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カカの天下  作者: ルシカ
309/917

カカの天下309「クリスマス鍋」

 メリークリスマス! トメです。


 今日は楽しいクリスマス。待ちに待った鍋パーティの日なのです。というわけで、ただいまパーティの準備中。


「トメ君、お野菜の用意終わったよー」


「ありがと母さん、じゃ冷蔵庫いれといて。でも悪いね、せっかくの休みなのに手伝わせて」


 母さんは「何言ってるのよもぅ♪」とテレビでは見せない、ふにゃっとした笑顔になった。


「わたしはダラダラしにきたんじゃないの。ママをしにきたのだよ? 昨日はカカ君をかまってあげたから、今日はトメ君をかまう日なの。だから遠慮しないの」


「昨日はある意味さんざんかまっていただけましたが」


 少し気恥ずかしくて、皮肉を込めて言ってみる。


「僕の格好で抱き合ったりキスしたり……しかも腰振ってたってなにさ。踊ってただけみたいだけどさ、聞いたら勘違いしそうなことすんなよな。教育にも悪いし」


「あ、それはママじゃないよ。カッ君が『あたしにもなんかやらせろ』って言うから一回だけ演じてもらったの」


 あの姉はどこまでバカなんだ。


「まあまあ、昨日のことはごめん! その代わり、今日はいっぱい良い意味でかまってあげるから♪」


「……そですか」


「ふふ、よしよし」


 母さんはニコニコしながら僕の頭を撫でる。どうにも恥ずかしいのだけど拒むことができないのは僕がマザコンというわけではなく、『母さんには敵わない』という法則が笠原家の人間に染み付いているからである。


「トメ兄! コタツ並べたよー!」


「おう、ご苦労さん」


「他には何しますかー?」


「なんでもしますよっ!」


「んー、じゃ飾りつけでもするか?」


 はーい! と元気よく返事をするカカサエサユカの指には、小さなカエルの細工が施されたリングが光っている。三人ともお揃いだ。


 昨夜のうちに僕と母さんが『サンタさんからのプレゼント』として送ったリングである。ちなみに正式名称はデンジャーケロリング。先日母さんと二人で商店街を回った末、ふざけた名前のわりには可愛らしい細工だったのでこれを選んだわけだが……


 カカの部屋に飾りつけ道具を取りに行った三人を見送り、母さんに声をかける。


「そういや母さん、結局どうやってサエちゃんとサユカちゃんをうちに泊める話に持ってったんだ?」


 昨夜はサエちゃんもサユカちゃんもうちに泊まった。それは僕らが買ったお揃いリングをそれぞれの枕元の靴下へ仕込むためだったんだけど……せっかくのクリスマスイヴ。家族だって娘と一緒に過ごしたいだろうに。


「んー? ママはちょっと電話しただけよ。『お子さんはわたしの娘とクリスマスイヴを過ごしたいみたいです。悔しかったら「お友達よりも家族と居たい!」って言われるような素敵な関係を築いてくださいね♪』って」


「脅迫なんだか応援なんだかわからない電話だな」


「善意溢れる電話でしょ、ふふ。とにかく準備進めよ?」


「……はいはい」




 そんなこんなであらかたパーティーの準備は終わった。準備と言っても鍋の用意と部屋の飾りつけだけで、それほど時間はかからなかった。


 だから夕方までは余裕があり、みんなでダラダラと過ごした。「ママをしにきた」と言う母さんも結局一緒にダラダラしてたけど、娘たちと遊ぶ姿は紛れもなく「母親をしている」と言えたので、無粋にツッコむのはやめておいた。


 そして――ついにパーティーの開始時刻が近づいてきた。


「おう、きたぞー」


「お、テン。いらっしゃい」


「ぶはは! ベルだベル!」


「……うっさい」


 すでに着替えた僕の仮装姿を見て吹き出すテン。


 仮装と言ってもベルの形をした帽子……いや、仮面とか覆面の類だな、これは。ともかく僕の顔だけが『ベル』になっている状態なわけで。


 とっても滑稽なわけで。


「ジングルベールジングルベールすっずっ鳴ぁらすー!」


 カラァァァァン! 


