カカの天下304「グチりたいときもある」
「って感じでさー。なんだか知らないけどお姉が!」
「うあーっ、ソースと歯磨き粉で頭を洗ったの!?」
「近寄るなー」
「サエちゃ! それ本気で凹むから!」
「くちゃーい」
「ザーエーぢゃーん!」
半泣きのカカすけをからかって面白がるサエすけを眺めながら、わたしサユカはぼんやりと昨日の電話を思い出していた。
あれはそう、夜中と言ってもいい時間だったわ。意外な人から電話がかかってきて――延々と愚痴られたのよ。
その意外な人とは何を隠そう、カカすけの姉!
『そりゃクリスマス鍋はあたしも行きたかったけどさー、サカイちゃん放っておくわけにはいかないじゃん?』
「前みたいにサケイさんに化けてくればいいじゃないですか。今回も仮装あるしっ」
『そーうまくもいかないのよ。普通に考えてみな、あんな変装がそうそう何度も通じるわけないっしょ?』
「お姉さんって普通に考えることできたんですねっ」
『あたしを何だと思ってんのさ』
「言わないほうがお互いのためだと思いますっ」
『それもそだね。ともかく! あのときは会場がサカイちゃんちだったでしょ。だから変装がバレないように照明を薄暗くしたり、マスクずれてないかチェックするために各所に鏡設置したり……いろいろ小細工できたけど』
そんなことしてたんだ。サエすけと喋りたいあまりに勢いでやったのかと思ってたけど、意外に考えてたのね。
『今回はそうはいかないっしょ。会場はうちの居間。なぜかあたしが最近交換させられた電灯も絶好調。しかも八人しかいないとなると喋る回数も観察する機会も増える。つまり、すぐにバレちゃうわけ。だからサカイちゃんは欠席! それに付き合うからあたしも欠席、ってわけ』
「……それで、なんでそれをわたしにわざわざ言うんですか」
『や、単に愚痴ろーかと』
「なんであなたたちはわたしにばっかり愚痴るんですかっ!?」
『だってー、うちらの事情知ってるのってサユカちゃんだけじゃん』
むぅ……それは、そうだけどぉ。
『なんにせよそんなわけで、あたしらは寂しいクリスマスを過ごすのさ。あーさびし! サカイちゃんかわいそ! かわいそすぎてムカつくからさ、鍋パーティなんて思いついた弟妹の家に行ってイタズラしてきちゃったよ。悪気あるもんじゃないから手加減したけど』
「なにやったんですか」
『んっふっふ、明日カカちゃんあたりに聞きなさいな。多分すごい迷惑そうな顔して話してくれるから。可愛いんだろなー、見たいなー』
この後もずーっと愚痴だったので適当なとこで回想を止め、改めてカカすけの顔を見る。
うん、いつだったか給食できゅうりが出たときくらい見事に迷惑そうに顔をしかめている。
本気でイヤだったのねソースと歯磨き粉のシャンプー。いやまぁイイとか言う人がいたらビックリよね。食べられたい願望あるんだか磨かれたい願望あるんだか、どっちなのかは知らないけど。
「それでさ、サユカンはプレゼント何するの?」
「へっ!?」
おっと、回想に沈んでるうちに話題が別のものになってるわっ。
「そ、それを言っちゃったらプレゼント交換会つまらないでしょっ」
「サユカンはやっぱし、あれだよね。自分にリボンつけて」
「あなたに私をプレゼント♪ きゃー」
「きゃー、ですまないわよ! そんな寒いことしたらっ」
「冬にしても寒すぎるね」
「寒すぎて痛いよサユカちゃん」
「さもわたしの頭がイタいみたいな言い方やめてくれるっ!?」
「でもさ、トメ兄相手にならそれくらいしてもいいでしょ」
「そ、そりゃトメさんなら……でもくじ引きで誰に当たるかわからないんでしょっ」
八人もいるんだし、普通に考えてトメさんに当たる確率のほうが低いじゃないっ!
「でもさ、サユカンの気持ちを知られることなくトメ兄に好きにしてもらえるチャンスだよ?」
トメさんの、好きに?
なにされるの?
……にへ。
「告白もできない腰抜けのサユカちゃんにはぴったりだと思うけどー」
「誰の腰が抜けてるってっ!?」
「少なくとも今の表情は抜けてたよー」
くっ、ちょっと妄想してるとこを見られてしまった!
何を妄想してたかは内緒よっ!
「私はプレゼントどうしようかなー」
「サエすけのプレゼント当たっても喜べないものが出そうな予感がするわ、なぜかしら」
「ほほう、じゃ私は?」
「カカすけのプレゼントは……『なんじゃこりゃ』っていうものが出そうっ」
「なんじゃそりゃ」
「あーこりゃこりゃー」
そんな風に他愛のない話を楽しみながら。
こんな楽しみがなかった去年の自分のクリスマスを思い出して。
ああ、それと比べてみると……なるほど。この輪に入れないとしたら愚痴も言いたくなるかな、なんて、納得してしまう自分がいた。
絶対口には出さないけどねっ。
何かサカイさんとお姉さんにもプレゼント用意しとこうかな。
びみょーに前回の続きです。
しかしあんなイタズラした姉に対して「姉、なにかあったのか」なんて反応する読者様がいないのはまさに日頃の行いですねぇ^^;