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カカの天下  作者: ルシカ
310/917

カカの天下310「クリスマス鍋、にありつけなかった人ら」

 おほほ、皆様お元気かしら? わたくし、貴桜小学校の校長をやっておりますオホホおばさんと申します。


 あら、本名ですか? おほほ、まぁいいではありませんか。わたくし、この呼び方気に入っておりますの。


 さてさて、この場をお借りしたのは他でもないのですが……おほほ、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんがわたくし、狩りが趣味ですの。それでですね、昨日のクリスマスに狩った獲物を皆様にご紹介したくて参上したんですの。


 クリスマスに何を狩ったかと申しますと、ずばり恋人たちですの!


 世にいるモテない人たちの叫びを代弁するため、幸せな夜を過ごす輩に向かって遠距離からライフル狙撃をどっきゅーん♪


 おほほ、冗談ですわ。本気になさったかしら?


 本当はですね、恋人を狩ってたんじゃないのです。変人を狩ってましたの。


 もちろんライフルなんか撃ちませんわ。ただ観察してきただけですの。おほほ、わたくしの趣味は狩りですけど、本当は狩るまでの過程――つまり狩り始めるまでの獲物の観察のほうが好きですのよ。


 というわけで、クリスマスに見つけて観察した変人さんたちの様子を、少しだけご紹介しますね。


 あ、わたくしがコタツをお貸ししたカカちゃんの家の様子は別にいいですわよね。一番変ですけど……おほほ、ユイナさんも随分と素晴らしい休暇を過ごせたようですし、また元気にお仕事に励むことができるでしょう。よきかなよきかな。


 さて、ではまずはこの方たちから。


「シングルベールシングルベール独りで鈴鳴らす〜♪」


「きょーはーむなしいクリスマス〜♪」


 居酒屋でおおらかに歌っている女性お二方と、なにやら下僕のように縮こまっていた男性の方の、三人グループですわ。


「あ、あのお姉さま。それにサカイさん、もう少し音量を下げられては……?」


「なにさっ! シューのくせにあたしに意見するわけ!?」


「どうせー、こんな日にこんな居酒屋に来てる人なんてー、みーんな独りでベル鳴らすような人たちだからー、いーじゃなーいでーすかー」


「そうさ! ならみんなでベル鳴らしたほうが寂しくなくていいじゃん!」


「というわけでー、みなさんご一緒にー。さん、はいー」


『シングルベールシングルベール皆で鈴鳴らす〜♪ だーけど独りさクリスマス〜♪』


 おほほ、酔ってヤケになっているのはお二方だけではなかったようで、みんなで涙を流しながら大合唱ですわ。


「ふんっ、まったくさ。クリスマス? なにそれ、食べれるの? って感じ」


「ふふふー、食べてるんじゃないですか、皆さん今頃はー、自分の恋人をー」


「むむむっ! じゃ、あたしは変人を食べてやろうじゃないの! くくく……うりうり」


「やーんー、カツコちゃんたらー自分が一番変人のくせにー」


「か、ぷ」


「あーんー」


 お店はいつの間にかシーンとなってましたわ。皆様、好きですわねぇ。


「あ、あのお姉さま! なんでしたら僕も食べてください!」


「よしきた。院長店長。メス」


「はいよ」


 ぱし、とすかさず女性の手に渡るのは……あらあら本物の手術用のメスかしら。


「え、なに、本当に食べるんすか!? 調理準備!?」


「カツコちゃん、わたしタンが食べたいなー」


「一撃死!?」


 おほほ、わたくしも好きですわ、タン。たしか舌の部分ですわよね。この後男性さんの舌がどうなったのか……それは内緒にしておきましょう。大丈夫です。聖なる夜ですし、舌の一本くらい失くしたってサンタさんがくれますわよ。