「鳴らすなああああ!」


 どういう原理なのか、ちゃんと叩けば鈴の音が出るこの覆面。税込み2980円です。


「おー、鳴る鳴る」


 カランカランカラン。


「っていいかげん頭叩くのやめろテン! さっさとおまえも仮装しろ!」


「う……や、やっぱするのか。用意はしてきたが」


「ほら、居間を見てみろ。雪だるまの上の部分がお待ちかねだぞ」


 僕に促されて居間を覗くテン。するとそこには……


「あはははははははは」


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ、と激しく転がりまくっている白い球体と。


「ふふふふふふふふー」


 ペタンペタンペタンペタン、と微妙に転がりにくそうながらも白い球体のマネをする、絨毯を丸めたような物体があった。


「なんじゃこら」


「あ、テンカ先生だ!」


 転がってた球体が器用にもひょこっと起き上がる。そして球体についているバケツ帽子の部分から、カカの顔が現れた。


 もう説明する必要もないと思うが、これはカカの仮装。雪だるまの上、つまりは顔の部分だ。


 バケツ帽子をかぶった雪だるまの顔。その中にカカの身体がすっぽりと収まっている。手足の出し入れが自由らしく、球体の中に引っ込めれば何とも転がりやすい形になるのだ。上下セットで商店街で売っていたらしく、下の部分はすでにテンに渡し済みだそうだ。


「テンカ先生、こんにちはー」


 そしてカカと違って不器用に転がっていた物体は、なにを隠そうサエちゃんの仮装、靴下だ。


 ぶっちゃけどう見ても絨毯か毛布を身体に巻きつけているだけのようにしか見えない。これはサエちゃんの手作りらしく、やはり手足の出し入れが可能なんだそうだ。器用な。


「んしょ。んしょー……起きれない」


 しかしすんごく動きづらそうだった。自力で起き上がれない亀状態だ。なんか可愛いなオイ。


「笑える光景のはずだが……オレもこいつらの仲間入りするんだ、と思ったら笑えねぇ」


「心配すんな。僕が笑ってやる、だからはよ着替えろ。カカの部屋を着替えに使っていいぞ、そっちだ」


「お、おう……あ」


「あらあら、先生君ですね」


「チキン!?」


 テンが驚いたとおり、僕のベル仮面と同じような形のチキン仮面が現れる。


 そう、クリスマスといえばチキンです。そんなおいしそうな仮装をしているのはうちの母親です。


「カカ君とトメ君とカッ君がお世話になってるようで!」


「は、はぁ。いえ」


「あ、お着替えするんですよね。邪魔してごめんなさい、ごゆっくり〜♪」


 鼻歌まじりに去っていく我らが母さんの姿を、テンは呆然と見つめていた。


「なぁ、トメ。いまのチキンさ」


「チキンの説明はあとでしてやるから、さっさと着替えてこい」


 やれやれ、うちの母親を見た人っていちいち色んなことに驚くから説明が大変なんだよな。有名人だし仕方ないけど。はぁ、ただのチキンの説明なら楽なのに。


「そういえばサユカちゃんって、着替えまだ終わってないのか?」


「ふふふー、まだお着替え中ですよー」


「ふひひ、恥ずかしいんだよ、きっと!」


「きっとテンカ先生とどっちが先にお披露目するか、もめますねー」


 やたらと楽しそうな雪だるまと靴下。うーん、サユカちゃんってサンタの格好だよな。なんでそんな恥ずかしいんだ?


