カカの天下3「おりじなる物語」
「トメトメー。ちょっと聞いて」
「おう妹。今日も小憎らしい顔してるな」
「ありがと。トメ兄もいつも通りダサいよ」
「放っとけ」
どうも、ダサいらしいトメです。清々しい挨拶をかわした僕たちは、一冊のノートを挟んで向き合いました。
「で、なんだこれ」
「いま学校の宿題でね、物語を書いて来いって言われてるの。それでね、考えてみたのを聞いてみてほしいの」
「おお。案外にまじめだな、おまえは」
算数なんかと違い、こういう宿題は子供ウケするものだ。僕も小学校のころに原稿用紙二枚以上で物語を書いてこいと言われ、十五枚ほど書いて先生を驚かせたことがある。
子供ながらに「この先生ぜったい読まねーな」と思っていたが案の定だった。その証拠が読んだ先生の感想。
『長くてすごいね』
大人の書く感想がこれかい、と当時は憤慨したもんだ。しかも追記がこれだ。
『疲れない?』
グレるぞ。
『私は疲れた』
知らないよ。
「それでね、斬新なのを考えたんだよ」
「ん、物語にそれは重要だな」
「じゃあ読むね。昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。ある日、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯へ行きました」
ふむ、案外普通だな。定番なところだと『おじいさんは街へガキをしばきに、おばあさんは宗教のシンポジウムへ心の洗濯へ行きました』くらいがインパクトありそうなんだが。しかもそんなのを子供が読むと威力倍増だ。
「おばあさんが川で洗濯していると、川から大きな桃がどんぶらこーと流れてきました」
む。桃太郎?
「まあ、なんて大きい桃でしょう。おばあさんは自分の身長くらいはある桃を片手で掴み、家まで持って帰りました」
おお、微妙に斬新だ。すげぇなババァ。
「おばあさんとおじいさんは桃を目の前にして、早速食べましょう、と桃を切りました。すると中から男の子が現れました」
うん、まんま桃太郎だ。斬新さがまったくないな……
「中身が桃の実ではなくて残念がったおじいさんとおばあさんは、仕方なくその男の子を食べました」
斬新だ!!
いや、残酷だ!!!!
「喉に包丁をつきたてると血が勢いよく吹き出して、二人はおいしそうにそれを」
「待った!! それダメ! 発表するな! 捨てなさいそんな話」
ああ、お母さん。カカはなんかエライ子供になっちゃったようです。え、僕のせいだって? そんなこと言わないでよママン。
「もう一個あるの」
ほっ……安心した。カカもさすがにこんなものを発表するわけにはいかないと、わかっているようだ。
「むかしむかし、あるところに浦島太郎という若者がおりました」
うんうん、もう普通のでいいよ。
「ある日、浦島太郎は亀を苛めている子供たちを見つけました」
そこで颯爽と登場する正義の味方。いいじゃんいいじゃん。
「なんか興奮した浦島太郎は子供も亀も食べました」
「だからなんで食べるのですか!!」
なにやってんの正義の味方! よくないじゃん!! そんなのが本当にいたら僕が飛んでいって倒してやるぞっ。
「そしてトメ兄も食べられるのでした」
「心の呟きに続きつけなくていいからっ。ったく、変なのばっかり書いて……もっとまともなのはないのか?」
「あるに決まってるじゃない。トメ兄は残酷なのが気に入らないんでしょ」
「ああ、そうだよ」
「まぁ女の子は血とか見慣れてるし」
「おまえはまだ見慣れてないはずであろうがチビ助!」
最近の小学校では教育上不適切な話題が大変多いので気をつけましょう(いやマジデ)。
「じゃ、ラスト。むかしむかし、おじいさんは竹の中から綺麗な女の子を引っこ抜きました」
なんかアバウトになってるなぁ。
「かぐや姫と名付けられた少女はどんどん成長し、やがて国一番の美人となりました」
うんうん、それを見初めた男がよってたかって貢いで大金持ちになるんだよなぁたしか。罪な女だね。
「おじいさんは興奮して寝ているかぐや姫にダイブしました。『ふーじこちゃーん!』」
そっちの食べるの意味できたか、罪すぎるぞかぐや姫。あと不○子ちゃんじゃないし。
「しかし布団はバサッと翻り、気づけばおじいさんは手錠でがんじがらめになっていました。『お宝はいただいていくわよ、ルッ○ァーン』と色っぽく言いながら、貢品を全てお金に変えてかぐや姫は逃亡しました、おしまい。よくできたでしょ?」
「……ああ、ある意味」
「そう言ってお兄ちゃんは疲れたようにため息をつきましたとさ。とても楽しかったです。私がめでたしめでたし」
そう言って、私は席に座った。
教室中の視線が私に向いている。なんか向こうでトメ兄も頭を抱えつつこちらを睨んでいる。
今日は授業参観。私の発表は大いにウケたようだった。いろんな意味で。
「百点! 花丸!」
「自分で言うな!」
「じゃあトメ兄言え!」
「誰が言うか!」