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カカの天下  作者: ルシカ
33/917

カカの天下33「焼き魚人生論」

「焼き魚って、人生と同じだよね」


 なんか言ってる。


 こんにちは、トメです。たったいま妙なことをほざいたのはいつも通りのとんちき妹、カカです。


「……無視すんなートメ兄」


 僕はもぐもぐと夕飯のアジの焼き魚を咀嚼しながら、視線で問いかけました。で、何言いたいの君。


「つまりはだね、焼き魚っておいしいねってことだよ」


「んぐ。さっきと言ってること違うぞ」


「そういうこと気にしちゃだめ」


「……なんか会話成立してないな」


「いつもこんなもんじゃん」


 まぁね。


「ともかく、何が言いたいかというと」


「ふむ」


「焼き魚って結構、作るのにいろいろ手間かけるでしょ?」


「手間かけて作った僕に感謝しろってことだな」


「そんなのしないよ。でさ」


 軽く流しやがった。僕、頑張ったのに。スーパーで主婦とか倒したのに。


「焼き加減を間違ったら黒コゲになったり生焼けになったり……人生もそうじゃない? 燃え尽きたり、不完全燃焼だったり、大事なことから目を離した隙にダメになったり」


 ……ん? 


「でさ、ちょっと塩を加えようとしても、間違えて砂糖かけたり、塩ふりすぎたり……これは人生に色を加えるのと同じことだよね? 加減を間違うと人生の本質を失うこともあるし」


 ……んんん?


「お前、何歳だっけ」


 なんか言ってることが高尚すぎるぞ。


「だからね、結局私が言いたいことは……人生って結局誰かに食べられちゃうものなんだよね」


「結論で嫌なこと言うな!! なんか鬱になるだろ!」


「って、同級生のタケダ君が言ってた」


 なんつー小学生だ。


「そいつ、もしかしてそんなことばっか言ってるのか?」


「うん、なんか難しい変なことばっかり言ってる」


 変なことでカカに敵うやつもそうそういないと思うが……たまにいるんだ、こういうのが。なまじ本を読みまくって世界をわかった気になっていろんな薀蓄を語るやつが。


 こうしてなんか偉そうかつ的を射ているようなことを言うこともあるが、ほとんどが本人の自己満足で言ってる戯言だったりするものだ。


「それで? おまえはそのタケダ君の言葉を借りて、なにが言いたかったんだ」


「ん、なんか偉そうに喋ってみたかっただけ。えっへん」


「さいですか、おかわり食うか?」


「ちょうだいな」


 ――そのとき。


「焼き魚定食はここかー!!」


 唐突にバーン! とドアを開けてドカドカと遠慮なくうちに入ってきたのは、最近武者修行の旅から帰還したという姉である。


「たしかに焼き魚食べてたけど、もうないよ?」


「がーん!!」


「どっから聞きつけたんだ、うちの晩御飯の献立なんか」


「あのね、焼き魚だよ? それくらい直感でわからなくてどうするの」


 わかったほうがどうかしそうだぞ、そんな能力。


「まったくもう……あたしに焼き魚語らせたら五時間はくだらないよ?」


「違う意味でくだらないからやめてくれ」


「おぬし焼き魚を侮辱したな!?」


「トメ兄、焼き魚さんを悪く言っちゃだめ。くだらないのはお姉なんだから」


 焼かれて食べられるスタンバイおっけーなお魚をさん付けとは……丁寧だなカカ。


「カカちゃん……お姉ちゃんのこと嫌いなの!?」


「や、単にこないだのハムカツ講義三時間コースを根にもってるだけ」


 あー、あれか。僕らが寝る直前あたりにハムカツ持参でやってきて、強制で食べさせられながら延々と話聞かされたんだよな。おかげで翌日の眠いこと胸焼けすること。


「お姉」


「……うう?」


「出てけ」


「……はい」


 おお、あっさり姉を追い払った。僕のほうからは見えなかったけどよっぽど恐い顔してたんだな。だからって小学生の眼光にあっさり負ける姉もどうかと思うが。


 そそくさと食器を片付けながら、僕は呆れてため息をつくのだった。




 その後。


 なぜか焼き魚をもう一度買ってきて、わざわざうちでご飯を食べていくという、わけのわからない姉だったのでした。




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