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カカの天下  作者: ルシカ
308/917

カカの天下308「クリスマスイヴ・パニック! 後編」

 ひょこ、ひょこ、ひょこ。


 壁から飛び出て縦に並んだ顔は三つ。ども、サエちゃんサユカンの二人と一緒にこっそりと尾行しているカカです! 誰を尾行しているか? それはもちろん腕なんか組んで歩いてるトメ兄とサラさん!!


「どうしてくれようか」


「どうしてやろーねー」


「コロス」


「「だからそれはやりすぎ」」


 サエちゃんと二人でサユカンにツッコむが、放っている怒りのオーラは三人ともおそろいだ。私がなんで怒ってるかは聞かないで。


「確認するけど、さっきカカすけが見たのは確かにトメさんだった?」


「うん、顔は距離があったから微妙かもだけど……私がトメ兄の声を聞き間違えるはずがない」


 伊達に物心ついたときから一緒にいるわけじゃないのだ。


「つまりー、やっぱりあの二人はアレなんだねー」


「アレって?」


「言わせないでーカカちゃん」


 さ、サエちゃんも静かに怒ってる。なんか意外だ。


「とにかく邪魔あるのみよっ! どうしよ、突撃するっ!?」


 サユカンが怒ってるのは予想通り。私はどうかって? 聞かないでっての。


「突撃するのは最後にして、トメ兄に気づかれないようにイロイロと邪魔しよう!」


「わかったわっ」


「じゃあ早速いくよー。すいませんそこの警官さん!」


 サエちゃんは通りすがりの警官を引きとめ、道端に落ちているそれを指差して言った。


「それ、あの二人がしていきましたー」


 それは紛れもなく犬のフンだった。


「男の人がふんばってー、女の人は応援してましたー」


「なんだと!? こんなところで用をたしたのか! タイホだ!」


 うお信じた!


 あーあー、怒り狂った警官はトメ兄とサラさんへ向かって突撃しちゃった。


「ざまーみろ」


 サエちゃん、本気でムカついてるのね……


 あ、警官がトメ兄たちに謝ってる。誤解が解けたのかな。


 おお、こっちにズカズカ戻ってきた!


「どういうことだ! あの二人はそんな覚えはないと言ってるぞ!」


「私が指差したのは違う二人ですよー。もう行っちゃいました。残念ですー」


「なんだとぉ!?」


 うまい……さすがお腹真っ黒なだけはある。


「さ、次は何するー?」


 警官を適当に追い払ったサエちゃんが言うと、今度はサユカンがキラリと目を光らせた。


「わたしが、やるわ」


 おお、できるのか比較的常識人のサユカン!


「ちょっとそこの文房具屋に寄るわねっ」


「うん、わかった。早くしてねー!」


 ――サユカンの作戦はこうだ。


 文房具屋さんで買ったのは紙と筆ペン。その紙に筆ペンで文字を書いて、先回りしてトメ兄とサラさんが歩くだろう道に置く。以上!


 それだけか、と思ったそこの諸君。考えてもみてくれ。


 カップルで二人で歩いていて、その通る道には何枚もの紙が捨ててある。そこに書いてある文字が『破局』『別れてくれないか』『もう君に飽きた』『壊れていく愛』などと達筆に描かれたものだったとしたら、どうだろう。


 精神的にダメージを負いはしないだろうか?


 歩く道に『社内恋愛』『不倫発覚』『左遷』とかいう妙にリアルな文字が延々と並んでいる光景だよ?


 きっと負うだろう。


「くすん、くすん……もう言葉が思いつかないっ、いいやもぅ嫌な言葉ならなんでも……くすん、『すね毛』『わき毛』『鼻毛』と……くすん」


 恐ろしい道ができてゆく。


 勉強になった。恋する女ほど敵に回して恐ろしいものはない。




 呪いの道を歩いた末にトメ兄たちが辿り着いたのは、なんと私の家だった。トメ兄め、うちに女を連れ込む気だったのか!


