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カカの天下  作者: ルシカ
296/917

カカの天下296「やり遂げた男」

「こんちはー」


「タマとったらぁ!」


「とるなよ。今は一応ここの子なんだから」


「そだよね、タマちゃん女の子だし。取るタマもないよね」


「下品なこと言うな」


 初っ端からうちの妹が変なこと言いましてすいません、トメです。


 今日はタマちゃんに会いに、シュー君の家に遊びにきてみました。


「すいませーん! いないのかな」


「ということは」


 インターホンを押しても反応なし。しかし先日の経験を活かして庭を覗いてみると、やはりビンゴでした。


 そこではシュー君が……あれ、なんか仕事をやりとげた男の顔して縁側に座ってる。すすけてる。陰が差してる!?


「……あぁ、トメさんカカちゃん……ふふふ」


「ど、どしたのシュー君、ついにクビか!?」


「それとも今度は逮捕される側になったとか!?」


「シュー君にそんな根性ないだろ!」


「甘いねトメ兄。根性ないヤツのほうがキレて犯罪に走りやすいんだよ?」


「カカちゃん、よく知ってますね」


 パチパチパチ、と拍手するシュー君に照れるカカ。


「シュー君もここまでズダボロ言われてよく平気だね」


 思わずパチパチパチ。


「お姉さまで慣れてますからね。でも拍手はやめてください」


 ちぇ。


「それでシュー君、なんでそんなスッキリした顔してるの」


「終わったんですよ!」


「シュー君の人生が?」


「それはスッキリしたな」


「スッキリしすぎですから!!」


「そんなに出たのか? おめでとう」


「別に快便だったわけでもなくて!」


 スッキリという言葉を聞いてトイレを思い浮かべるのは僕だけじゃないはずだ。


「んじゃ結局どうしたのさ。あと、タマちゃんはどこいったんだ?」


「そうそう! 私のライバルは?」


 シュー君はなぜか含み笑いをすると立ち上がり、僕らをチョイチョイと手招きした。


 僕とカカは庭に靴を置いて縁側に上がり、先を行くシュー君についていく……するとやがて居間へと通された。


 そしてそこには……お菓子を貪り食う子供が!


「た、タマちゃん?」


「よー!」


 お菓子に囲まれて元気よく手を上げるその子は、間違いなく姉娘のタマちゃんだった。


「いいなーお菓子。私も食べるー!」


 突っ込んでいくカカを尻目に、僕はシュー君を見た。


 やりとげた男の顔……ま、まさか!


 僕の視線にニヤリと応えたシュー君は、タマちゃんの名前を呼んだ。 


「タマ様!」


 あ、でもやっぱ様なんだ。


「あい、パパー」


 ……お。


 おお。


 おおおおおお!!


「シュー君……あんた、やったな!」


 つまり、ここにあるお菓子で最後ということか!


「ふふふ……長かった、長かったよぅ……ぐずっ」


「何も泣かなくても……」


「じゃあアンタは何万円使ったら泣くんだ!?」


「ご、ごめんなさい!!」


 血走った目で詰め寄られて思わず謝ってしまった。こんな強気なシュー君初めて見た……よほど辛かったんだな、高級お菓子セット買うの。


 しかしそのかいあって、やっとタマちゃんはシュー君のことをパパと呼んでくれたのだ!


「これでタマ様がいつも通り、お姉さまのことをママと呼んでくれれば完璧です!」


「そ、そうだな……で、姉は?」


「やっほー! なにさシュー。わざわざ呼び出してなんか用かー!?」


 噂をすればなんとやら、早速姉の声が玄関のほうから聞こえてきた。行動早いなシュー君。


 間も無くドタバタと騒がしい足音が聞こえてきて、お待ちかねの姉登場だ。


「お姉さま! 今日はちょっと聞いてもらいたいことがあってお呼びしました!」


「なによ。珍しいヤクザでも捕獲したわけ?」


 珍しいヤクザってナニモンだ。


「いいえ、とにかく聞いてください! タマちゃん!」


「あい、パパー」


「聞きましたか!? タマ様が……タマ様が僕のことをパパと!」


「おー、おねーたまー」


 ……え?


 自分の耳を疑ったが……間違いない。


 いまタマちゃんは、姉のことを『おねえたま』と言ったぞ!?


「……シュー君が姉のことをいっつもお姉さまって呼んでるから、それに慣れちゃったとか?」


「あっはっは! なんだタマ、あんたあたしの妹になりたいわけ?」


「おーよ!」


「んじゃあんたのパパは、あたしにとってもパパなわけだ!」


「……あれ? どこがどうなって、あれれ?」


 予定外の展開に混乱しまくるシュー君。


「じゃパパ。あたしのど渇いたからジュースお願い」


「パパー、お菓子もっとー」


「え、は、はい!」


 呼び方変わっただけでその実なんにも変わってねええええ!!


「哀れな……」


「ほんとだねー、むぐむぐ」


「さっきから喋らないと思ったら菓子食ってたのか、カカ」


「これおいしいもん」


 そりゃそうだ。どんだけ高いと思ってるんだ。


「僕にもよこせ」


 うん、おいしい。


 むぐむぐ……まぁシュー君。所詮部外者の僕に言えることは一つだけだ。


 ガンバレ。


「パパー、僕もジュースー!」


「パパ、私もー!」


「はーい!!」


 子だくさんだねシュー君。むぐむぐ。

 というわけで、やり遂げた男の苦難は続きます。

 ってあれ、それってやり遂げてないってことじゃ……

 ま、まぁ! 第一関門は突破ということで! 

 お金を使っただけで意味はなかったけど! 

 

 ……あーっと。

 ガンバレ、シュー君。 

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