 疑問に思いながらもカカとサエちゃんを転がして遊んでいると、やがて廊下のほうから押し合い圧し合いする声が聞こえてきた。


「テンカ先生が先に出てくださいよっ」


「冗談じゃねぇ! てめぇこそ先に着替えてたんだから先に出るべきだろうが!」


「先に生きるって書いて『先生』でしょっ! だったら先に生き様も死に様見せてくださいっ」


「死んでたまるか! おまえこそ恥じ様見せてやれ!」


「そんなことしたら、わたしこそ恥じ死にますよっ!!」


 おー、ほんとだ。なんかもめてる。


「ちっ、仕方ねぇな、わかったよ。先に出て笑いをとって会場を温めといてやるよ」


 なんかの前座する芸人かおまえは。


 とにかく話はまとまったようで、間も無くして廊下の向こうからソイツが現れた。


 テンだ。雪だるまの下部分。カカの仮装とセットなだけあって似ている、が――でかい。


 馬鹿でかい白い球体。そのやや上部分にめりこんでいるテンの顔。


「笑いたきゃ笑え」


「ぶはははははははははははははははは!!」


「め、めりこんでる! 丸い雪玉にしかめっ面がめりこんでる!! くははは!」 


「あははははー! 転がったらそれだけで雪崩になりそー!」


「よーし転がすか!」


「いえーいトメ兄いけー!」


「や、やめろこら! うおおあおあ」


 この雪だるまの下部分も手足の出し入れが可能のようだが、なにせでかいので腕も足も半分くらいしか出せない。もちろんそんな状態で自由に身動きできるわけもなく……


「うああああああ!」


 ゴロゴロゴローっと転がしやすいのなんのって!


「「「あはははは!」」」


「覚えてろよてめぇら!!」


「「「了解!!」」」


「忘れろてめぇら!」


 どっちやねん。


「先生、合体するよー!」


「おお、カカがテンの上にのっかった」


 上から読むとカカとテンカだな。はて、なんだか妙に聞き覚えのあるフレーズのような気がする。


「雪だるま完成ですねー」


 こんな感じでしばらくテンで遊んだ。


 そしていよいよサユカちゃんの登場だ。廊下の向こうで出ようかどうしようかモジモジと迷ってるのがわかる。


「サユカーン、まだ?」


「その格好じゃ寒いでしょー。ふふー」


「う、うるさいわねっ」


「サユカ……さっさと出ろ、そして屈辱を味わえ」


「で、出るわよっ! 出ればいいんでしょ!」


 半ばやけくそに叫びながら、サユカちゃんがついに登場! 仮装はサンタ……って。あれ?


「う、うぅぅ」


 顔を真っ赤にしながら登場したサユカちゃん。その格好は、赤い布地に白いモフモフで縁取りされた、サンタの衣装と一目でわかる服装なのだが……なんか、布が、少なくないか?


「サユカンかわいい!!」


「ふっふっふー、どうですかーみなさん! 私がプロデュースした、肩出しへそ出しミニスカサンタはー!!」


「えううぅっ」


 そうなのだ。サユカちゃんはたしかにサンタの格好をしているのだが……赤い布地があるのはサンタ帽子と胸部分とミニスカとミニブーツ(屋内用)だけ。可愛いといえばすごく可愛いが、なんだか赤い水着を改造したような代物で……


「どうよ、トメ兄」


「どうですか、トメお兄さん」


 えーっと。


「サユカちゃん、寒くないか?」


「……トメ。てめぇ空気読みやがれ」


「トメ兄こそ寒いよ?」


「女心がわからないクズですかー?」


 う、うう。だってさぁ。こんな格好に正直に感想言うのも、なんかさぁ!


 あ、でもなんかサユカちゃんが泣きそうな顔してる! うぅ……そうだよな。一番恥ずかしいのサユカちゃんだよな……


「う、うん。可愛いよサユカちゃん! すごく似合ってる」


「ほ、本当ですかっ」


「お、おう」


「本当に本当ですかっ!? ど、どんな風に似合ってますか」


「肩がエロい」


「へそがエロい」


「ふとももがまぶしー」


「おまえら黙れ!!」


 僕じゃないぞ! テンとカカとサエちゃんの感想だからな、これは!