 ゆるさん。トメ兄にはまだ早い!


「カカすけ、がんばっ」


「いよいよ真打登場だねー」


「まかせて!」


 すでに私らは家の中でスタンバイオーケー!


 さぁ……トメ兄たちが帰ってきた!


「……ただいまー」


「……お、おじゃまします」


 呪いの道を通ったせいか顔色の悪い二人。ていうかそろそろ腕はなせ!


「おかえり!!」


「お、おう。どした、なんか不機嫌じゃ――」


「トメ兄それなにー!?」

 私はズカズカ歩み寄り、しゃがみ込んで、いきなりトメ兄の靴下を脱がした!


「うあぁ!?」


 バランスを崩したトメ兄はそのまま後ろへ転んで頭をごっつんこ。へん、ざまみろ。


「と、トメさん大丈夫ですか!?」


「いてて……なんなんだよカカ」


「そっちこそ! これはなに!」


 私はたった今脱がした靴下を突きつけた。そこには赤いナニカの跡がついている!


「なにって……ケチャップか。赤いし」


「口紅でしょ!」


 ケチャップだけどね。トメ兄が倒れている隙につけたのだ。


「こんなとこに口紅つけるなんて、どんなプレイしてたの!?」


「プレイて。や、あのな。それどう見てもケチャップだぞ」


「じゃあ食べて確かめてみてよ!」


「むごああぁああぁぁ!?」


 脱ぎたてほやほやの靴下をトメ兄の口へと無理やり突っ込む! トメ兄はもがもが言いながらも租借した。ていうか、させた。


「なにさキスなんかして、抱き合ったりして! 腰振って踊ったりして!! ほらほらおいしい!? おいしいって言え! おかわりって言えー!!」


「もがぐががが」


 壊れたラジオみたいに呻くトメ兄。ほらほらもっともがけ――う?


 靴下を味わう呻き声の他に、別の声が混じって聞こえていることに私は気づいた。


 これは――笑い声?


 その声はだんだんと大きくなって……やがて玄関にその姿を現した。


「ふはははは! なかなか面白いことになってるな!」


「ふふふふふ……靴下おいしい?」


 こ、この二人は!


 トメ兄とサラさんとまったく同じ格好に同じ顔、同じ声!


「トメさんが増えたっ!?」


「ほんとだー、サラさんも」


 その驚きの状況に、隠れていたサエちゃんもサユカンも思わず飛び出していた。


「ぷはぁ!」


 あ、トメ兄の口に入れてた靴下とれた。


「そういうことか……なんか変だと思ったら、何してくれるんだよ父さん母さん!」


 ……え?


 ぽかんと口を開けた私とサエちゃんサユカンサラさんを面白そうに見渡し、サラさんのニセモノはペロンと顔を――いや、ドラマとかアニメでよくある変装マスクを取った。


「はーい、わたしの正体はママなのでした! ふふ、カカ君とそのお友達諸君。騙しちゃってごめんね♪」


 お母さん……!


「笠桐結乃……さん!」


「ほ、ほんものだー!」


「え、え、ええ!? ほ、本物の結乃さん!?」


 私と違って芸能人を前にして驚くサエちゃんサユカンサラさん。でも見慣れてる私にとってはそれはどうでもいい!


「お母さん! それにお父さんも……どういうことなの、説明して!」


「説明か、それは簡単だ。本日カカとお友達が最初に見かけ、ラブラブちゅっちゅした後に見失ったトメとサラさんは――全て俺と母さんの変装だ」


「そんな! だってあの声はたしかにトメ兄だったし、サラさんだって――」


「忍者をなめるな」


「女優をなめるな♪」


 ……言い返せねー。


「なんちゅーことしてんだあんたら!」


「いやー。若返ったぞ」


「やん♪ パパ君たら」


「そんなことは聞いてねー!」


 人権とかを侵害されまくったトメ兄はキレ気味だ。


「んー、でも、私たちがイヤガラセしてたのは本物のトメ兄とサラさんなんだよね」


「あれはおまえらの仕業か!?」


 やべ、口が滑った。


「うむ。俺らが演じてカカたちをたきつけた後、その近くの場所でたまたま出会ったトメとサラさん。しかし突然折れるヒール! サラさんは靴を貸してくれるというトメの腕にしがみつきながらここまで来ただけのこと。ちゅっちゅどころかイヤガラセにあいながら、な」


