カカの天下302「鳴るか転ぶか、募る楽しみ」
「「カンパーイ!」」
コツン、と合わせたのはジョッキグラスではなくお猪口。そう、今は冬。熱燗がおいしい季節なのだ! くい、っとあおると……んー、腹にしみる!
どうも、ちょっとおっさんくさいトメです。
「トメって日本酒もいけるんだな」
「おう。姉が結構好きでなぁ」
「そういやこの間の飲み会のときも飲んでたぜ。ビール飲んだ後はこれだーって」
今日の飲み相手はテンだけだ。先日と違って姉とかの付属品はない。
「姐さんって強いよな。何種類の酒を飲んでも潰れねぇし。オレはウコン飲んでもせいぜい二種類が限度だわ」
「僕も似たようなもんだよ。というわけで今日は熱燗オンリーで」
お酒を飲まない人に一応説明しよう。人は『ビール飲んで次に日本酒』や『ワイン飲んで次に焼酎』というように、別の種類のお酒を一度に飲むと一気に酔いやすくなるのだ。これをチャンポンという。初めてお酒を飲んだりするときにハメをはずす人も多いけど、なるべく一種類のお酒だけを飲むようにしたほうが安全だぞ。
「お待たせしましたー」
「お、きたきた。胃袋おでん盛り合わせ」
ずいぶんとデンジャラスな品名だが、店員が持ってきたのは至って普通のおでんだ。べつに出し汁が胃液っぽかったり胃袋が山盛りになっているわけでもない。
「どのあたりが胃袋なのか、ひじょーに気になる」
「この『病院』で品名気にしたらキリねーぞ。うまいからなんでもいいじゃねぇか。はふはふ……くぁーっ、おでんと日本酒。いいねぇ! 冬の定番!」
僕よりおっさんくさいな、テンのやつ。
「冬の定番といえば……テンも参加するんだよな。クリスマスの鍋パーティ」
「おう。恋人いないから変人と過ごすわ」
その変人のなかに僕が入ってないことを切に願う。
「鍋の他に何かするんだっけか? オレ詳しい話あんま聞いてねぇんだけど」
「えーっと、まずプレゼント交換会」
「あん? そんなのあるのか。早く言えよな」
「だって今日カカがいきなり言い出したことだもんよ。明日学校でなんか言ってくるんじゃないかな」
プレゼント交換会――各自でクリスマスプレゼントを持ち寄り、くじ引きで誰が誰のプレゼントをもらうか決める、というものだ。わりとクリスマス会の定番である。
「んー……なぁ。教師ってさ、生徒とか保護者にプレゼントとかやってもいいもんなのかね?」
「意外なとこで真面目だな、おまえ」
「バレなきゃいっか」
「そして適度に不真面目だな」
「そんなに褒めるな。何も出ねぇぞ」
「褒めてねー」
「あ、でもとっくりは出るぞ。ほれ」
「お、どもども」
お猪口を差し出し、テンに酒を注いでもらう……おっとっと。
「注ぎ返すぞ、お猪口だせ」
「おぅサンキュ。っとと。熱いな、手にかかったじゃねぇか」
「舐めろ」
「おっしゃ」
「どこを舐めようとしてる!?」
どこかはご想像に任せます。いやん。
「プレゼントねぇ。やっぱネタになるようなのがいいよな。トメにリボンつけて『はい、どうぞ』ってのはダメか」
「誰も喜ばんわ、そんなもんもらっても」
「そうは思わねぇが。まぁいいか。で、他には?」
「んー、特にないかな。メインは鍋でわいわいすることだし。あとは仮装くらいじゃないかな」
「あぁ、それがあったか……トメの配役はなんだ?」
そう、カカたちはご丁寧にも誰が何の仮装をするか決めていたのだ。仮装するテーマはサンタやトナカイなどの『クリスマスっぽいもの』
当然、僕にもその仮装する配役が回ってきたのだが……
「……ベル」
「は?」
「ベルだよ、ジングルベル」
テンはポカンとしたあと――多いに爆笑してくれた。
「ぎゃははははははははは! ベル! ベルの仮装! おし任せろ。オレが存分に鳴らしてやる!」
「鳴らすな! 多分痛いから」
「そうだよな! ベルだもんな! 叩かれたら痛いよな! 叩かれるのが仕事だもんな! 辛い仕事だなぁ給料いくらだ!?」
「うるせーよ多分薄給だよ」
あーもう、テンション上がったなテン……さすが日本酒、まわるのが早い。
「ははは……腹痛い……今叩かれたらやばいな、あぁ叩くなよ。オレはベルじゃねぇぞ、トメと違って」
「やかましい。そういうテンは何の仮装するんだよ」
笑い転げていたテンがピタリと動きを止めた。
今の爆笑が嘘のように暗い顔へと反転、ため息をつきながらテンは言った。
「雪だるま……の、下のほう」
「下のほう? って、それって単なる」
「そう、でっかい雪玉」
「……とすると、なにか? テンは当日、白いまん丸の球体になって登場するわけか?」
「……おう」
すました顔したテンが、でっかい大福みたいな格好……
「ぷふー」
「なんだそのバカにしたような笑いは! ああそうさ所詮オレは雪だるまの下さ! 『雪』が頭だとしたら単なる『だるま』さ! 目に筆いれたきゃ入れろや!」
「めでたいのか?」
「めでたいのはカカの頭だ!」
そら同感。
「ったく……まぁ鍋食わせてもらうからにはやるけどよ」
「転がしてやるよ」
「はん、そっちこそ鳴らしてやるから覚悟しろよ」
「酒なくなったな」
「ねーちゃん! もう一杯!」
やれやれ、ベルに雪だるま(下)か。楽しみだなぁクリスマス。いやぁホントに。
この後も僕らの話題はもっぱらクリスマスのことだった。もちろん色気のある話なんかなくてカカサエサユカの話ばっかりだったけど……なかなか楽しい飲みだったと言っておく。
ウコン飲んでなかったテンはまた潰れたけどね。
トメテン飲み話、なんか久々に書いた気がするなぁ。
あ、念のため。作中の「だるまの目に筆を入れる」っていうの、皆さんわかりますよね? 雪だるまじゃなくて、赤いだるまのほう。目が書かれていないだるまに願掛けして、祈願が成就されたら筆で目を書くっていう……テンポ悪くしたくなくて説明省いたので、ここでいちおう補完(笑