「たのもー!!」


 おお、誰かきた! ナイスなタイミングだ。これ幸いと僕はその気恥ずかしい場から抜け出した。


 誤魔化し笑いをしながら玄関に向かうと、そこにはコート姿の男の子。


「おや、タケダ君」


「トメさん! メリークリスマス! 今宵はお呼びしていただいてまことに――」 


「ああ、そういやカカが言ってたな。『勢いで呼んだ。今は反省している』って」


「反省してるのか!?」


 いやまぁ僕は別にいいんだけどね。


「ま、ピンチを救ってくれたしな。感謝の意を込めて、それなりに歓迎はしてやろう」


「あ、ありがとうございますお兄さん!」


「出てけ」


「あああ嘘ですトメさん!!」


 まったく。うちのカカはそうそうやらんぞ。


 ぶちぶち言いながらもタケダ君を居間に連れてくと、なんと彼はいきなり鼻血を出してしまった。おそるべし悩殺サンタスーツ。お子様には刺激が強かったか。


「あ、あの。こんばんはー」


 やがてサラさんも顔を出す。サラさんは他のメンバーの仮装を見て。


「……っ! あ……っく……」


「サラさんサラさん、そんなものすごい頑張って笑いをこらえなくても」


「で、でも……ぅ……し、失礼、ですし……」


 や、そんなしゃがみ込んでバンバン床叩きつつ必死で笑わないようにされたら逆に失礼だと思うんだけど。窒息死とかやめてよ?