「トメ君とサラ君をうまいタイミングでうまい場所に引き会わせたのはパパ君だけどね。忍者ってそういうの得意みたい」


「隠密活動専門の職だからな。ちなみにヒールを折ったのも俺の手裏剣だ。ああ、弁償はするから案ずるな」


 こ、この忍者は……せっかくトメ兄とサラさんとのデートはお預けになってたのに、無理やりさせるなんて!


「ふふ、今日と明日は完全にお休みとれたから帰ってこようと思ってたんだけどね、トメ君が調子に乗ってるってパパ君が言うから……ちょっとお灸をすえようと思って」


「……父さん、あんたが元凶か」


「ふん、モテるやつは地獄に落ちろ。それが息子だろうとも」


「あんたなぁ! 素顔も見せずに偉そうに!」


 シュバ!


「あ、消えた! ……あのクソ親父、まだカカに顔見せれないのか」


 む? 私に顔向けできないの? なにやったんだろお父さん。


「まあまあ、トメ君。これくらいのことは慣れてるでしょ?」


「……頷くしかない僕の人生っていったい」


「ママだってたまには娘と遊びたかったのよー」


 だからって基本的には普通な思考の持ち主のお母さんがこんなことするなんて……意外。


 でも、まぁいいやそんなこと。


「お母さん! 私を騙したんだよね!」


「楽しかったよ♪」


「感想なんて聞いてない! 罰として今日は私とずっと一緒にいなさい!」


「ふふ、はいはい! あ、お友達君は初めましてだね。カカの母親ですー」


「は、はいっ!」


「よ、よろしくー」


 おお、お母さんの芸能人スマイルのオーラに二人ともたじたじだ。


「あと、サラ君? ごめんなさいね、こんなことして。気を悪くされなかったかな?」


「あ、い、いえ! 私ファンですし、なんだか光栄でサインが極まってほしいです!」


 なんだか言いたいことがこんがらがるほど舞い上がってるなサラさん。


「光栄極まってサインがほしい、と言いたいのだな。くく、サラさんが母さんのファンだというのは調査済み、サインでもやれば許してくれると思っていたが、まさに計画通り!」


 天井から再登場して高笑いするお父さんに、お母さんはにこーっと微笑んだ。


「パパ君、ひっこんでて」


「……はい」


 お母さんはお姉と違ってバケモノでも乱暴でもないし、お父さんのように忍者というわけでもない。


 でもなぜかうちでは最強だった。


「さ、みんな。せっかくだからお茶しましょう! パパ君から話は聞いててね、みんなとお話したくて仕方なかったの!」


 おいでおいでーと気さくに手を振る天下の女優結乃、本名ユイナさんの笑顔に、眩しそうに目をほそめるサエちゃんサユカンサラさん。


 緊張しなくてもいいのに、中身はちょっとお茶目なだけの普通の人だし。


 でも、最高のお母さんだけどね!


 私は今日あったゴタゴタなど忘れて、大好きなお母さんの胸に向かって突進した。


 明日のクリスマスだけが特別だと思ってたけど。


 クリスマスイヴだって捨てたもんじゃないね!


 少しありましたが、パニック終了です笑

 いかがだったでしょうか? 母さんの正体や校長の正体よりも読みやすい展開だったとおもいます^^

 あとはクリスマスのお話を書くことで、私からのクリスマスプレゼントはおしまいです♪

 どうぞごゆるりとお楽しみください。多分、次も長いです笑

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