カカの天下289「メインは○○カツ」
「おかわり!」
「……よく食べるなコイツ」
「トメ兄、なに苦い顔してるの? 大丈夫だよ、きっと生えるから」
「哀れんだ視線で僕の頭を見るな!」
ヅラじゃないぞ、違うんだからな!?
ああ、取り乱してすいません、トメです。
まったくコイツは……さっきの説教、まったく堪えてないな。
「すいませんトメお兄さん、私もおかわりいいですかー?」
「わ、わたしもっ」
「はいはい」
一緒に食卓を囲んでいるサエちゃんとサユカちゃんのお椀にもご飯をよそってあげる。
「トメお兄さんの作るご飯はおいしくて、ついついご飯が進みますー」
「このカボチャの煮物なんて絶品です!」
「そ、そうか? たしかにそれは自分でもよくできたかと……」
実はその煮物が特別うまくいったから二人を夕食に招待した、というのは内緒だ。だってなんかおばちゃんくさいじゃん?
「おかわり!」
「食べるの早いねーカカちゃん」
「太るわよっ」
新たにご飯をよそったお椀を受け取ったカカは、猛然とご飯をかきこむ。
「もぐもぐもぐ……わらひうんろーひれるろん、むぐむぐむぐ」
「ヒレルロンってなにー? 怪獣の名前かな」
「カカすけが変身するの!?」
や、こいつは元から怪獣みたいなもんだし。
「むぎゃおー!!」
「口にご飯ふくんだまま無理に怪獣せんでいい!」
「白い火を吹きましたねー」
「火じゃなくてご飯よっ、きたなっ!」
まったくもう……掃除掃除っと。
「んぐんぐ、ごっくんちょ。えっとね。私運動してるもん、だから大丈夫、って言ってたんだよ」
「カカちゃん、いつもトレーニングしてるって言ってたもんねー。じゃあ特に何もしてない私とサユカちゃんは仲良く豚さんになるんだね」
「女の子に向かって豚って言うなっ!」
「メスぶたー」
「言い直すなっ!」
「ぶひー」
「わたしを指さして鳴くなっ!」
「おいしーなーこのサユカツ」
「それはトンカツよっ! わたしを勝手に揚げるなっ! ていうかわたしは豚じゃないって何度も――」
完全にサエちゃんのオモチャになってるな、サユカちゃん。楽しそー。
「女の子に豚がダメ……じゃあ男のトメ兄が豚なの?」
なにおぅ、僕の体型は標準だぞ。多分。
「と、トメさん……」
「ん? なにサユカちゃん」
「わ、わたし……トメさんが豚になっても」
え、豚決定なの?
「豚になっても心配いりません! だって……だって!」
瞳をうるませて、サユカちゃんは声高らかに言った。
「わたし、豚肉好きですもん!!」
「食べるんかい」
「はぅ!? こ、こんなはずではっ」
思わず速攻ツッコんだけど……なんであんなに落ち込んでるんだサユカちゃん。
「おかわり!」
「ホントよく食べるなカカ。まぁカカたちくらいの年齢なら、横よりも縦に伸びるんだろうけどな。カカなんかまだ背低いし」
「背は私も似たようなものですけどー。あ、そういえばトメさんもお姉さんも背が高いですよね」
「ああ、親の影響かな。だからカカも――」
「お母さんは小柄だそうですし、お父さんに似たんですねー。カカちゃんもそうだといいんですけど」
「え?」
や、うちは両親二人とも結構背があるんだけど。というか……
「サエちゃん、僕らの母さんの話なんかどこで」
「あー!! 私のコロッケがぁ!!」
僕の声はカカの悲痛な叫び声によってかき消された。
「床に落ちたわね。そんなに勢いよく食べるからよ、カカすけ」
「あぁ……私のコロッケが、人類の宝が!!」
やっすいなー人類。
「よしよし、カカちゃん。私のコロッケをあげるよー」
「さ、サエちゃん……ありがとう! サエちゃんはコロッケの神様だよ!」
庶民的な神様の誕生だ。いたら地味に嬉しいな。
「その代わりにサユカツを一切れちょーだい」
「いいよ。はい、サユカツ」
「おいしいねーサユカツ」
「君らさ……いい加減にしなさいっ」
んー、聞きそびれたな。サエちゃん、うちの母さんのこと知ってるのかな?
母さんの話はあんまり広まってほしくないんだけど……でもサエちゃんなら大丈夫か、うん。
さてさて、食事食事、っと。
「ん。たしかにこのサユカツはおいし――」「君らねっ、いい加減にわたしを食べてるみたいな言い方やめなさいよっ!」
ぴたり、と一瞬の静寂。
僕の「サユカツ」発言とサユカちゃんの「やめなさい」発言が見事に重なってしまった。
「そ、そうだよな。サユカちゃんを食べるみたいなこと言っちゃダメだよな」
「どうぞわたしを食べてくださいっ!」
「「「どっち」」」
思わず僕らの声が重なる。
や、カツは食べるけどさ。
今日のトメ家の夕食のメニューは次のようになっております。
ご飯、味噌汁、とんかつ(三切れずつ)、コロッケ(一つずつ)、カボチャの煮物(適当ずつ)、サラダ(コロッケととんかつをのせた皿に盛ってある)
一番おいしいのはカボチャの煮物です。