カカの天下305「戦だ、がんばれタケダ」
このごろずいぶんと寒くなったが、皆のもの元気にしておるか?
む、俺が誰だって? ひかえおろう! ここにいる俺をどなたと心得る。先の副委員長 タケダであるぞ!
好きな時代劇の真似事をしてしまったが、皆のものはわかってくれたであろうか? さてさて、なぜに俺がこのような時代劇口調なのかというと……戦だからだ!
戦、それは男のロマン。
戦、それは男の生き様。
戦、それは都合よくなんでも格好よく表現できる言葉!
そう、たとえ俺が今からやることが情けなくても――詳しく言うと「カカ君、クリスマスまーぜて♪」なんて拝み倒すようなことであっても、これは紛れもなく戦なのだ! 勝たなければならない戦なのだ!
というわけで目標を確認。いつもの三人組で戯れている様子。
さぁ戦だ! 突撃だ!
最近は名前も覚えてくれたようだし、適当に挨拶してナチュラルな会話で切り込むのだ!
「やぁ! カカ君聞いてくれよ。実は俺、クリスマスに予定がまったく入ってなくてな!」
「あそ。かわいそうに」
え……あの、それだけ?
い、いやいや! まだ勝負は始まったばかりだ!
「そ、そうなのだよ! いやぁ冬も真骨頂だな。日本だけでなく、人の心まで寒くしてしまうのだから!」
「かわいそうに」
あの、ちょっと、本気で寒く……
「な、鍋とか、そういう家庭的で温かいもの! しばらく食べてないんだよ!」
「かわいそうに」
「かわいそうねっ」
「哀れー」
四面楚歌!?
だ、だから俺は――!!
「同情してほしいわけじゃないのだよ!!」
あ。
言ってしまった!?
しかも天高く吼えてしまった!
か、カカ君の反応は?
天に向かって叫んだままになっている顔を、おそるおそる下げてカカ君の顔を見る。
カカ君はもう同情してはいなかった。
「はん、ざまーみろ」
「蔑んでほしいわけじゃなくてさ!」
ええぃ! もう直球だ!
「カカ君、俺は鍋が食いたいのだ!」
「うらやましいでしょー」
「自慢してほしいわけじゃなくてさ!」
「あ、そういえばそこの戸棚に鍋あったよ。かじれば?」
「鍋自体を食べたいわけでもなくてさ!」
「もー、なんなのさタケダ。見たらわかるでしょ、今は調理実習中なんだよ? 料理されたいの?」
「そうよそうよっ、違うクラスの人は引っ込んでなさいっ」
「サユカちゃんも違うクラスだけどねー」
そう、今日はカカ君たちのクラスは家庭科の授業で調理実習をしている。
とは言っても今は休憩時間なので、別のクラスの生徒もちょこちょこ覗きにきたりしているのだ。あわよくばちょっと料理をつまもうなどと企みながら……俺は違うが。
「いいか! 俺はな!」
「これカカすけが切った野菜? ぐちゃぐちゃじゃないのっ」
「トメお兄さんとは大違いだねー」
「いっつもご飯作ってるトメ兄なんかと比べないでよ」
「き、聞いてない……」
うぅ、そんなに楽しそうにトメさんの話を! いいなぁトメさん。男の嫉妬はみっともないが……む、トメさん?
「そういや母上が、昨日トメさんと綺麗な女性が二人でデートしているのを見たーとか言ってたな」
ぅお? ポツリと呟いただけなのにカカ君たちの動きがピタリと止まった。
「タケダ、それホント!?」
詰め寄ってくるカカ君の顔のアップに「やっぱかわえぇ」なんて思いつつ、慌てて頷く。
「あ、ああ! なんでも二十代くらいの、すごく綺麗な女の人と、腕を組みながらショッピングしていたとか――」
「二十代……まさか、サラさん? うー、見逃したなぁ! いつのまにデートなんか」
「さ、サユカちゃーん?」
はっ、としてカカ君はサユカ君を見る。サエ君も話しかけているが……サユカ君は俯いたまま反応がない。
いや、反応はある? なんだかぷるぷる震えているような。
5秒後……サユカ君はどうやら力をためているようだ。
10秒後……まだためているようだ。
15秒後……もうちょいのようだ。
20秒後……プチン。
「ふっざけんじゃないわよおおおおおおおっ!! なによサラって!? どこの皿よっ! いますぐ出しなさい割ってやる!!」
なんか爆発したようだぁ!?
「サユカちゃん、人間のどこかを割ったら大抵犯罪だと思うよー?」
と言いつつサエ君が持っているのは包丁ではあるまいか!?
「そうだよサユカン。割っちゃダメ」
切るのならいい、とでも言いたげにカカ君まで包丁を!
「ふ、ふふふふ……トメさんの腕を……腕を!」
サユカ君まで包丁持って、しかもそんなことを呟いていたら――腕を切り落とそうとしてるようにしか見えないのだが!?
「とにかく、今日は帰ったら即トメ兄に聞いてみよう!」
「「おー!」」
騎士が誓いを立てるときのように剣――いや包丁をかかげ、頷きあうカカ君たち……あ、チャイムが。
「トメさんが、トメさんがお皿と!」
「腕を組むとかー、なんか私もちょっとムカつくかもー」
むぅ、チャイムも鳴ったし自分の教室に戻らなければ! し、しかし目的が!
「カカ君! 君らがやるクリスマスパーティ、実は俺も出席したいのだが――」
「勝手にすれば!?」
あ、あれ。なんかあっさり了承されたぞ?
「い、いいのか?」
「いいよそんなの! 今忙しいの、あっちいって!」
「まず、サラさんって誰なのー?」
「そうよそれから聞かせなさいよっ」
「実はね――」
なんだか盛りあがってしまったようで、俺は完全に蚊帳の外だった。
なんだか納得しかねるが……参加許可は出たので戦は勝ちだ! よしとしておこう。
……なぜだろうか、男としてはトメさんに惨敗な気もする。
次回、急展開! お楽しみに♪