カカの天下285「イメージちぇんじ!」
「サユカちゃん、こないね」
「珍しいねー」
ごちそうさま、カカです。
何がごちそうさまなのかと言うと、給食を食べ終わったということです。
しかしいつもなら給食の時間ですでに来ているはずのサユカンの姿がありません。午前中の休憩時間にも来なかったし。はて。
「たまにはこっちからサユカンのクラスいく?」
「いいねー。もう私に飽きたの!? って言ってやろー」
む、それ私が言おうと思ってたのに。
何はともあれサユカンのクラスへ移動だテッテコテ。これ移動の音ね。
「たのもー! お」
「あらー」
サユカンはすぐに見つかった。机に突っ伏して寝てる。
「ふむ、ちょいとそこの人」
「え、あ、はい」
私は近くにいた女子に声をかけた。
「サユカンどしたの? 寝てるけど具合でも悪いのかな」
「サユカン……あ、岸村さんですか」
そういやサユカンって岸村って苗字だったっけ。
「なにやらひどく寝不足のようでして……授業中も辛そうにされていましたし。給食を食べ終わるとすぐに眠ってしまわれましたよ」
そういうことか。登校時は一緒で喋ってたんだけど、寝不足だなんて気がつかなかった。
それにしても丁寧なしゃべり方をする子だ。メガネかけてるし髪は三つあみだし、敬語がぴったりハマッてる。
「誰も起こさないんだね」
「あ、その……言いづらいんですけど、岸村さん。あまりクラスに仲のよろしい方がいらっしゃらないので……わたくしとしては仲良くしていただきたいと思っているのですが、話しかけても冷たく辛口で返されるだけで……お恥ずかしい」
冷たく、ねぇ。照れてるだけだと思うんだけど。
「カカちゃん、ここは私達の出番だねー」
「うん、サユカンのイメージを変えてやろうじゃないの!」
これも友達の務めだ。うんうん。
「あんたも見ててね、委員長っぽい人」
「よ、よくわかりましたね、わたくしが委員長だと」
やっぱそうなんだ。まぁそれは置いとこう。
「さて、どうやってサユカンのイメチェンしよっか」
「委員長さんは、冷たい反応をする、って言ってたねー」
「あ、あの、わたくし委員長って名前じゃ」
「んじゃ略して委長。イチョウさんね」
「え、あの、なぜわたくしの胃腸が弱いって知って――」
知らんて。
「イチョウさんにとっては、冷たい、か……んじゃ」
サユカンの机の中にあったノートを拝借。そしてページを破ってちょこっと書き書きして、寝てるサユカンに貼り付ける。
サユカンの頭にでっかく輝く、『ほっかほか』の文字!
「これで冷たくないよね」
「そだねー。あと、辛口だって」
そいじゃ書き書き。
頭にもいっちょ貼り付ける。
ほっかほかサユカンに加わる、『甘口』の文字!
「冷たくて辛口……つまりはお高くとまってるように見られてるのかなー」
そいじゃこれだ。
ぺたり。
「「うーん」」
サエちゃんと二人で、寝ているサユカンの頭に貼られている紙を眺める。
『ほっかほか』『甘口』『安いよ!』
「サユカレーの宣伝?」
「『おいしいよ』っていう紙も書けばー?」
ピシャァン!!
「カレーはここかぁ!?」
教室の引き戸に悲鳴をあげさせる勢いでカレーの人が現れた。
ギロリン、とカレーの人は宣伝仕様のサユカンを見る。
「はんっ」
ピシャリ!!
「は、鼻で笑って帰っていった……」
「なにあれー」
「見なかったことにしよう。さ、次は何を――」
「何を、してるの」
……あら?
お目覚めですか、サユカン。
「何を、してるのっ!?」
「見なかったことにしよう」
「するなっ!! なによこの頭についてる紙はっ」
「まーまーサユカちゃん。きっとおいしいよ?」
「意味がわからん慰めしないでよっ!」
「あ、あの、岸村さん! わたくしもカレーは甘口が好みで」
「だから意味わからないってのっ」
「大丈夫サユカン。冷めても売れ残っても買ってあげる」
「200円でいいかなー?」
「何からツッコめばいいのわたしはーっ」
ぎゃーぎゃー騒ぐサユカンをなだめながら、私はイチョウさんにウインクした。
「ね、嬉しそうでしょ」
「そ、そうなのですか? はたして本当に喜ばれていらっしゃるのでしょうか」
喜んでるよ。
だっていつも最後には絶対、微笑んでくれるもん。
冷たく見えたり怒って見えたりするけど、根は素直で友達想いな女の子なんだから。
「うがーっ!!」
今は怪獣だけど。
というかサユカン。そんなに文句言うなら取ればいいのに、紙。
この後サユカちゃんは、カカとサエちゃんとイチョウさんの頭にも紙を貼りつけまくったのでした。
めでたし、めでたし。
どんな文字が貼られたかはご想像にお任せします。