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カカの天下  作者: ルシカ
294/917

カカの天下294「出世皿」

「クリスマスはお鍋しようよ!」


 カカが急にそんなことを言い出したのは、休日の昼食が終わった直後でした。おそらく今見ていたテレビの影響でしょう。


 映ってた芸能人の人、ずいぶんとおいしそうに食べてたもんな。たしか豆乳鍋だったか。


 あ、言い忘れてたけど僕トメです。鍋業者の回し者じゃないですよ?


「なにもクリスマスに鍋しなくても……」


「コタツで皆でお鍋して、それからケーキ食べるの」


 ふむ、言われてみればそれもいいかもしれない。この間のコタツ騒動は少々騒がしかったものの、楽しかったのは事実だし。


「問題はコタツの大きさだな。基本は四人しか入れないし……どっかからもう一つ借りてくるかな」


 アテはないわけじゃないし。


「それじゃ決定だね。皆に連絡を!」


「するのはまだ待ちな。コタツを調達できるかまだわかんないし」


「じゃあとりあえず鍋だけでも用意しようよ。大きいやつ」


 む、なかなかいい提案だ。うちにはせいぜい四人分を入れるのが精一杯な鍋が一つあるだけだし、それも結構古いものだ。鍋パーティーをやるかどうかは置いといて、ここらで新しいのを買っておくのもいいだろう。


「思い立ったが吉日だし、もう買いにいっちゃうか」


「うんうん。立ったらキチキチだよ」


「なんかそれだと、立ったら思いのほかズボンがキツくて「太った?」って初めて気づくみたいな感じだな」


「例えがびみょー」


「うっさい」


 おまえもいずれ体験することになるんだよ!




 なにはともあれ、やってきました近所のホームセンターの鍋売り場。ここ確かでっかいのあったはず。


 さてさて、どんな鍋があるかな……って、あれ。カカが近くにいた店員に向かって走り出したぞ?


「サラさんだ!」


「あ! こ、この間はどうも失礼を!」


 ……ああ! この間、皿を買うときにお世話になった店員さんだ。でも確か、それってここからちょっと離れたデパートでの話、だよな。


「こんにちは。職場、変えられたんですか?」


「あ、はい……ちょっとたくさんなかなか色々ありまして」


 どんだけ何があったんだ。


「でも今はお鍋を一生懸命売っております!」


「じゃあサラさんじゃなくてナベさんだね」


 なるほど、冴えてるなカカ。


「じゃあナベさん、大人数用の鍋ってどれがいいですかね?」


「あ、あの! 私、別に職によって名前が変わるわけでは……」


「おっとすいません。つい」


 そうだよな、そんな出世魚みたいにポンポン名前が変わっちゃ困るよな。皿から鍋って出世した感じだから、つい。


「それに私、鍋だけじゃなくてお釜も扱ってますから」


「じゃあオカマさんだ!」


「えぅ!?」


 皿からお釜か。ずいぶんと出世したなぁ。


「わ、私は女ですぅ!! うぅ……!」


 そんな泣きそうになるなら自分からネタ提供しなきゃいいのに。


「うぅ……オカマにされるなんて、私の人生どん底です……」


「お釜の底ですか? あ、冗談ですよ冗談!」


「ほらほら、お仕事だよお仕事! 笑顔笑顔!」


 こういう冗談に免疫がないのか、素直に落ち込んでいるサラさんを慌ててなだめすかし、営業スマイルができるまでには回復させた……ふぅ、焦った。


「私、女ですよね?」


 や、営業スマイルでそんなん聞かれても。


「ですよね!?」


「えっ、は、はい! 髪は短いけど可愛いらしい女の子です!」


 あれ、なんか勢いで余計なこと言ったか僕。


「か、可愛い……ですか?」


「や、社交辞令ですよ」


「男なんてもう信じない!」


「あああ冗談ですって!」


 うー、冗談ばっかりな連中と過ごしてきたからか、ここまで本気な反応されると正直やりにくい……


「じゃあ、可愛いって本当ですか?」


「う、うん」


 社交辞令というのが正直ちょっとあったけど、アナウンサーでもやれば『美人』という文字が頭につくくらいには可愛いと思う。


「じゃあ今度、デートしてください!」


「……はい?」


 あれ、なにこの展開。


 いきなりそんなこと言われても困る……ああでも断ったらまた必要以上に落ち込むだろうし……あーもう! 助けてくれよカカ!


 ……カカ?


「カカ、なにしてんの」


「や、なんか恥ずかしい展開だから」


「恥ずかしい展開だと鍋かぶるのかおまえは」


「穴があったら入りたい」


 ああ、なるほど。でもな、おまえよりも僕のほうがよっぽど穴に入りたいと思うぞ? その鍋の穴じゃ小さすぎるからかぶらないけどな。


 もっとでかいお釜でもあればかぶるのに。お釜のどん底は深そうだから。


「えーと……じゃ、じゃあその話はあとでするとして、とりあえずお鍋を選んでくれますか?」


「はい!」


 鍋選びに熱中させて誤魔化してしまおうかな作戦!


 ……結論。


 無理でした。


 昨今の女性は強引だぁ……デート、デートかぁ……


「トメ兄、なに頭抱えてるの?」


「デートするのか? ホントに?」


「や、私に聞かれても」


 ですよねー。


 どうしよう。


 さて、いろんな意味で出世したサラさん。

 どうするトメ兄。

 どうするトメファン。

 さーどうなる笑

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