カカの天下315「年越しカカ天そば」
こんにちは、トメです。
もう今年も大晦日ですね。そんなわけでただいま大掃除の真っ最中です。
「カカー、雑巾くれ」
「はい雑菌」
「字が違う! あーあー汚すなよな! ほうき! はやく!」
「はーい」
「待て、どこにいく」
「放棄しに」
「だから字が違うっての」
「むー、面倒だなぁ。だいたいさ、お姉も大掃除するべきじゃないの? 一応この家で飼われてるバケモノなんだからさ」
「姉はちゃんと大掃除してるぞ」
「どこでさ」
「外で年末に現れる不届きな輩を大掃除してんだよ」
「私もそっちがいいー」
「大人になったらな。さ、掃除掃除」
「ぶーぶー」
と、まぁこんな感じでだらだらしつつも、なんとか夕方までには終えることができた。綺麗な仕上がりに満足満足!
一息ついたところでピンポーンと鳴るチャイム。来たかな?
「こんばんはー、よいお年を!」
「こ、こんばんはっ、よいお年をっ」
それ出会いがしらの挨拶としてはどうなのさ。
「サエちゃんサユカン! いらっしゃーい」
今日二人が我が家へ来たのは、一緒に年越しそばを食べるためだ。ちょっと思うところがあってサユカちゃんを呼びたかったのと、それならサエちゃんも呼ばないわけにはいかないだろう、ということで来てもらった。
「……サユカちゃん」
「は、はいっ」
そう、サユカちゃんに言いたいことがあったのだ。
クリスマス鍋のときに気づいてしまったことを、ちゃんと伝えなければならない。
「今日、来てもらったのは他でもない」
「ぇ、は、はいっ、な、なのでしょうか、じゃなくれ、なんれしょうひゃ!?」
サユカちゃんは顔を真っ赤にして上ずった声で答えた。
「……もしかしてさ、クリスマスのときの格好とか、そのとき言ったことをまだ気にしてる?」
「ぇうっ!?」
図星だな……ふっ、僕はそれなりに鋭い男。
「むふふー、おもしろくなってきたねーカカちゃん」
「うん。サユカンの顔に『げ、気づかれた』ってでっかく書いてあるよ」
「それあんま可愛くないねー」
外野は放っておいて、僕はサユカちゃんをまっすぐ見つめる。
「サユカちゃん、大丈夫、気にすることはないよ。僕は全部わかってるから」
「ぇえぇえぇえぇえ!?」
「サユカちゃん! 今年中に言っておきたかったんだけど……いいかい? 君は僕の妹の友達だけど、他人だ。でもね、僕にとっては大切な人だ」
「…………!」
「もう言葉も失ってるよ」
「なんかいろんな方向に揺れてるけどねー」
「あそこだけ地震起こってるね! 震度どんだけかな」
「んー、30くらい?」
でけぇよ。
じゃなくて、やっぱり外野は放っておいて!
「サユカちゃん……」
「ぁ……!」
「だからね、頼りたいときは頼ってもいいんだよ」
「……ぅ?」
「貧乏って、辛いよね」
「「「は?」」」
いきなり核心をついた僕の言葉に、三人は驚きを隠せないようだった。
「プレゼントを買うお金が、なかったんだろ? 仮装だって……あんな少ない布しか買えないなんて、よっぽどなんだよね」
「……えっ……と」
「今日は僕、豪華な年越しそば作るからね。存分に食べていってくれ。もし食べれなくなったらうちに来るんだよ? あぁ、もし着るものが足りなくなったら姉のお古とか――」
僕は一通りサユカちゃんに「いざというときは僕を頼れ」と伝えることができた。サユカちゃんも頷いてくれたし……うん、年末最後の仕事が終わってよかった!
「じゃ、僕はそばの用意するからな」
さーて台所台所っと。
「さすがトメ兄……一部分にしか鋭くない男」
「肝心なとこだけ見落として失敗するタイプだねー。というか結構失礼だよねー」
「ふふっ、もぅ♪ トメさんたら鈍いんだからっ」
「あの格好であれだけやってまだ気づかないなんてね……でさ、なんでサユカンそんなに上機嫌なの?」
「え? だって、これからはもっと夕飯とか食べにきていいってことでしょっ♪ ふふっ、トメさんのコートのお古ほしい! とか言ったらくれるかなっ」
「「たくましい……」」
「おーい、そばの天ぷらなんだけど、どれが……って、喋ってたんだ?」
台所から戻ると、なにやらカカとサエちゃんの痛い視線が。
「な、なに?」
「トメさんってマジメですよねー。マジメすぎですよねー。この鈍感」
「や、トメ兄も結局ぼん、きゅっ、ぼーんがいいんだよね」
「なんでそんな話になるのかさっぱりわからんが、別にそういうわけじゃ」
「じゃ、バフン、ブッ、ボーン! って感じ?」
「なんかすごいオナラみたいな表現やめろよ」
「今年最後のオナラかぁ」
「かぎますー?」
「かがんわ! ていうか別に誰かオナラしたわけでもなかろうに」
「じゃあ皆でしましょっかっ!」
「「「それもどうかと」」」
そんなやりとりをしつつ、僕はそばの天ぷらのリクエストを聞いてみた。しかし皆そろってエビ天ときた。やっぱ最近の子供はエビ好きだね。一応かき揚げとかも用意してたけど、これは来年使うことにしよう。
「かき揚げも他のものせちゃいなよ」
「む、そか?」
「そうそう、豪華にすると貧乏サユカンが喜ぶよ?」
「そーそー、貧乏だしねー」
「ぅう……言い返すとせっかくのチャンスが」
「おまえらな、そんな言葉でサユカちゃんをいじめるなよ!」
「「トメ(兄)(お兄さん)に言われたくない」」
な、なぜに。
まぁともかく、天ぷらは用意したもの全部のせるということになった。
台所でちょちょいと作業。だしの用意はできてるから早いもんだ。天ぷらのせて、ねぎをたっぷりわかめたっぷり、はい完成! ついでにとろろものせてやれ!
