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カカの天下  作者: ルシカ
307/917

カカの天下307「クリスマスイヴ・パニック! 前編」

「そろそろ商店街の中は見終わったよね」


「うんー、私は買いたいもの決めたよー」


「わたしは迷ってるわっ」


 こんにちは、カカです。


 今日はクリスマスイヴです。そのせいで街はアツアツうはうはカップルで溢れて活気に満ちていますが、私たちにとってはあまり関係がありません。


 そう、重要なのは明日。クリスマス当日。


 今日の夜にサンタさんがくれるプレゼントも大事だけど、今の私にとってはサエちゃんやサユカンたちと一緒にするプレゼント交換のほうが楽しみなのです!


 でも何をプレゼントにするかはまだ決まってません。それはサエちゃんやサユカンも同じだったようなので、今日は三人でプレゼントの物色をするために商店街を歩きまくったのでした。あーでもない、こーでもない、と議論しながら歩くのはとても楽しかった。


 そしてあらかた見終わったところで一時解散する。いままで三人でしていたのは『プレゼントの物色』だけだ。まだ誰も何も買っていない。


 だって『誰のプレゼントが何なのか』というのは交換会までの秘密なのだから。


「いい? ちゃんと私とか他の人に見られないように買うんだよ。もし何か買おうとしてる人を見つけたら、すぐに目を背けること」


「わかってるよー。私たちだって明日のお楽しみにしたいもん。ねーサユカちゃん」


「そうよ、わざわざ楽しみ減らすようなことしないわっ」


「よろしい。ではかいさーん!」


 私の号令のもとに三人は散らばっていく。


 さて、プレゼント候補は三つあるけど、その中でサエちゃんともサユカンとも方向が重ならないのは……あそこか。


 頭のなかで店の目星をつけた私は、道を歩くカップルたちの隙間を縫うように移動していく。


 ……ほんと、カップル多いなぁ。


 べたべたくっついてまー。これなら寒くないだろね。おーおー恥ずかしげもなくいちゃいちゃ声あげてる人もいるよ。


「いいじゃん、寒いんだし」


「で、でもぉ、恥ずかしいですし」


「みんな腕組んでるしさ、僕らが組んだって誰も見ないよ」


 おーおー、組んじゃってくださいよ。どうせ誰も見たくないよ、知らない人らのイチャイチャなんて――知らない人?


 今の声、なんか聞き覚えがあるような。


 立ち止まってきょろきょろと周囲をうかがってみる。はて、今の声はどこから――って!?


「……ん」


 き、キスしてる。


 建物の影に隠れて、キスしてる!


 しかも、そのキスしてる二人は――


「な、これで腕を組むくらい恥ずかしくないだろ」


「あの、でも、その……」


 声を聞いて確信する。


 強引にキスしたその男は……トメ兄。相手は、サラさん……!


「まぁ、そう言う僕も今現在、かなり恥ずかしいんだけどな。でもその、ほら。僕ら、恋人同士だし」


「……はい。では、お言葉に甘えて」


 仲良く腕を組んで歩き出す二人。


 ああ、なるほど!


 恋人かぁ。


 だからそんなにくっついてるんだ……


 恥ずかしいけどくっついて……


 べたべたくっついて……


 くっつきすぎでしょ!! 恋人かおまえら!?


 なぜか知らないけどムカつく!! タックルしてやる! と息巻いた私は、二人が曲がった角へと猛ダッシュ! したん、だけど。


 あれ、いない?


 いない!!




 集合場所で座り込んで、改めて考えてみる。


 はて、私はもしかしてモノスゴイ現場を見てしまったのではなかろうか。いきなりキスなんて見たせいで頭の中が固まっちゃったけど。


 トメ兄が、キス。相手はサラさん……恋人、どうし。


 ありえないことじゃない。トメ兄は大人だし。でも、前にトメ兄は「急にデートなんてできない」とか言ってたよね。あれ嘘だったのかな? 実はもう何度も会ってデートしてたとか? でもそうだとしたらサユカンが――


「……カカすけっ」


「あ、サユカン! 実は」


 あれ、胸ぐら掴まれたぁあぁあ!?


「聞いてよっ!! トメさんが! トメさんがぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」 


「そんなに揺らふなあぁあぁあぁあ!!」


 どうやらサユカンも見てしまったらしい! トメ兄とサラさんのラブラブ現場を! でもそれは置いといてこのブラブラだれか止めて! 頭がブンブン快楽飛行! このままだとここが殺人現場になっちゃう! もちろん被害者は私だ! 笑えない! でもだんだん気持ちよくなって笑えてくるよあははは――


 やがて合流したサエちゃんに救われなかったら危ないところだった。


「トメさんトメさんトメさん……うぅうぅ」


「ま、まあまあちょっと落ち着いて」


「おかしいよぅ、おかしいわよぅ、こんなのぉ」


「そうだよー、奪い返せばいいだけなんだしー」


「うばうもん、うばうもん、ころすもん」


「「それはやりすぎ」」


 なんとかブラブラから開放された私は、サエちゃんと二人して錯乱するサユカンをなだめ、情報を整理することになった。


「私もトメお兄さんが女の人といるとこ見たよー」


「どんな感じだった?」


「なんかくっついて腰振ってたー」


「踊ってたの?」


「たぶんー」


よくわかんないけど仲良くしてたことには間違いなさそうだ。


「でもおかしいね」


 こんな都合よく三人ともトメ兄を見かけるなんて。しかも見かけた時間と場所を聞くと、三人とも似たような時間に見かけたことがわかった。でも……場所がおかしい。三人ともかなり離れたところにいたのに……そして三人ともすぐにトメ兄たちを見失ってる。


「トメ兄が、増えた?」


「一匹見つけたら三十匹いるって言うしねー」


「熱湯とか洗剤が効くんだよね」


 あれ、これトメ兄の話だっけ? 違う、いつのまにか黒い虫『G』の話になってる。


「増えるトメ兄の話に戻そう」


「増えるわかめみたいだねー」


「たくさんのトメさん……そんな、囲まれたりしたら、そんな、そんな……にゃへへ」


「さ、サユカンどんな想像してんだろ」


「んー、わかんないけど、多分そういう妄想に逃げて現実を見ないようにしてるんじゃないかなー」


 サユカンもトメ兄とサラさんがちゅっちゅしてるのを見たらしい。サユカンはサラさんの顔を知らないけど、その女性の服装などを聞く限りは私が見たサラさんに間違いない。


「……増えたかどうかはおいといて、トメ兄がサラさんとラブラブしてるのは確実と思っていいのかな。あの声もあの顔もたしかにトメ兄だったし」


「だと思うよー。ほら、あんなにラブラブしてる」


 サエちゃんの指差す先には仲良く腕を組んでるトメ兄とサラさん。ああほんとだ、間違いないみたい。さっきと同じ服装だし……って、え?


「トメ兄……だ」


「トメお兄さんー……」


「トメさんっ」


 その、仲睦まじい二人を見て。


 ブチリ、と。


 三つほど何かがキレる音がした。


 ちょっと早いですが一足先にクリスマスイヴのお話です。

 あまりパニックになりませんように笑

 後半へ続く

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