 ともあれ、これでメンバーが全員そろったわけだ。


 しかし鍋を始める前に問題が浮上した。


「なに、仮装!? 聞いてないぞ」


 鼻ティッシュを詰めたまま文句を言うタケダ君。カカが言い忘れていたらしい。


「あの、役が足りないから他の役とかぶっても良いと言われたんですけど……結局何をどうすればいいのかわからなくて」


 申し訳なさそうに言うサラさん。とりあえず笑いの嵐は去ったらしい。でも分断された雪だるま姉妹を極力見ないようにしている。


 それはともかく、仮装しないと始まらないのが今回のルール。どうするべきか。


「仕方ないよ、ここにあるもので仮装してもらおう」


「そうは言うがなカカ。ここには仮装できそうなもんなんか――」


 僕が言い終わる前に、カカは市販の飾りつけセットについていたパーティ用の帽子をタケダ君にかぶせた。


 そしてテーブルの上に用意してあったフォークを二本、いきなり帽子にぶっ刺した。


「これ忘れてた。トナカイね」


「「「おお、なるほど!」」」


 僕も含め、思わず感心する一同。


「あ、あの……なにやら頭皮が熱いのだが」


 貫通しすぎたか。


「サラさんはこれね」


 言いながらカカがサラさんの頭に置いたのは、落ちないようにひもが付けられた――皿。


「クリスマスといえば、料理。料理といえば、皿。サラさんといえば、皿。てわけで皿の仮装ね」


「あ、頭に皿を乗せただけで仮装というのでしょうか……」


 カッパの仮装と言えなくもないが。


「ないものはないんだし、これで我慢しなさい」


「は、はい! わかりました、立派に皿として生きていきます!」


 割れそうな生き方だな。


「それじゃあ問題も解決したようだし、鍋をはじめるか?」


「待ってくださいトメお兄さん。その前にプレゼント交換会ですよー」


「そっか、まずはそれよねっ」


「おぅ、持ってきてやったぞ感謝しろ」


 む、忘れてた。そうだな、宴が進んでめちゃくちゃになる前にやっとくか。


「ふふ、じゃあみんな、このくじ引いてね♪」


 おお母さん。いつのまにそんなの作ってたんだ。


 ひもで出来たくじを皆が引き、一斉にそのひも先に書かれた数字を見る。同じ数字をひいた人同士がプレゼント交換をするという形だ。


 僕と同じ数字だったのは――


「おー、サユカちゃんか……って、あれ」


 返事がない、ただのゆでダコのようだ。


「どしたのサユカちゃん」


「神様ありがとう!」


 うぁビックリした。


「よかったねサユカン」


「よかったねーサユカちゃん」


「ありがとーっ、ありがとーっ」


 選挙でもしてる人みたいに周りに手を振って応えるサユカちゃん。よくわかんないけど……喜んでくれてるのかな。


「あ、あの。サユカちゃん? とりあえずこれ僕からのプレゼント」


「はいっ、一生大切にします! 墓まで持っていきますっ!」


「や、それはもったいないぞ。使ったほうがいい」


 なにせ来年上映される映画『初恋は実らない 宴』のイベントチケットだ。二枚しかないが、かなりのプレミアもののはず。


「さて、サユカちゃんは何をくれるのかな?」


「わたしです!!」


 はぃ?


「わ、わた、わたしがプレゼントですっ! どうぞ好きにしてくださいっ!!」


 ぇ? は? や? その? あの? えと?


「うあ本当にやったよ」


「サユカちゃん、だいたーん」


「……相手がトメじゃなかったらどうするつもりだったんだ、サユカのやつ」


 カカとサエちゃんとテンの声が耳を素通りする。


 僕の頭は混乱中だ。はたして、どうツッコめばいいのか。


 や、そもそもツッコんでいいのだろうか。


 一つ言えることは、ブラボゥなサンタの格好をしているサユカちゃんに「わたしを好きにして」などと言われる光景は犯罪以外のナニモノでもないということだ。


 さ、サユカちゃんをもらう……好きに……うーと、えーと。あ!


「じゃ、じゃあ! そのイベント一緒に行こうか!? 好きにしていいんだよね! いやぁ、それ実は僕も行きたかったんだよ!」


「は、はいっ! 一生お供します!」


 さ、サユカちゃん……いくら自分をプレゼントしたからってそこまでしなくても……まぁともかく一緒に行くってことで話はまとまったからいいや。


 さて、他の人はどうなったかな?


 カカは――おお、タケダ君と当たったようだ。


「まさかカカ君と交換できるとは思わなかったぞ!」


「私もあんたが相手とは思わなかったよ……はぁ」


「そんなあからさまにため息をつかないでくれ! 心配めさるなカカ君。やせても枯れてもこのタケダ――」


「枯れ果てればいいのに」


「冷たすぎ! いや、でもこのプレゼントを見てくれれば喜んでくれるはず。このタケダ、こんなこともあろうかと君の喜びそうなのを奮発して用意したのだ!」


「んー……なにこれ」


「高級薬セットだ! どうだ、嬉しいだろう」


「タケダのプレゼントってさ、役には立つけどつまんないよね。こないだは診察券だったし」


「むむぅ、そういうカカ君はどんなプレゼントなのだ!?」


「イチゴのブローチ」


「……ほわっつ?」


「ほとんどが女の子の参加者だし、トメ兄に当たっても似合いそうだからこれでいいと思ったんだけど。ま、せっかくあげるんだし、ちゃんとつけてよね」


「こ、この可愛らしいのを、つけるのか、俺が」


「つまらなくないでしょ?」


「おもしろくもないがな」


「そんな。見てるほうにとっちゃ愉快だよ。やーいやーい少女趣味」


「泣くぞ!!」


「泣いて枯れ果てるの?」


「男に枯れるとか言うな! 男はな、男はな……枯れるといろいろ終わりなんだよ!」


「なんの話さ」


 なんだかんだで嬉しそうじゃんか、タケダ。


 さて、他は……お。サエちゃんはテンと当たったみたいだ。


「ほい、『病院』のサービス券」


「なになにー? えーと『心臓か肺を一つサービスします』って書いてあるー。最近の病院は太っ腹ですねー」


 腹が太いからって心臓や肺がたくさんあるわけでもないだろうに。


「いやいや、居酒屋の『病院』だぞ。つまり、それにちなんだメニューをサービスしてくれるってこった。あ、ビールの無料券もあるぞ」


「半分は子どもが参加する交換会になんてもの持ってくるんですかー」


「大丈夫だ、多分おまえなら飲める。なんとなくだが」


「捕まったら先生のせいにしますからねー」


「お、おいホントに使うのか?」


 案外素直に受け取ったサエちゃんに、逆に慌てるテン。サエちゃんはそんなテンには構わず、なぜか僕のところへ歩いてきた。


「トメお兄さん、これ換金してくださーい」


 なるほど。さすがサエちゃん。ちゃっかりしてる。


 適当な現金とサービス券を交換したあと、ふとサエちゃんのプレゼントがなんなのか見てないことに気づいてテンに聞いてみたが――なぜか教えてくれなかった。はて?