……なんかすごい豪華なそばになった。
『いただきます』
そして皆で合唱。どうでもいい話をしながらテレビを見つつ、ずるずるとそばをすする。
「おいし!」
「うまー」
「トメさんの味……!」
喜んでもらえてよかった。
「そういえば……僕から呼んどいてなんだけど、いいのかな? 君らの家族さん。クリスマスも年越しもうちでやっちゃって」
「なんかねー、おばさ――お母さんが『年末、私たちと過ごしたい? カカちゃんたちと過ごしたい? いいのよ、正直に言って! ……わかったわ、私たち来年頑張るからね!』とか言ってたー」
「あ、うちもうちもっ」
母さん……あなたの言葉はご家族の心に深く残ってるみたいですよ。いいんだか悪いんだか。
「それでね、せっかくこうして来てくれたんだし、今年は三人で年越しを迎えるの!」
「そーそー。次の年になった瞬間にあけましておめでとーって言うんだよね」
「わたし、そんな夜更かししたことないからすごく楽しみなんですっ」
そうかそうか、仲良くていいねぇ。
しかし……カカだってよほどのことがない限りは遅くても23時にはいつも寝てるし。
24時まで、持つのかな?
そばも食べ終わり、満腹感にひたりながらダラダラと過ごし……あと15分くらいで年越しとなったころ。
うちの居間では息も絶え絶えなナマモノが三つほど転がっていた。
「ね……ねみゅい」
「あー、うー」
「ね、寝てないわよっ、寝てないわよ先生!」
なんか三人が限界だ。やっぱ小学生にこの時間はキツイか。
「おーいカカ。もう少しだぞ、起きろ」
「あー、うん、そだね、机と洋服棚を洗わないと」
「そんな大掛かりな掃除は今度でいいから」
「大掃除は年末にやらないと。だから地球も洗っといて」
「あと15分じゃ無理だ。おいカカ、おーい」
……ダメだな。
サエちゃんは、っと。
「あー、うー、ねートメ」
「呼び捨て!? は、はいっ、なんでしょうかサエちゃん」
「そこに座れー」
「座ってますが」
「じゃー立てー」
「は、はい。立ちましたが」
「なにしてるのーコラー! 座れって言ってるでしょー!」
サエちゃんもうダメだ。
サユカちゃんは……
「サユカちゃん、もうすぐ年越しだよ!」
「ぷー」
「や、あの」
「ぷー」
「それ寝息?」
「ぷー?」
とりあえずダメっぽいことは確かだ。
そんなこんなで起こそうとしてるうちに年越しまであと一分! つけっぱなしになっているテレビの中でもカウントダウンが始まってしまった!
「おい、三人とも! あと一分もないぞ!」
「「「はーい」」」
「って起きたよ!?」
「起きたままじゃこの時間まで持たなそうだったからさ、半分寝てて温存してたんだよ」
「私もー」
「わたしもっ」
なんて器用なやつらだ。
「ほらほら、あと10秒よっ」
「わくわくするー」
「あと5秒!」
4!
3!
2!
1!
0――!
「あけまして、おめでとうございます!!」
「あけましておめでとう、今年もよろしグー」
「よろしグー」
「グー」
バタバタバタ、と倒れる三人。ぇ? あの、もしもーし。
「……やっぱ限界だったか」
しかし際どいながらも一緒に年越しを迎え、川の字になって寝ている三人を見てると……今年もきっといい年になると確信できて、思わず口元が緩んでいた。
「お、雪、か」
窓の外を見上げると、はらはらと舞い落ちる白い粉雪。
ホワイトお正月だっけ? 真っ白な気持ちで新年を、か。
もちろん去年のことを忘れるわけじゃない。新たな気持ちで新年に臨むということだ。
去年と同じように、ではなく、去年よりも、もっと楽しい一年を。
「お、カカ?」
「んにゅ……」
ずるずると身体を引きずりながら、窓の外を見上げる僕の横にカカがやってきた。
「ほら、雪だぞ、雪降ってるぞ!」
「なんかゴミみたい」
「人がせっかく浸ってるのに水さすなよ、気が抜けるなぁ」
でもまぁ、多分。
なんだかんだいって、こんな感じに気が抜けたりする一年になるんだろうな。
「はいはい、明日は初詣いくんだからちゃっちゃと寝るぞ」
「んにゅ……トメにーちゃんも並ぶ」
「はいはい、並んで寝るよ」
おやすみ、そして改めてあけましておめでとう。
今年がいい一年になりますように!!
今年はカカたちと、そして読者の皆さんと過ごせたことがとても大きかったです!
小説を書き始めて五年くらいですが、ここまで書くことが楽しかったのは初めてでした。
来年も毎日書き続けることができるのか!? それはわかりませんが(笑)、肩肘張らず、ほのぼのと頑張っていきたいと思います。
それでは皆様。
まだ年越してない読者さまには『よいお年を』
もう年越した読者さまには『あけましておめでとうございます』
そして全ての読者様に。
2008年もよろしくお願いします!!