カカの天下288「もしも、それをとったら…」
「おじゃましまーす」
「おじゃましますっ」
「どぞどぞー」
招きネコじゃなくて招きカカです。招き招き。
というわけで、いつもの通りサエちゃんとサユカンを我が家に招いたわけですが、今日は一味違います。二人とも、夕飯をうちで一緒に食べる約束なのです。
「あー、寒かったー」
「お、サエちゃん初めて見る毛皮のコートだ」
「そうそー、新しく買ってもらったの」
「いいなー。ね、サユカン、可愛いよね」
「普通じゃないのっ? 高そうに見えるけど、そんなに高くないらしいしっ」
「と言いつつ、さっきから私のコートをなにかとさわさわ撫で回してるサユカちゃんでありましたとさー」
「ばれてたっ!? じゃなくてっ、わたしは別にコートのもふもふがぬいぐるみに似てるなーとか思ってないわよっ」
たしかにサユカンちのぬいぐるみの手触りに似てるかも。もふもふ。
「じゃ、コートじゃなくてサエちゃんを触りたかっただけか」
「そうそう!」
「いやーん」
「そうじゃなくて!」
どっち。
おっと、玄関先にずっといるのもなんだし、上がってもらわねば。
「はいはい、コートはそっちの隅にあるハンガーにでもかけて」
「あれ? カカちゃん、ここにかかってるのって毛皮のフード? なんか初めて見るー」
「ああそれ。トメ兄のヅラ」
ピタ。
サエちゃんとサユカンが一時停止した。
動かない。
……まだ動かない。
えと、リモコンは……あ、あったあった。再生ボタンをピ、とな。
「ヅ!?」
「ラー!?」
うぁビックリした! やかましいなぁもう。音量調節ボタンは……あれ、リモコンどこいった?
「ほほほほほんとなのカカすけ!!」
「ほほほ」
「ふざけた笑い方してないで答えてよー!」
おぉ、サエちゃんまで必死だ。
「うん、実はトメ兄の頭って……あ、ごめん、はい冗談です嘘です、だからそんな世界の終わりみたいな顔しないで二人とも」
あまりに二人がアレな顔するもんだからこれ以上冗談を言えなかった……そんなにショックなことなのかな。
興奮する二人を抑えつつ、ようやく居間へと上がってもらえた。ふーやれやれ。
「ふむ……じゃさ。もしも皆がヅラだったら」
「そんなとてつもなく悲惨なもしも話やめてよっ」
「まま、聞きなって。もしも皆がヅラだったら、それをとったらその頭に何があると思う?」
「脳みそー?」
「それヅラと一緒にいろいろとりすぎよっ!」
サエちゃんて時々怖いこと言うよね……シビれるわぁ。
「とにかくさ、ヅラをとったときのイメージって人によって違いそうじゃないかなーと思って」
「うーん、たしかにっ。カカすけならヅラの中にまたヅラとかありそう」
「サユカンはヅラの中にぬいぐるみ入ってそうだね」
「そのヅラどんだけでっかいのー」
やー、サユカンのポニーテールあたりにもっさりと何かいそうなんだけどな。
「サエちゃんのヅラとったらブラックホールとかありそうだよね」
「そんな、妖怪じゃないんだからさー。せめてお金とかにしてよー」
「それもなんかリアルでイヤよっ」
どっちもありそー。
「お姉とかは爆弾入ってるね、絶対。で、ヅラをはずすとタイマーが動くの」
「時限式っ!?」
「二秒後に爆発だねー」
「「はやっ」」
でもお姉のいつもの節操が無い爆発ぶりを見る限りだと、ありそうな気もする。
「じゃ……トメ兄のヅラとると、何があるかな」
うーん……と三人して首を傾げる。
「トメさんかぁ……なんだろ。『なんでやねん』ってでっかく書いてあるとか?」
「なんでやねん」
「あんま浮かばないねー」
うんうん、しっくりくるものが思いつかない。
「ただいまー」
「あ、帰ってきた」
私たち三人は目線を合わせ、そろって頷く。
「な、なんだよ三人とも。なんで僕を囲んでんの? なんでフォーメーションっぽいもの組んでんの? なんで目線が僕の頭をロックオン――」
「調査開始!!」
「うあああああああ!!」
結果。
トメ兄のヅラをはずすと、説教が出てきます。
夕食へ続く。
今回のヅラの話です。
や、コメディ書いてるからには一度はヅラを書かないと。
それだけで書いた話です(ぉぃ