 不可解ではあるが、教えてくれないものは仕方ない。さて、必然的に残りはうちの母さんとサラさんなわけだが。


「ふふ、お皿とチキンの組み合わせなんてピッタリね」


 確かに二人の仮装はいい組み合わせだ。食べないけど。


「はい、これがわたしのプレゼントだよ」


「ま、マフラー! しかも手編みですか!?」


「これなら誰にでも使えると思って♪ あ、サインとかしちゃったほうがいいかな?」


「ぜ、ぜひ!! ありがとうございますぅ! 宝物にします!!」


 おー、母さんのファンっていう話は本当みたいだな。なみだ目で喜んでるよ。


「じゃあサラ君は何をくれるのかな?」


「私です!」


 どっかで聞いたセリフが聞こえる。


「私をあげます! どうかお好きに使ってください!」


 おーおー顔真っ赤にして。本当にファンなんだなぁ。しかしこないだデート誘われた手前、僕がフラれたみたいな形なんだが。まさか母さんに奪われるとは思わなかった。


「んー、ちょっと困ったな。じゃあ、そうだね。今度帰ってくるときに、お茶に付き合ってもらおうかな♪」


「はぃ、はい!! 喜んでお供します!」


 僕より確実なデートの約束しおったな。


 や、別にさびしいとか思ってないからね。ホントよ? 僕だってデートの約束したしね! サユカちゃんと!


 ……なんだかしゃべればしゃべるほど情けないこと言いそうだからこのへんにしとこう。ふーんだ、どうせ恋愛だのデートだのは慣れてませんよーだ。

 

 


