カカの天下312「だって俺、家族だモン」
「んにゃー」
こんにちにゃ、カカですにゃー。
にゃーにゃー言ってるのはにゃ、ネコと一緒にコタツの中で丸くなってるからにゃー。
にゃー……コタツの中ってあったかいにゃー。
にゃー……
「あったかいにゃー」
「オイ」
「にゃ? にゃに、この野太い声は」
「オイ、聞けやコラ」
はて? 私はコタツの中で丸くなってたはずなのに……いつのまにかコタツに足だけ突っ込んで寝転がっている状態だった。
そして声に誘われるように起き上がってみると、テーブルの上に――
「オイ、俺のマネすんじゃねーよ。こちとら生まれたときからネコやってんだ。勝手にマネされちゃ不愉快なんだヨ!」
なにやら偉そうに前足で私を指差して「なんだYo!」と説教するネコの総理大臣が、テーブルの上に仁王立ちしていた。
「ど、どしたの大臣。なんで喋ってるの。なんで立ってるの」
「なに寝ぼけたこと言ってんだ。総理大臣が喋れなくて立てなかったら日本終わりダゼ?」
や、それはそうだけどネコにそんな「ダゼ☆」とか言われても。
「あぁ、そか。これ夢だね」
なんか頭がふわふわするし、そうに違いない。
「よくわかったな。そうだ、これは夢だゼ。よくあんだろ? 男に抱かれたまま寝たら相手が夢に出るとかヨ」
「抱いてるの私だけど」
「それは仕方ねぇ。だって俺、ネコだモン」
ごもっとも。
「ともかくよ、せっかくネコと喋る機会できたんだから,なんかねーのか。質問とかヨ」
「ネコって何味?」
「知るわけネーダロ! てめーは人間の味知ってるのかヨ!」
「私の性格は味があるってよく言われるよ?」
「ほほぅ? じゃあ食ってみようか? くっくっく……」
「私を食べるの!?」
「だって俺、雑食だモン」
「モン♪」とか可愛く言うわりにキラリと光る鋭利な牙。ここは――いでよ、ネコじゃらし!
「はん! バカにすんなよテメー。この俺にネコじゃらしなんぞ効くか」
にゃうーん♪ ぱしっ。
「だいたいな、総理大臣にネコじゃらし向けたりしたら捕まるんじゃねぇのカ? 何の罪かは知らねぇが」
にゃにゃうーん♪ ぱしぱしっ。
「そもそも――」
ごろごろにゃーん♪ ぱしっぱしっぱし!
「って、じゃらすな!!」
「だって君、ネコだモン」
「マネすんな! てめぇ、総理大臣を怒らせたらどうなると思ってんだ!?」
「戦争でも起こすとか?」
「夜中にてめぇの布団に忍び込んでおしっこしてやる」
なんて恐ろしい!!
「人の布団で糞尿たらすなんてこと、総理大臣がしていいと思ってるの!?」
「していいだろ。だって俺、ネコだモン」
ああ言えばこう言う!
「あのなぁ、あまり俺を怒らすなよ。これでも感謝してるんだゼ? 俺が捨てられてたときに拾ってくれたろ」
「う? 拾ったっていうか、拾いかけたというか」
「わかってるさ、ちゃんと拾ってくれる人のところに届けてくれたんだロ? わざわざダンボールの文字まで書き直してヨ」
……あー、そういえば、そんなことも、あったような。
「たしか……そうそう、そうだ。『おまえが飼え』って書いてあったのに『さもなくば食え』って書き加えたんだった」
「んなこと書きやがったのか!?」
「あれ、知らなかったの」
「文字なんか読めネェよ。だって俺、ネコだもん」
それもごもっとも。
「コノヤロー……拾われたときにおっさんが包丁片手に首傾げてたのはそういうことだったのかー」
迷ってたんだ、セイジ食堂のおっちゃん。
「ふん、まぁ結果オーライだから細かいことは気にしないでおくゼ。だって俺、ネコだモン」
「それ気に入ってるの?」
「まぁな。ああ、この家も結構気に入ってるゼ。だから今後もちょくちょくお邪魔するが、またよろしくナ」
「ん、わかった。じゃあまた喋ろうね」
「喋れるわけねぇダロ。だって俺」
「ネコだモン?」
「そしてこれ、夢だモン」
ずるずるずる。
「ぅーあ? おはよトメ兄」
「おはようさん」
仕事から帰ってきたのかな。トメ兄に足を掴まれ、仰向けのままコタツの中から引きずり出された私は、重みを感じて自分の胸元を見た。
「総理大臣が寝てる」
「そこ平面だから寝やすいんだろ」
私は失礼な兄めがけて総理大臣を投げつけた。
「ぎにゃ!」
「ぐはぁ! か、可哀想なことすんなよな! まったく……おまえいっつもマトモじゃないことばっかりするよな」
「だって私、カカだモン」
私もちょっと気に入った。
「あ、ゴメンね総理大臣。これからもよろしく」
聞いているのかいないのか、投げつけられたにも関わらず何食わぬ顔でコタツに戻る大臣。
やっぱアレはただの夢だったのかなぁ。
まぁそれはそれとして、ホントよろしくね。
夜中に布団の中にこないでよね!!
総理大臣が喋る話です。や、もちろん夢ですが笑
カカが最初に総理大臣に会った時に「ネコの言葉わかる」とかふざけてますが、案外本当に同じようなこと喋ってたのかもしれませんねぇ^^;