてそれの犯人は誰か当てるんですー」
「へー、面白いこと考えるなサカイさん。事件の内容はなんでもいいのか?」
「はい、今のわたしのようにシューさんに唐辛子を仕込んだり、っていう簡単なのもOKですよー」
てかサカイちゃん。茶碗蒸しに唐辛子なんかいつ入れたのさ。まさか調理前に? や、そんな忍者じゃあるまいし……
「そしてもちろん、おおきい事件でもいいですよー。例えばー」
サカイちゃんが指差した先には一組の男女。って、あれ。
今この旅館には寂しいサービスプランのお客さんしかいないはずだ。だからこんなだだっ広い宴会場をお客みんなで共有で使うという、寂しい人らへの大きなお世話的なサービスになってるのだが……
「ぼ、僕は君とは別れたんだ! 寂しい人間になったんだ!! だからもう、付きまとわないでくれ!!」
「そんなこと言わないで! 寂しいなら私がいるじゃない!?」
なんだか修羅場っぽい。そういうのはここに来る前に済ませてくればいいのに……
「何なんだよ! こんなところまで追いかけてきて!?」
「だって、だって! 私があなたと別れる理由なんてないじゃない!? そりゃ、私もちょっとやりすぎたわよ? あなたのお弁当に『Love』ってでっかく書いたり、あなたのスーツに勝手に『Love』って縫い付けたり、『Love』って書いた鉢巻と『Love』って書いたTシャツ着ながら『Love』メガホン振り回して仕事中にも関わらずあなたから離れなかったり、部屋中に『Love』って言葉を筆で書いていっぱいにしてみたり、あなたの携帯の留守電とメールを『Love』っていう声と文字で埋め尽くしてみたり、会社の社長やお役所に『Love』申請書(自作)を送ってみたり――それってそんなにいけないこと!?」
さすがのあたしもそれはいけないと思います。
「……で、サカイちゃん。あの憐れな男がどうしたって?」
「殺して楽にしてあげるー、とかー」
「オレはどっちかというと女のほうを」
「ぼ、僕はあれくらい愛されたいかなぁ」
頬を染めるキモいシューは放っておいて。
「ま、やるとしたらあたしがやってやるさ。愛を受け止めるのも男の甲斐性!! それができない軟弱者はあたしが打つ!」
「あれを受け止められる人はさすがにいないのではー」
「あたしはできるぞ。あたしがそいつのことを好きなら、の話だが」
「姐さんみたいにタフな人はそうそういねぇよ……ま、とにかくアレは放っておこうぜ」
そう、そのときのあたしはまったく気にしていなかった。
どうせちらりと目に入っただけのカップルだ。男を殺す? はっ、ご冗談を。軟弱者だから。そんな理由で人を殺すほど、あたしはバカじゃないつもりだ。
だからそんなカップルのことは綺麗さっぱり忘れ、あたしは友人たちとの賑やかな年越しを迎えた。寂しいサービスプラン、なんて使ってるけど実際はまったく寂しくなんかない。一緒に酒を飲める友というのは、あたしにとって家族に勝るとも劣らぬ存在なのだから。
満足するまで料理と酒と話を堪能した――翌日。
飲みすぎて昨夜の記憶は曖昧ながらも身体は元気だったようで、ずいぶんと早起きしてしまった。
一足先に朝風呂を満喫したあたしは、部屋へ戻ろうと廊下をのんびり歩きながら、窓の外の景色を見ていた。うっすらと雪が降っている……外に出ればさむさむ地獄に違いないが、見ている分には雪で薄化粧した山は実に風情ある眺めだ。
そんな冬景色で目の保養をしながら歩いていると――とある部屋に人だかりができていることに気づいた。
「どうしよう……」「大変なことになったわ」「事件よ事件」「ちっ、新年早々……」「け、警察」
ふむ、事件?
思い出すのは昨日のサカイちゃんの遊び。事件を起こして、その犯人役を当てる、という……まずい、もしかしてサカイちゃんやりすぎちゃったんじゃ! そしてこんな騒ぎに……ヤバイよ! あたしらの遊びを本気にしちゃう人がいたら!
「あ、すいませんすいません!! それあたしのせいです!!」
あっはっはーと能天気な声で言った瞬間、ざわついていた喧騒がぴたりと止んだ。
「やー、すいません。ちょっと遊びのつもりがやりすぎちゃったみたいで――」
「やっぱり貴様が犯人か!!」
……れ? なぜにこんなとこに警察のコスプレした人が?
「わ、私の……私のせいだと思って自首しようとしていたけど、実はあなたのせいだったのね!? 遊びっていったい何したのよ、この泥棒猫!?」
……れれ? 昨日の過激な女の子だ。
「仲居さんが証言してくれた。君が昨日、この男――被害者を、殺すと発言していたと!」
確かあの子のお相手にそんなことも言ったような……へ? ヒガイシャ?
「君をタイホするー!!」
……はい?
死んだ? あの男が?
で、あたしが犯人だって?
あー、「あたしのせい」って言っちゃったもんな。あははー。
マズイ。
起きましたね、事件。
定番なものになるか、意外なものとなるか……それは次回からのお楽しみに♪
ただ、一言。
ま、この作品ってわりと色々書きますが……基本はコメディなのであしからず。
細かいこと気にして読むもんではありません(意味ありげ? さーどうでしょう笑