「「「いただきます」」」


 プレゼント交換もひと段落し、ようやくお鍋パーティの開催だ。乾杯の音頭や挨拶などない。いただきます、の一言だけで充分なのだ。だってみんなお腹すいてたもん。


 用意したコタツは二つ。


 一つはカカサエサユカにタケダ君を加えたお子様席に豆乳鍋。


 もう一つは僕、サラさん、テン、母さんの大人席でキムチ鍋だ。


「白菜いれるぞ」


「おう、定番だな。オレ好きなんだよなー、鍋の白菜」


「キムチ鍋ですし、ピッタリですよね」


「いけいけトメ君」 


 わいわいと白菜を入れる僕らのテーブルを見て、カカたちが騒ぐ。


「白菜か……よし、こっちは対抗して黒いものいれるよ!」


「黒いもの……ねっ」


「黒、か」


「なんで私を見るのかなー?」


 入れるなよ、おい。


「じゃあオレも青ネギ入れるぜ!」


「このネギね、ママがんばって値切ったのよ」


「母さん、まだダジャレがマイブームなの?」


「結乃さん素敵です!」


 そんな素敵な青ネギを睨むカカチームは……


「こっちも対抗して赤いものをー」


「赤ねっ、お肉かしら」


「ふむ、人の血は赤いよな」


「……なんで私を見るのさ」


「ま、まさか! カカ君の血は赤くないのか?」


「人の血が流れてないのー?」


「ありうるわっ」


「ありえんわっ」


 だから入れるなよ? 闇鍋にも程があるぞ。


「ではお次はママさんが、くず野菜をいれましょー」


 これでこっちの野菜は大体オッケーだな。そろそろ肉も入れよう。さて一方カカチームは。


「くず、か」


「クズねー」


「ごみクズかー」


「なぜ俺を見る!?」


 さすがに哀れだ。


「ほれほれ、くだらないことばっか言ってないで具を入れろ」


 見るに見かねた僕はカカチームの鍋に適当に野菜を入れてやる。


「むー、でもサユカンだけ何も言われてないの不公平だよ! ピンクは? ピンクの反対はなに!?」


「んー、別に反対じゃなくても、同じ色で対抗っていうことでもー」


「トメ兄! なんかそっちにエロい具を入れて!」


「ちょっとまてっ! それとわたしが繋がるのがものすんごく納得いかないんだけどっ!! まるでわたしがエロいみたいじゃない!」


「うん」


「これ以上なく素直に頷いてんじゃないわよっ!!」


「タケダも鼻血ブーな格好しといて何をいまさら」


「あ、う、ううぅ」


 急にミニスカを押さえて縮こまるサユカちゃん。忘れてたのね、肩出しへそ出しミニスカサンタの格好。


 しかし改めて各自の格好を見るとわりとユニークである。僕や母さん、タケダ君やサラさんは頭や顔の形がスペシャルになっているだけなのだが……


 カカとテンの格好がかなり面白い。雪だるまコンビの白い球体は柔らかいらしく、器用にも座り込んでこたつに入ることができている。しかしでっかい雪玉がコタツに入って鍋をつついている姿はとてつもなくシュールである。溶けないのかねぇ。


 あとサエちゃんは靴下だし。これ以上ないほどの靴下っぷりだし。


「んー、おいし。さすがトメ君♪」


「煮物の類は母さんに仕込まれたからね」


「うんうん、成長してくれてママは嬉しいよ。でもお肉もう少しいれよっか」


「そだな。テン、肉皿とってくれ」


「おう、ほれ。肉でできたサラさんだ」


「わたしを食べるんですか!?」


 や、だからなんで人鍋ムードなのさあんたら。


「お、お手柔らかに」


 あとなんで赤くなってんのさサラさん。


「煮込めば柔らかくなるぜぃ」


「やめんか! ちなみに野菜皿取ってくれって言ったらどうすんだ、テン」


「ふっふっふ、サラさんの野菜はどのあたりかなー」


「あ、そんなところ、や、あ、ああっ」


 どこまさぐってんだそこのオヤジ。


「ふふ、テン君、ストップ。悪ふざけもいい加減にしないとダメだよ? ここには子供もいるんだから」


「う、は、はい……おいトメ、なんでオレもこの人の子供みたいになってんだ?」


 母さんの母パワーは偉大だなぁ。もむもむ……ん?


「なんだ。この、やわっこい口ざわりのは」


 口を動かしながら首を傾げていると、なぜか隣のコタツのカカが答えた。


「私が隙を見て投げ入れたマシュマロじゃない?」


「この悪ガキ!!」


「もふもふ……もー、カカちゃんは静かに食べられないんだからー」


「これがトメさんの味……これがトメさんの味……えへへ」


「このように静かに呟きながら食べてるサユカ君もどうかと思うが……むぐむぐ、確かにうまいな」


 僕はどたばたとカカを追いかけて、それの光景を見て笑いながら鍋をつつくみんな。


 ……うん。


 とても上出来なクリスマスじゃないかな?


 鍋を食べ終わったらケーキを食べて、くだらない話に花咲かそう。


 このメンバーなら、きっと話が尽きることはない。


 うん、いい聖夜だ。


 何が聖なる夜なのか、とか。クリスマスの意味、とか。

 

 そんな難しいことは知らないけれど。


 僕らは楽しく笑ってる。きっと、それでいいんだよね。


 今日がいい日でありますように。


 明日も楽しくありますように。


 サンタさん――いるなら僕は、そんな時間を望みます。


 メリー・クリスマス。


 はい、長いです。過去最高です(笑

 でも作者的には満足いくクリスマスプレゼントを読者の皆様に送れたと思うのですが……いかがでしたでしょうか?

 今日がいい日でありますように。

 遅れましたが――メリークリスマス!!

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