 お次は――そうそう、色気よりも商売っ気で頑張ってるお店がありましたわ。


「聞いたかバイト。セイジ食堂ではクリスマス定食というのをやっているそうだな」


「やってましたねー」


「ふん、クリスマスの定食? そのような和洋折衷にも程があるネーミングのメニューなど売れないだろうに。高級クリスマスディナーが大成功しているうちの店とは大違いだろうな」


「そうでもないみたいですよ。その定食は800円でご飯とみそ汁にチキンとケーキ。さらになんとおもちゃがついてくるんですよ。普通にお得じゃないですか」


「やけに詳しいな」


「はい。おいしかったですよ」


「食べてきたのか!?」


「ええ、さっき」


「おまえな、相手は敵の店だぞ!?」


「だっておもちゃが付くんですもん」


「……それ目当てか?」


「男はロマンを求める生き物です。お子様ランチが食べられない歳でも、堂々とおもちゃ付きのランチが食べられる……あぁ、なんて幸せなのでしょうか! 旗のついたご飯におもちゃ! これぞロマン! ありがとうサンタさん!」


 ねじを巻くと歩き始めるカメのおもちゃを天にかざして涙を流すバイトさんは、本当に感激しているようでしたわ。


「サンタといっても俺の兄貴だぞ」


「ぴったりじゃないですか。おっさんだし」


「じゃあ弟の俺もサンタか?」


「ですね。なんかください」


「拳でいいか」


「きゃー、怖いカメ。僕泣いちゃうカメ」


「泣け」


 あら、店長さんの拳がカメのおもちゃを。


「うあああああああああ!! 僕の、僕のカメチョリンゲルナンベリーナ・ブラブラ・アッハンウッフン1563世がああああ!!」


「な、名前長いな」


 歴史も深いですわね。


 でも正直に申しまして、男の方のロマンってわかりませんわ。本気で泣いてますし……


 しかし涙のシーンも束の間、この後お店がすぐに忙しくなりましたので、お二方ともすぐにお仕事に戻られましたわ。


 印象的だったのは――バイトさんはそれからずっと涙を流していたので、泣きながら「お独りですか?」と接客しては「あんちゃんもかー! ううぅ」と答えられていましたわ。とてもお客さんと仲良くされていたみたいです。


 さてさて、他は……えーと、そうそう。わたくしの小学校のアヤさんという方は教会で聖歌隊と一緒に歌っていましたわ。おほほ、とても感心なことです。


 そういえば西革君の家が夫婦ケンカ中とのことなので、どうなったのか覗きにいこうかと思ったのですが……なぜかお宅が見つかりませんでしたわ。なぜでしょう、西革、西革……名前、覚え間違えたのかしら。あとカカちゃんが言ってたイチョウさんっていう方のお宅も見つかりませんでしたわ。これも名前違うのかしら。


 まぁまぁ見つからないものは仕方ありませんわーということで、わたくしはさらにクリスマスの狩りを続け――


「校長、そろそろお仕事に戻られたほうが」


 そうそう! こちらの教頭先生はですね、奥さんに無理やりサンタの格好を――


「校長!! 私のイメージを破壊しないでいただきたい!」


 あらあらごめんなさいね。デストロイはあなたの専売特許ですものね。おほほ。でも――サンタの格好を、させたのかしら? させられたのかしら? おほほほ!


「……こーちょー」


 はいはい、おほほ! いま行きますわ。


 ――あなたのクリスマスはどうだったかしら? もしかしたらわたくしに覗かれていたかも……おほほ。


 それでは、お喋りなおばさんにお付き合いいただきありがとう、ですわ。


 失礼いたします♪

 えー、内容はタイトルのとおりです。

 視点は多分みなさま予想外であろう方でお送りしましたが、おほほ(笑


 ちなみに『ジングルベールジングルベール鈴鳴らす〜♪」を『シングルベールシングルベール独りで鈴鳴らす〜♪」にしてますが、実は譜面としての長さは一緒で『ひとりですずなら』を16分音符で歌った、みたいな感じです。

 あ、どうでもいい? そですか(笑


 ではでは、これで今度こそクリスマスプレゼントは終了、ということで♪


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