カカの天下284「花占いを相手の前で」
『好きなんだ!』
『まぁ!』
『やっぱり別れよう』
『そんな!』
あ、これテレビの音ね。こんばんは、トメです。
夕飯も食べ終わり、カカと二人でテレビドラマを観てます。内容はビデオまで撮っていつも欠かさず観ている『初恋はやっぱり実らない? フラれ結ばれエンドレス』です。
そして今は主人公がヒロイン役の人に向かって花占いをしながら今後を決める場面。花びらを千切るごとに、告白してくっつく→別れる→告白してくっつく……を繰り返しています。
『どうしようもなく好きなんだ!』『私もよ!』『でもうまくいかないんだ』『くじけるわ!』『でも一緒にいると幸せなんだ!』『それが一番大事よ!』『でも一緒にいると苦しいんだ』『どっちよ!?』『苦しさを君と一緒に!』『望むところよ!』『苦しくて潰れそうなんだ』『諦めはやっ!!』
いつまで続くんだろこれ。
「花びら多いねー、あの花」
「どんだけひっぱるんだろな」
「でもこれはこれでおもしろいよね」
くっついたり離れたりがあまりに忙しくて飽きないのは確かだ。
「まったく……はっきりしない男だなぁ。あの主人公には色々と足りないものが多すぎるね!」
「へぇ、言うじゃないか。例えば何が足りない?」
「身長」
そりゃどうしようもねぇ。確かに女優さんと同じくらいだけど。
「あの主人公の男、何歳だっけ」
「18歳だな。で、ヒロインが25歳の設定」
「年齢も足りなかったか。ダメダメだね」
「そうか? カカは年下ダメなのか」
「だって七歳下なんだよ? 私だったらありえないね」
そら三歳はありえんだろう。
「デートするたびに泣かれそうだし」
だって三歳だもの。
「煮たら美味しいかもだけど」
それは山菜。
「あ、CM入った。ねぇねぇトメ兄」
「なんだ」
「初恋は実らないごっこしようよ」
それだけ聞くとすげー虚しいごっこ遊びだな。
「トメ兄と私が、交互に好きなところと嫌いなところを言い合うの。そうすれば兄妹の仲がより一層深まるよ!」
……マジデ?
ソレめっちゃ恥ずいんですけど。
「じゃあトメ兄から」
ぇ、ほんとにやんの?
「ほら、ドラマみたいに」
ま、マジなんスか……うぅむぅ……
「ぼ、僕はカカのおもしろいとこが好きだ」
「ぅげろ」
「まてやコラ」
自分から言っといてその反応はなんじゃい!
「ごめん、つい。じゃ私ね。えっと、トメ兄の面倒見のいいとこが好き」
次は逆のこと言えばいいんだな。
「カカの度が過ぎる思いつきは嫌いだな」
「トメ兄の口うるさすぎるとこが嫌い」
……む、なんだと?
「じゃあ僕はうるさく言っても言うこと聞かないカカが嫌いだ」
「なにおぅ、私はトメ兄の冗談の通じないとこが嫌い!」
「カカのそうやって開き直るところが嫌いだ!」
「人をわがままみたいに言わないでよ!」
「わがままだろうが! 最近の僕の作った食事! 味噌汁作れば『味濃い』って言うし、ちょっと同じメニュー続いたら『しつこい』って言うし、ちゃんこ鍋作ったら『どすこい』って言うし! これのどこがわがままじゃないと――はっ」
下唇を噛んで上目使いに睨んでくるカカの表情で気づいた。僕、何言ってるんだ?
「……ごめん、言い過ぎた」
「どすこい」
「それ怒ってんのか?」
「……どすこい!」
「あぁ怒ってる! ごめん! 悪かった」
「……ん。私も、ごめん。トメ兄のご飯、好きだよ?」
「え、あ、そ、そっか。僕も、その……」
カカにご飯食べさせるのが好き……ってなんか変か?
「えっと、なにはともあれ、兄妹の絆は深まったね!」
「そうと言えなくも、ないかな。ドラマの二人がしてる言い合いも、少しは役に立つってことか」
『次回、結局こじれてしまった二人はどうなるのか――こんな言い合いしてたら悪いところばっかり目立っちゃいますね。やるだけ無駄無駄。むしろマイナス。テレビの前の皆は真似しちゃイケナイゾ♪』
「「おい、そこの次回予告」」
僕らの感動を返せ。
人の悪いところはすぐ目につくのに、良いところはなかなか見つけにくい。よくある話ですね。
カカが言い出したごっこを続けるのはよほど仲のいい友達じゃないと案外難しそうです。
それに比べてテレビの中の人がやってるのは案外簡単そうですが(笑)や、本気でやるのは難しいか……うーん。




