カカの天下332「好きこそものの上手なれ」
「んむむむ」
ども、いまだに悩んでいるカカです。
読書感想文がどうしても終わらず、今日も今日とてサエちゃんサユカンと遊ぶのはキャンセルです。ここはもう腹をくくって普通に書くしかないと、図書室になんぞ来てみたのですが……今度は本が多すぎて迷ってしまいます。
えと、まずはどんなジャンルの本を読むかだけど……
「常識の本、か」
サエちゃんサユカンの二人が冗談で言ったのか本気で言ったのかはわからないけど、貴重な意見ではある。一応探してみることにした。
この棚かな。えっと、どんなタイトルの本があるかな……
『どんなバカでもわかる常識、非常識』
バカって……読む気なくす。他は……
『よい子の常識、腐った子の非常識』
子供を腐った子呼ばわりする時点で、あんたの常識が危ういと思う。
『これは当然、これは論外。そんなこともわかんないなんて、あんたバカ?』
ムカ。
『えぇ〜こんなこともぉしらなぃのぉ〜マジでぇ〜ちょ〜しんじらんなぁい』
ムカムカ。
『人生やり直せ』
余計なお世話だ!
『この型破りが!!』
そんなタイトルの本のあんたに言われたくない!!
……なんかムカつく本ばっかで読む気がしない。というか本当にここは常識の本棚なのだろうか。
いいや、とりあえず他の本を読もう。うーん、ここは有名どころをいっとくべきなのかな。例えば……これ、『罪と罰』とか!
「ヘイ! ちょっと聞いてくれよマイケル!」
「オゥ、どうしたんだいジョーイ?」
「この本、『つみとばつ』じゃなくて『みつとつば』だYo!」
「オゥ、『蜜と唾』かい? 途端にアダルティになったじゃないKA!」
ちょっと黙れ、マイケルとジョーイ。
いやね? 昨日のサカイさんの話を聞いてから私の頭の中にもマイケルカカとジョーイカカが住みついたらしくて……たまに喋りかけてくるんだよ。
「ヘイ! ちょっと聞いてくれよマイケル!」
「オゥ、どうしたんだいジョーイ?」
「この子が手に取っている本、かの有名な『ハムレット』かと思えば『オムレット』だよ!」
「オゥ、美味しそうな絵が載ってるね! しかもそれを聞くとなんとなく『ハムレット』もハムがおいしそうに聞こえて――」
あぁもう、うるさい!
「ヘイ、ご機嫌ななめだね、カカ! こんなときは俺っちのワイフの話をしてあげよう! ワイフときたら毎日毎日焼き芋を食べていてネ? ぶーぶーぶーぶーとお尻で呼吸をしているみたいなんだYo!」
「オゥ、それはつまりお尻と肺が直結して――」
そ、の、は、な、し、は、も、う、い、い、Yo!!
いつかの福笑いみたいなワイフとやらは置いといて、とにかく本を探さないと!!
「あら、笠原さんではございませんか!」
焦っていた私にかかった妙に丁寧な声は。
「お、イチョウさん。カカでいいのに」
「そ、それはまた次の機会に……ところで、こんなところに何をしにいらしたのですか?」
「私がここにいたら変?」
「ものすごく」
い、意外とハッキリ言う子だな。
「へ、ぁ。ああ! いえ、別に笠原さんに本が似合わないとか知性が感じれられないとかそもそも文字が読めるのでしょうかとか心配してしまったわけではないのですよ!?」
「ほんとハッキリ言うね。見直した」
「違うのです違うのです! 笠原さんはいつも元気なイメージがありまして、しかるにこういう静かなところにはこないのではないかと思っていまして!」
「たしかにあんまり来ないけどね」
自分でもこういう静かなところは似合わないと思う。なんか突然大声で叫びたくなるんだよね。
「ヘイ! 叫ぶぜマイケル!!」
「がってんだ、ジョーイ!!」
おまえらは叫ぶな!!
「ねね、イチョウさん。なんかお薦めの本とかないかな。読書感想文で迷ってるんだけど」
「まだ出していらっしゃらなかったのですか?」
「うん……イチョウさんはもちろん出したよね?」
「はい! 書いてるうちに止まらなくなっちゃって原稿用紙300枚も書いてしまいました!」
「そ、それだけで本にできるんじゃ」
「あ、あはは。そうですね。一般的な小説大賞に応募できるくらいの量になってしまいまして……先生も困ってらっしゃいました」
じゃあその感想文の感想を私が書く――てのもダメか。それなら普通の本を読んだほうがマシだ。
「はぁ……いいな、そんなに本好きで。私なんか本が苦手で……」
「そうですか? でも、これでしたら笠原さんでもすんなり読めるんじゃありません?」
「えー、そんな普通に厚い、ほ、ん……」
ぁ、ああ。
そうか。
これが、あったか。
翌日。
「テンカ先生、これ!」
「おー、書いてきたか、って昨日の今日で早いな。また適当なものじゃないだろうな?」
「そんな! 2時間で本を読んで30分で書いたんですよ!」
「本好きならそれくらいやるだろうが、カカだしなぁ」
「ちゃんと内容を読んでからものを言ってください!」
「どれどれ……」
テンカ先生が覗き込んだ感想文のタイトルは――
『読書感想文 『初恋は実らない』を読んで』
「……ハハ、なるほどね」
ドラマで内容は知ってたおかげか、文章で改めて読んでもすんなり頭に入ってきて……なんだか新鮮な感じがしておもしろかった。でもやっぱり――冒頭にはこう書いた。
『ヒロイン格好いい! 最高!』
「これ、役者の話じゃないのか?」
「全然そんなことありません!」
実は否定できないけどね。
テンカ先生は面白げにざっと文面を見渡し、頷いた。
「ま、いいだろ」
「やた!」
「ちなみに見たところ、おまえが読んだのは一巻だけだな」
「へ、あ、はい」
「次も読め」
「そ、それ宿題ですか」
「そうだ」
テンカ先生、もしかしてこれのファンだったりする?
私もこれならすんなり読めるからいいけど。
「……もしかして先生、クリスマスのとき隠れてお母さんにサインとかもらったり――」
「さ、さぁ!! 授業だ授業!」
もらったな、これは。
「ヘイ、ちょっと聞いてくれよマイケル! もしかして俺っちらってばレギュラー化じゃないのかい?」
「オゥ、ジョーイ。残念ながらそれはないんだYo!」
「どうしてだYo!」
「作者が飽きたんだYo!」
「Noooooooooooo!?」